指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『アッシイたちの街』

2019年02月04日 | 映画

アッシイとは部品のことで川崎の比喩であるそうだ。川崎で、家族的部品工場をやっている古谷一行の1981年の映画、大映映像である。

脚本が山内久なので、テレビの『若者たち』のように兄弟が怒鳴りあう芝居が多い。

     

三国連太郎から花沢徳衛、乙羽信子、中原早苗、野村昭子、そして江藤潤、奥田英二、友里千香子、新井康弘、森川正太、水島涼太、佐藤万里などの若者まで、個々の役者に芝居のしどころを作っているのは、非常に上手い。

監督が山本薩夫なので、民青的歌声が展開されるのかと心配したが、それは全くなく、ブルース・スプリングスティーン風のロックなのには安心した。

山本は、元は画家を目指していたとのことで画面作りも上手く、さまざまなドラマをさばいていく手腕は凄いと思う。

また、特別出演が沢村国太郎で、元教頭で会社の経理を任せるが、連鎖倒産に直面した時、現金を持ち逃げする役には驚く。

この中で、奥田英二は、自分の工場で不良品を作ってしまい、古谷の会社を苦境に陥れ、恋人の友里の前で、トラックに飛び込んで自殺してしまう。この頃は、まだチンピラ役者だったのだが、今や大スターになったとは!

最後、古谷の弟の江藤潤と一緒になる関根恵子は、まさに「掃き溜めにツル」と言うべき美しさだった。

よく考えると、最後に苦闘の末に倒産してしまう古谷一行は、戦後東宝争議の後、新星映画、中央映画など数多くの映画製作会社の倒産にもめげずに映画製作をしてきた山本薩夫のことのようにも思える。

よく山本薩夫は同じ東宝出の監督として、黒澤明と比較されることが多いが、晩年は5年に1本しか映画を作れなくなった黒澤に対し、メジャー会社で次々と大作を監督していた山本薩夫の方が凄いといえるだろう。

川崎市民ミュージアム



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