指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『誰のために愛するか』

2014年03月14日 | 映画

1971年に東宝で作られた酒井和歌子主演の映画、監督は出目昌伸で、脚本は鎌田敏夫だが、井手俊郎の潤色になっている。

銀行のOL酒井は、甲府から出てきて木造アパートで一人暮らし、恋人もいなくて同僚の赤座美代子とクリスマスだというのに、二人でコンパで飲む。

コンパと言うのは、1970年代に流行った西洋風のパブで、都会の若者で人気だった。中山千夏が、ルポで「まるで公衆浴場だ」と書いていたが、本当に汗と涙を流す場所だった。

さて、赤座は妻子ある男と付き合っていて、当初は酒井はそれを汚いこととして否定している。

だが、甲府では母親の森光子は、一人で居酒屋をやっていて、テニスクラブの経営者細川俊夫とは別居している。

そうした複雑な大人の関係を酒井は理解できないが、銀行の取引先の男で真面目な佐々木勝彦と普通の交際をするが、いつの間にか幼馴染で妻子ある医者の加山雄三とできてしまう。

酒井和歌子は、星由里子の後、加山雄三の相手役で、森谷司郎の『兄貴の恋人』は非常に良かったが、ここでも川崎のバーをやっている家の娘だった。

意外にも酒井は、都会の娘ではなく、地方出の女子が多いのはどうしてだろうか。

加山は、福島の会津の奥に赴任し、そこまで酒井は行くが、なんと妻の結城美恵子が子供と共にいる。結城は金持ちのわがまま娘で、田舎行きを嫌がっていたというのだが。

加山と別れて、一人で生きてゆくことを示唆して終わる。

『でんきくらげ』『やくざ絶唱』『しびれくらげ』『女体』『遊び』等で、常に自立する女性を描いてきたのは、大映の増村保造だが、出目もこの頃は女性にエールを送っていたのだ。

近年は、『霧の子午線』『玄海つれづれ節』等で失望しかない出目昌伸だが、この頃はまだ良かったのだ。

音楽が池野成だが、どこか武満徹を思わせるのが面白かった。

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1 コメント

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ほんの寝巻きで (nonoyamasadao)
2014-03-14 10:22:35
出目昌伸監督は、『俺たちの荒野』が、和製ロベール・アンリコみたいで、とてもよかった。デビューの『年ころ』も、抒情的なタッチでまぁまぁでしたが、すぐに失速したなぁって感じでした。
森谷司郎も『首』とか『兄貴の恋人』の方が、好きだった記憶があります。おふたりとも、黒澤監督の助監督さんでしたね。
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