狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

人の噂も七十五日

2006-09-28 15:07:22 | 怒ブログ
福島県の佐藤栄佐久知事が、県発注工事の談合事件で、実弟が逮捕されたのを受けて、辞職を表明したそうです。昨日の新聞では、9月の定例県議会の本会議で、実弟と元件土木部長が逮捕されても、自らの進退には言及しなかったので、議会各派が、辞意を表明しないなら不信任案提出も辞さない構えと書いてありました。これでは辞めざるを得なかったのでしょう。

 私は隣県の住民ですが、今から約13年前の1993年、これは弟でなくて、知事本人ですが、建設業者から9500万円の収賄容疑で逮捕され、辞任致しました。当選5期18年目の出来事も、まことによく似通っていると思って、特に感慨深いものがあります。
 こちらは容疑者が、2003年12月に、病気の為公判手続きが停止になり、翌年2004年9月肺癌の為死去致しましたので、一切は解明されない、うやむやのまま幕は閉じてしまいました。

今日の朝日新聞コラム『天声人語』ではこの福島県談合事件に触れ冒頭草野心平詩集から入っています。

《「阿武隈山脈はなだらかだつた」。福島県生まれの詩人、草野心平が「少年思慕調」と添え書きした詩「噛(か)む」の1行目だ。「だのに自分は。よく噛んだ。鉛筆の軸も。鉛色の芯も。/阿武隈の天は青く。雲は悠悠流れてゐた」と続く。▼幼い日々を顧みる詩句に、故郷の自然の豊かさとのどかさが溶け込んでいる。「小学校は田ん圃の中にぽつんとあり。春は陽炎につつまれてゐた」(『草野心平詩集』岩波文庫)》

こんな風に詩句に読まれた、阿武隈川流域の下水道工事で、県で一番の権力を持つ知事の弟が、談合を仕切っていたのだとすれば、長く県政をあずけてきた県民の気持は複雑だと思います。

しかし、わが県の場合を見てみますと、10年も経ちますと、もう事件は風化してしまって、すっかり忘れ去っています。隣県の福島県は、政治風土も、言葉遣いも私の県と似通ったものがあります。
これもおなじように、「人の噂も七十五日」という諺通りの、結果に終わるのではないでしょうか。

丁度私はこの詩集を持っておりました。
「噛む」の次はこんな詩が続いています。

   豊旗酒
八岐大蛇が飲んだのは猿酒だったか。
それとも人間がつくった紅い莢蒾(ガマズミ)の酒だったろうか。
などと他愛ないことを考へながら。
冷や酒を飲む。
二十世紀の後半で。
古事記の時代を遠想しながら。
(酒が酒を飲むとはよく言ったものだ。)
着物はなめした月の輪熊。
ちゃんちゃんこは青猪の皮。
なんて勝手にカッコをつけながら。
(酒が酒を飲むとはよく言ったものだ。)
二階のベランダにおんでたら。
ああ凄い。
ヴァミリオンの豊旗酒。
その真つ下の冨士は生憎見えないが。
コップをあげて豊旗の雲を映し。
七十五歳ごとガッと飲む。

草野心平は、いわき市名誉市民、日本芸術院会員、文化功労者のほか、昭和62年には文化勲章を受けています。