狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

続私の三冊

2006-09-05 05:52:17 | 本・読書

このアンケートは、何人の方を対照としたのかは書かれていないけれど、巻末の書名索引9ページを除いて、全頁を300通以上の回答が50音順に配列・編集されている。
 其の中で、政治家と目されるのは、衆参議員、知事、市長を含め、9人を数えるにしか過ぎないが、1987年(昭和62年)5月発行であるから、約20年前現役で活躍なられた方々ばかりである。現在では、已に死去されていたり、政界を引退された高齢者ばかりである事はやむを得まい。何故か保守系の政治家の名前は少ないのが気になるところだ。

●上田耕一郎(参院議員)
(1)『戦争と平和』(トルストイ/米川正雄訳/全4冊)
戦時下憑かれたように読み、人間の手になる最も壮大な叙事詩と思った。戦闘と自然の描写、人物像の魅力、今でも目に浮かぶ。時間を得て、今度はゆっくりと読みたい。
(2)『フォイエルバッハ論』(エンゲルス/松村一人訳)
哲学青年時代、ひそかに借りて読み、衝撃を受ける。私が出会った最初のマルクス主義文献。自然と人間、哲学と歴史との関係、ヘーゲルを越えた新しい世界観を展開。
(3)『帝国主義』(レーニン/宇高基輔訳)
ノートを取り、くり返し読み、今も参照する、私にとっての〝生きた古典〟である。日本資本主義が踏み込んだ今日の多国籍企業時代にも、思考と分析の導きの糸となっている。

●小笠原貞子(参院議員)
(1)『上田敏全訳詩集』(山内義雄・矢野峰人編)
戦争が何故、誰によっておこされるかも知らず、けれど軍の縫製作業をさせられていた女学校時代、図書室をあさって読んだ中の一冊。「山のあなた」をおもい慰められていた。
(2)『きけわだつみのこえ―日本戦没学生の手記』(日本戦没学生記念会編)
国家権力は己の生命をうばう。何の為の戦争か。だが避けることの出来ないいま、どう死と対決するか、若者たちのこえを、いまこそまた読み返すときがきている。
(3)『啄木歌集』
貧困の中で、骨肉の葛藤の中で、時代閉塞の現状へすすんだ、短歌。生命そのままの日々から生まれた短歌。戦時下の女学校時代から、恐らく詩に到る日まで私の枕元にあるだろう。

●菅直人(衆院議員)
(1)『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』(芥川龍之介)
芥川の研ぎ澄まされた感覚が私は好きだ。
「芋粥」は貧乏貴族の行動と気持の動きを通して、武士階級の勃興期の時代と人間の感情を巧みに描写した短編で、印象深い。
(2)『赤と黒』(スタンダール/桑原武夫・生島遼一訳/全2冊)
この本の題名は、軍服の赤と、僧服の黒からきている。ナポレオン後のフランスに生きる青年ジュリアン・ソレルの野心的生き方に反発を感じながらお何か惹かれるのである。
(3)『職業としての政治』(マックス、ヴェーバー/脇圭平訳)
政治の持つ〝結果責任〟を強烈に説くこの本は、政治を考える上での一つの原点である。動機の純粋性だけで結果を正当化できないところが、政治のやっかいな性格(ところ)である。

●長洲十二(神奈川県知事)
(1)『貧乏物語』(河上肇)
17歳で、『心貧乏物語』に接して以来、私は河上肇の数々の本のひそかな愛読者であった。先生のヒューマニズムが、社会問題に、私の目を開かせてくれた。
(2)『万葉集』(佐々木信綱編/全2冊)
戦時中、海軍士官として任地に赴く鞄の中にしのばせた本の1冊が『万葉集』。思えば、人間はこの素晴らしい歌集も生んだとの感慨が、心の荒廃から私を救っていた。
(3)『レ・ミゼラブル』(ユーゴー/豊島与志雄訳/全4冊)
少年期、世界文学への扉を開いてくれたのは『レ・ミゼラブル』。この大作で私は読書の楽しみを知っただけでなく、「人間への信頼」と「時代のドラマ」とを学んだように思う。