65歳のアンゲラ・メルケル首相が、公式の場で最近2度も体を震わせる事態が起きたという。健康が心配である。
私が彼女を評価するのは、東日本大震災で福島第一原子力発電所がメルトダウンしたのを見て、速やかに、ドイツのすべての原子力発電の廃止を決断したこと、また、アメリカやフランスのシリア攻撃に同調せずに、シリアからの大量難民の受け入れを決断したこと、などである。
彼女には、学校の水泳の授業で飛び込みを指示されたが、なかなか、飛び込まなかったという逸話がある。45分間も飛び込み台に立ち続け、授業終了のベルが鳴ったとき、ようやく飛び込んだという。
彼女の性格を、臆病とも慎重とも言うことができる。
私なら、授業終了のベルが鳴っても飛び込まない。嫌なものは嫌だ。教師の命令に絶対従わない。したがって、彼女を妥協的とも言えるし、柔軟だとも言える。
彼女は学校の成績は一番だったという。
彼女の父はルター派の牧師で、母は学校教師で社会民主党員(SPD)でもあった。父は、戦後(1954年)、生まれたばかりのアンゲラを連れて、西ドイツから、共産主義政権の東ドイツに、教区の牧師として移住してきた。BBC番組は、この環境が、本心を誰にも明かさないという彼女の用心深い性格をはぐくんだとする。
彼女は大学で量子化学を専攻し、1986年に物理学博士を取得した。
ベルリンの壁が崩壊した後、1991年、彼女は、政界に打ってでて、キリスト教民主同盟(CDU)の連邦代表代理に就任した。番組では、このときから、彼女が、西ドイツ首相のヘルムート・コールに気に入られ、コールの“mädchen(女の子)”と呼ばれていたという。日本の「小泉チルドレン」とか「安倍チルドレン」とか、にあたる。
コール政権が1998年の連邦議会選挙で歴史的な大敗をし、野党に転じ、CDUの汚職問題が次々と明るみ出た。彼女は、汚職と無関係のリリーフ、つなぎ役として、2000年にCDU党首に選任された。番組は、彼女が、単にコールのお気に入りというだけでなく、ビジョンもイデオロギーもない、人の意見をよく聞く実務家と、他の政治家が思っていたからという。
ところが、彼女の率いるCDUが、2005年の連邦議会選挙で勝ち、ドイツ初の女性首相、初の東ドイツ出身の首相となる。
彼女は、国民世論調査を丁寧に分析し、それを最大限に生かす巧みな政治家とみなされやすい。また、他党の政策を先取りし、選挙に勝つ、ビジョンもイデオロギーもない政治家と、みなされることもある。
私は、そうではない、と思っている。彼女のイデオロギーは人道主義であると思う。弱い者に敬意を表し、弱い者の生きていく場を奪わないのである。
彼女は、欧州政治の調整役として、ギリシア危機、リーマンショックを軟着陸させた。いっぽうで、原発廃止や難民の受け入れでは、ドイツ国民の意見を聞かず、昨年、地方選挙でのCDUの負けを招いたと批判される。が、人道主義からくる決断だ、と私は思う。だからこそ、SPDの弱者救済策をとりこみ、連立を組めたのだと思う。
彼女は、首相の座について13年になり、トランプ大統領の強引な外交政策にも同調せず、欧州連合(EU)の安定を守ってきた。
昨年の秋、CDU党首をやめ、任期いっぱい首相職に専念することに決断したのは、ドイツや欧州や世界のために、まだまだ、やるべきことが残っていると判断したのであろう。
私は、アンゲラ・メルケルに、できたら、2022年にドイツの全原発が停止するのを首相として見届けてほしい。
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