猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

被告人の主張、津久井やまゆり園殺傷事件第9回公判

2020-01-29 23:16:49 | 津久井やまゆり園殺傷事件

1月27日 横浜地裁で、津久井やまゆり園殺傷事件の第9回公判があった。弁護側の被告人質問と検察側の被告人質問が行われた。これまでに、2回の審理がキャンセルされ、来週の2月4日の審理もキャンセルされることになった。弁護側が被告の発言の機会をへらすために、このようなキャンセルが続くのではないかの疑義を覚える。

第9回公判のメディア各社の報道は非常に簡単なものになっている。それでも、総合するとかなりの情報が得られる。

27日に、弁護側の被告人質問で下記のやりとりがあった。

(1)被告は「匿名裁判というのが、重度障害者の問題を浮き彫りにしている。(重度障害者は)人の時間と金を奪っている。施設に障害者を預けているのは家族の負担になっている証拠だ」と述べた。

裁判で被害者を匿名にすることに、確かに重度障害者への差別意識がうかがえるが、匿名に反対している被害者の遺族もいる。裁判所が被害者を匿名にしたことが、「施設に障害者を預けるのが家族の負担になっている証拠」とは言えない。

(2)「大麻の使用によって思い浮かんだ一番良いアイデアは何か」との質問に被告は「重度障害者を殺害した方が良いということ」と答えた。

アメリカ精神医学会の診断マニュアルDMS-5には「大麻誘発性精神病障害は大量の大麻使用直後に発症し、通常、被害妄想、顕著な不安、情動不安定、離人感を伴う。障害は通常1日以内に寛解するが、症例の中には2~3日持続するものもある」とある。

被告の「事件の3年ほど前から大麻を週2~4回ほど吸っていた」という程度で、「意思疎通が取れない人を安楽死さすのが正義である」という信念をもったという仮説は無理である。

いっぽう、検察側の被告人質問で下記のやりとりがあった。

(3)被告は2012年12月から3年あまり園で働いた。その経験から「重度障害者はいらない」という差別意識を抱くようになったとのべた。
 被告によると、障害者への同僚の接し方は「口調が命令的で、人として扱っていない」と思ったという。流動食の利用者もおり、「人の食事というより、流し込むだけの作業に見えた」。自らも食事を食べさせる際に利用者の鼻を小突いたことがあり、「しつけと思ったが改善しなかった」と話した。

津久井やまゆり園にどんな問題があったかは、別途、神奈川県知事のもとに委員会を組織し、調査が進められている。

(4)事件を起こした動機について、「重度障害者を殺した方がいいのだと、(社会に)気づいてもらえればと思った」と話した。会話など意思疎通のできない入所者を「できるだけ多く、殺そうと思いました」と説明した。

(5)意思疎通できないと どうやって判断したのかの問いに、被告は「部屋の様子やその人の雰囲気で判断した。部屋に何もないと、自分の考えを伝えられない人だと思った」と述べた。

(6)被告が拘束した職員から「入所者に心はあるんだよ」と言われ、「居心地がいい気はしなかった」が、それでも「人の心とは言えない」と思い、犯行を続けたと述べた。

(7)通報を恐れ、逃走を決意したが、それまでに刺した人数が少ないと思ったため、意思疎通可能かどうかを確かめずに刺したという。

(8)事件後に自ら出頭することで、そうした動機が「(社会に)伝わりやすいと思った」と述べた。なぜ伝わりやすくなるのか尋ねられると、「(自分が)錯乱していないことが(警察にも)分かるから」とした。

(9)「なぜ体を鍛えていたんですか」の問いに、「職員と取っ組み合いになると思っていた」と答えた。また、「職員の少ない夜勤を狙った」「拘束しやすい女性職員のいるホームから狙った」とも語り、職員を拘束する目的で拘束バンドやガムテープを事前に購入したことも含め、周到に準備した上で決行したことを明らかにした。

   ☆   ☆

本件と同じような思想信条からくる大量殺人は、2011年7月22日にノルウェーで起きた。

白人によるヨーロッパ社会が移民によって壊される、移民を受け入れるノルウェー労働党党員を殺すのが正義だという信念から、32歳のブレイビク(Anders Behring Breivik)が77人を殺害した。
首都オスロの政府庁舎で8人を爆死させ、ウトヤ島でノルウェー労働党青年部の集会に集まった10代の青年69人を射殺した。

このとき、極右思想が広まるとまずいと理由で、裁判を非公開にし、しかも、ブレイビクは統合失調症だとして、無罪にし、精神病院に閉じ込めようとした。被害者の遺族がこれに抗議し、結局、2012年に、殺人罪としての最高刑の判決が出された。ノルウェーでの刑法では、それが、禁錮最低10年、最長21年であった。

今回と同じく、ブレイビクは一貫して裁判で自分は統合失調症でないと主張した。

裁判所が極右思想が広まるとまずいとした根拠は、ヒトラーが、ミュンヘン武力革命で起訴されたとき、裁判をユダヤ人排斥思想の宣伝の場に使ったことによる。思想信条による確信犯を裁くとき、検察の弁舌能力がとても大事になる。うまくいけば、検察の弁舌で社会の差別意識を打ち壊すこともできると思う。公判は公開で被告との論戦の場にしないといけない。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿