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極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

レジリエンス巡礼の明日

2013年04月26日 | 時事書評

 

 

 

 

【レジリエンスを巡る話題】

橋梁(きょうりょう)株が軒並み高く、ショーボンドホールディングスが連日で高値を更新し、横
河ブリッジホ
ールディングスは 06年2月以来の4ケタ乗せ、日本橋梁は26円高(12.7%高)の231
円ピーエス三菱は57円高(11%高)の501円まで買われ、宮地エンジニアリンググループ、駒井ハル
テックなども堅調に。これは
高速道路を管理する東日本高速道路など3社は、橋の架け替えやトン
ネルの改修など老朽化対策に、今後100年間で最大10兆6000億円が必要になるとの試算を公表したた
め株式市場では値動きの良い橋りょう株を中心に人気化したためだという。

その経緯は、東日本、中日本、西日本の高速道路会社3社の有識者委員会が25日、高速道路の老朽
化対策に関する中間取りまとめを発表。試算での必要な更新・修繕費用が、今後百年間で最大10兆
6千億円(おおよそ国家予算の10%、年率 0.1%
)にのぼる。高速3社によると、対象は主に橋梁
やトンネルなどの更新・修繕で、必要な金額は最低でも5兆4千億円で、うち更新(建て替え)に
2兆円、修繕(改修など)に3兆4千億円。ただ今後の検証で、更新・修繕に要する費用がかさみ
追加費用で5兆2千億円が必要になる可能性がある」(長尾哲・東日本高速道路会社常務)ため、
最大で10兆6千億円になるという。そこで 財源を捻出するには、(1)高速道路建設に伴う有利
子負債の償還期間の延長や料金引き上げ、(2)民間資金の活用などが想定されるが、詳細は「国
交省などと十分検討・調整する」方針



記事によると高速3社の高速道路は、今年3月末時点で合計で約8700キロメートル。うち、開通後
30年以上を経過した区間は約4割(約3200キロメートル)を占める。2050年には、開通後50年以上
の区間が約8割となり、劣化するリスクが大きくなる高速道路の老朽化対策をめぐっては、首都
圏を主要営業エリアとする首都高速道路会社(東京都千代田区)が1月、有識者会議の最終提言で、
管内の高速道の大規模更新・修繕に必要な費用を7900億~9100億円と試算した。今回の3社による
取りまとめは中長期的な維持管理が目標で、昨年12月の中央自動車道笹子トンネル(山梨県)で起
きた天井板崩落事故の教訓も踏まえ、今秋をめどに最終提言をまとめる。



しかし、「高速道路無料化」(『原理なき高速道路無料化批判』)や『新自由主義論Ⅰ』(藤井聡
久米功一松永明中野剛志らの『経済の強靭性(Economic Resilience)に関す
る研究の展望』(
タブーと経路依存性』))で展開してきたわたし(たち)の立場ではこれは社会的価値のある有
効需要-仕組みとしての対費用効果測定を前提として-である以上、税で賄うことも利用料金の値
上げで対応することの無用性を指摘しておしておこう。なんだったら、藤井聡らの主張しているよ
うな『レジリエンス国債』発行で対応しもよいだろう。それにしても、浮かれたような株価上昇、
アホなような現象は-これまでの失政を考えると同情もあるが-余り頂けないが。

 

【化合物3接合型太陽電池セルで世界記録を更新】

シャープは、3つの光吸収層を積み重ねた化合物3接合型太陽電池セルで、世界最高変換効率とな
37.9%を達成と発表。それによると、NEDO(産業総合技術研究所)の「革新的太陽光発電技術研
究開発」テーマの一環として開発に取り組んだ結果、産業技術総合研究所(AIST)において、世界最
高変換効率を更新する測定結果を確認。この
化合物太陽電池セルは、インジウムやガリウムなど、
2種類以上の元素からなる化合物を材料とした光吸収層を持つ変換効率の高い太陽電池開発した。
化合物3接合型太陽電池セルは、インジウムガリウムヒ素をボトム層として、3つの層を効率よく
積み上げて製造する独自の技術を採用。
今回、ボトム層を形成するインジウム・ガリウム・ヒ素の
組成比を最適化することで、太陽光の波長に合わせてより効率的に光を吸収でき、世界最高変換効
率の37.9%を達成する。



この勢いでは40%超えももうすぐだ。実用段階での40%ならこれはもう笑うしかないだろう。地球
温暖化(人為説による大規模気候変動)問題が解決できるだけでなく、貧困と収奪の歴史に終止符
を打つことになるだろう(そういえば『歴史の終焉』っていう本もあったけ。あれと同じようなも
のかもしれない)。なによりの日本人が、それを実現し世界に貢献できるから、日本国憲法の前
文を現実のものにするというわけだ。

それに忘れるところだったが、原子力発電とは異なり、デジタル革命の第二基本則のダウンサイジ

ングが働き、表示面積が怖ろしく小さくなり、この段階では集光レンズがコンパクトになりさらに
変換効率は50%超えも容易く実現する。しかし、これからが正念場ということになる。なんと仕合
わせなことか!?
 


  

  死の間際をさすらったその半年近くのあいだに、つくるは体重を七キロ落とした。まともな
 食事をとらなかったのだから、当然といえば当然のことだ。小さい頃からどちらかといえばふ
 っくらとした顔立ちだったが、今ではすっかり痩せ絹った体型になっていた。ベルトを短くす
 るだけでは足りず、ズボンを小さなサイズのものに買い換えなくてはならなかった。裸になる
 と肋骨が浮かび上がり、安物の鳥かごのように見えた。姿勢が目に見えて悪くなり、肩が前に
 傾いて落ちていた。肉を落とした二本の脚はひょろりとして水鳥の脚のようだ。これじゃ老人
 の身体だ。久方ぶりに分身鏡の前に裸で立って、彼はそう思った。あるいは今にも死にかけて
 いる人のようだ。 

  死にかけているように見えたとしても、それは仕方ないかもしれない。彼は鏡の前で自らに
 そう言い聞かせた。ある意味では、おれは実際に死に瀕していたのだから。木の枝に張りつい

 た虫の抜け殼のように、少し強い風が吹いたらどこかに永遠に飛ばされてしまいそうな状態で、
 辛うじてこの世界にしがみついて生きてきたのだから。しかしそのことが--自分かまさに死
 にかけている人のように見えることが--つくるの心をあらためて強く打った。そして彼は鏡
 に映った自分の裸身を、いつまでも飽きることなく凝視していた。巨大な地震か、すさまじい
 洪水に襲われた遠い地域の、悲惨な有様を伝えるテレビのニュース画像から目を離せなくなっ
 てしまった人のように。

  おれは本当に死んでしまったのかもしれない、つくるはそのとき何かに打たれるようにそう
 思った。去年の夏、あの四人から存在を否定されたとき、多崎つくるという少年は事実上息を
 引き取ったのだ。その存在の外様だけはかろうじて維持されたものの、それも半年近くをかけ
 て大きく作り替えられていった。体型も顔つきも一変し、世界を見る目も変わった。吹く風の
 感触や、流れる水音や、雲間から差す光の気配や、季節の花の色合いも、以前とは違ったもの
 として感じられる。あるいはまったく新規にこしらえられたもののように思える。ここにいる
 のは、こうして鏡に映っているのは、一見して多崎つくるのようではあるが、実際はそうじゃ
 ない、それは中身を入れ替えられた、多岐つくると便宜的に呼ばれている容器に過ぎない。彼
 がまだその名で呼ばれているのは、とりあえずほかに呼びようもないからだ。

  その夜つくるは不思議な夢を見た。激しい嫉妬に苛まれる夢だった,それほど真に迫った夢
 を見だのは久しぶりのことだ。

  実を言えば、つくるはそれまで嫉妬という感情が実感として理解できなかった。もちろん嫉
 妬がどういう成り立ちのものなのか、頭の中ではいちおうわかっている。たとえばどうやって
 も自分が手に入れることができない才能なり資質なりポジションを、誰かが持ち合わせている
 ときに、あるいはいとも簡単に手に入れている(ように見える)ときに感じる感情。たとえば
 自分が恋い焦がれている女性が、他の男の腕に抱かれていると知ったときに感じる感情。うら
 やましさ、ねたましさ、悔しさ、やり場のないフラストレーションと怒り。

  しかし実際にはつくるはそんな感情を、生まれてから一度も体験したことがなかった。自分
 の持ち合わせていない才能や資質が欲しいと真剣に望んだことはなかったし、誰かに激しく恋
 した経験もなかった。誰かに憧れたこともなかったし、誰かをうらやましいと思ったこともな
 かった。もちろん自分に不満がないわけではない。不足しているものがないわけではない。も
 し求められれば、それらを列記することもできる。長大なリストにはならないかもしれないが、
 二、三行で済むというものでもないはずだ。しかしそれらの不満や不足は、あくまで彼の内部
 で完結しているものだった。どこか違う場所にわざわざ足を運んで求めなくてはならない類の
 ものではない。少なくともこれまでのところはそうだった。
 
  しかしその夢の中で、彼は一人の女性を何より強く求めていた。それが誰なのかは明らかに
 されていない。彼女は存在でしかない。そして彼女は肉体と心を分離することができる。そう
 いう特別な能力を持っている。そのどちらかひとつならあなたに差し出せる、と彼女はつくる
 に言う。肉体か心か。でもその両方をあなたが手に入れることはできない。だから今ここでど
 
ちらかひとつを選んでほしいの。もうひとつは他の誰かにあげることになるから、と彼女は言
 う。しかしつくるが求めているのは彼女のすべてなのだ。どちらか半分を誰か別の男に渡すこ
 となんてできない。それは彼にはとても耐えられないことだ。それならどちらも要らない、と
 彼は言いたい。でもそれが言えない。彼は前にも進めず、後ろにも引けない。

  そのときにつくるが感じたのは、身体全体を誰かの大きな両手できりきりと絞り上げられる
 ような激烈な痛みだった。筋肉が裂け、骨が悲鳴を上げた。そこにはまた、すべての細胞が干
 上がってしまいそうな激しい乾きがあった。怒りが身体を震わせた。彼女の半分を誰かに渡さ
 なくてはならないことへの怒りだ。その怒りは濃密な液となって、身体の髄からどろりと搾り
 出された。肺が一対の狂ったふいごとなり、心臓はアクセルを床まで踏み込まれたエンジンの
 ように回転速度を上げた。そして昂ぶった暗い血液を身体の末端にまで送り屈けた。
 
  彼は全身を大きく震わせながら目を覚ました。それが夢であったことに気づくまでに時間が
 かかった。汗でぐっしょりと濡れたパジャマをむしり取るように脱ぎ、タオルで身体を拭いた。
 しかしどれだけ強くこすっても、そのぬめぬめとした感触はあとに残った。それから彼は理解
 した。あるいは直観を得た。これが嫉妬というものなのだと。愛する女の心か肉体か、どちら
 かを、あるいは場合によっては両方を、誰かが彼の手から奪い取ろうとしている。
 
  嫉妬とは--つくるが夢の中で理解したところでは--世界で最も絶望的な牢獄だった。な
 ぜならそれは囚人が自らを閉じ込めた牢獄であるからだ。誰かに力尽くで入れられたわけでは
 ない。自らそこに入り、内側から鍵をかけ、その鍵を自ら鉄格子の外に投げ捨てたのだ。そし
 て彼がそこに幽閉されていることを知る者は、この世界に誰一人いない。もちろん出ていこう
 と本人が決心さえすれば、そこから出ていける。その牢獄は彼の心の中にあるのだから。しか
 しその決心ができない。彼の心は石壁のように硬くなっている。それこそがまさに嫉妬の本質
 なのだ。
 
  つくるは冷蔵庫からオレンジジュースを出し、グラスに何杯も飲んだ。喉がからからに渇い
 ていた。そしてテーブルの前に座り、少しずつ明るくなっていく窓の外を眺めながら、感情の
 大波に打たれて動揺した心と身体を落ち着かせた。この夢はいったい何を意味しているのだろ
 う、と彼は考えた。予言なのだろうか。それとも象徴的なメッセージなのだろうか。それは何
 かを自分に教えようとしているのだろうか? あるいは自分でも知らなかった本来の自分が、
 殼を破って外にもがき出ようとしているのかもしれない、とつくるは思った。何かの醜い生き
 物が孵化し、必死に外の空気に触れようとしているのかもしれない。
 
  あとになって思い当たったことだが、多崎つくるが死を真剣に希求するのをやめたのは、ま
 さにその時点においてたった。彼は全身鏡に映った自らの裸の肉体を凝視し、そこに自分では
 ない自分の姿が映っていることを認めた。その夜、夢の中で嫉妬の感情(と思えるもの)を生
 まれて初めて体験しか。そして夜が明けたとき、死の虚無と鼻先をつきあわせてきた五か月に
 わたる暗黒の日々を、彼は既にあとにしていた。

  たぶんそのとき、夢というかたちをとって彼の内部を通過していった、あの焼けつくような
 生の感情が、それまで彼を執拗に支配していた死への憧憬を相殺し、打ち消してしまったのだ
 て彼がそこに幽閉されていることを知る者は、この世界に誰一人いない。もちろん出ていこう
 と本人が決心さえすれば、そこから出ていける。その牢獄は彼の心の中にあるのだから。しか
 しその決心ができない。彼の心は石壁のように硬くなっている。それこそがまさに嫉妬の本質
 なのだ。

  つくるは冷蔵庫からオレンジジュースを出し、グラスに何杯も飲んだ。喉がからからに渇い
 ていた。そしてテーブルの前に座り、少しずつ明るくなっていく窓の外を眺めながら、感情の
 大波に打たれて動揺した心と身体を落ち着かせた。この夢はいったい何を意味しているのだろ
 う、と彼は考えた。予言なのだろうか。それとも象徴的なメッセージなのだろうか。それは何
 かを自分に教えようとしているのだろうか? あるいは自分でも知らなかった本来の自分が、
 殼を破って外にもがき出ようとしているのかもしれない、とつくるは思った。何かの醜い生き
 物が孵化し、必死に外の空気に触れようとしているのかもしれない。
 
  あとになって思い当たったことだが、多崎つくるが死を真剣に希求するのをやめたのは、ま
 さにその時点においてたった。彼は全身鏡に映った自らの裸の肉体を凝視し、そこに自分では
 ない自分の姿が映っていることを認めた。その夜、夢の中で嫉妬の感情(と思えるもの)を生
 まれて初めて体験しか。そして夜が明けたとき、死の虚無と鼻先をつきあわせてきた五か月に
 わたる暗黒の日々を、彼は既にあとにしていた。
 
  たぶんそのとき、夢というかたちをとって彼の内部を通過していった、あの焼けつくような
 生の感情が、それまで彼を執拗に支配していた死への憧憬を相殺し、打ち消してしまったのだ
 ろう。強い西風が厚い雲を空から吹き払うみたいに。それがつくるの推測だ。
  あとに残ったのは諦観に似た静かな思いだけだった。それは色を欠いた、凪のように中立的
 な感情だった。空き家になった古い大きな家屋に彼は一人ぽつんと座り、巨大な古い柱時計が
 時を刻む虚ろな音にじっと耳を澄ませていた。口を閉ざし、目を逸らすことなく、針が進んで
 いく様子をただ見つめていた。そして薄い膜のようなもので感情を幾重にも包み込み、心を空
 白に留めたまま、一時間ごとに着実に年老いていった。

  多岐つくるは徐々にまともな食事をとるようになった。新鮮な食材を買ってきて、簡単な料
 理を作って食べた。それでもいったん落ちた体重は僅かしか増えなかった。半年近くの問に彼
 の胃はすっかり収縮してしまったようだった。一定量以Lの食事をとると嘔吐した。また朝の
 早い時刻に大学のプールで泳ぐようになった。筋肉が落ちたために、階段を上るのにも息切れ
 するようになっていたし、彼としてはそれを少しでも元あった状態に笑さなくてはならなかっ
 た。新しい水着とゴーグルを買って、毎日千メートルから千五百メートルをクロールで泳いだ
 そのあとジムに寄って、黙々とマシンを使った運動をした

  改善された食事と規則的な運動を数か月続けたあとで、多岐つくるの生活はおおむねかつて
 の健康的なリズムを取り戻した。再び必要な筋肉がつき(以前の筋肉のつき方とはずいぶん違
 っていたが)、背骨がまっすぐに伸び、顔にも血色が戻ってきた。朝目覚めたときの硬い勃起
 も久方ぶりに経験するようになった。

  ちょうどその頃、母親が珍しく一人で東京に出てきた。おそらくつくるの最近の言動かいさ
 さか奇妙で、正月の休みにも戻ってこないことを心配し、様子を見に来たのだろう。彼女はほ
 んの数か月のうちに息子の外見が大きく変化したのを目にして思わず息を呑んだ。しかし「そ
 ういうのはあくまで年齢的な、自然の変化であり、今の自分に必要なのは新しい身体に合った
 何着かの服だけだ」と言われて、母親はその説明を素直に受け入れた。それが男の子の成長の
 通常の過程なのだろうと納得した。彼女は姉妹だけの家庭に育ち、結婚してからは娘たちを育
 てることに馴れていた。男の子がどんな育ち方をするかなんて何ひとつ知らなかった。だから
 むしろ喜んで息子と一緒にデパートに行き、新しい服をー揃い買ってくれた。ブルックス・ブ
 ラザーズとポロが母親の好みだった。古い服は捨てるか寄付するかした。
 
  顔つきも変わった。鏡で見ると、そこにはもうあのふっくらとした、それなりに整ってはい
 るかいかにも凡庸で、焦点を欠いた少年の顔はなかった。こちらを見返しているのは、鋭い鏝  
 (こて)をあてたみたいに頬がまっすぐ切り立った、若い男の顔たった。その目には新しい光
 が浮かんでいた。彼自身にも見覚えのない光だった。孤独で行き場を持だない、限定された場
 所で完結することを求められている光だ。髭が急に濃くなり、毎朝顔をあたらなくてはならな
 くなった。髪を以前より長く伸ばすことにした。新しく獲得した自分の相貌を、つくるはとく
 に気に入ったわけではない。気に入りもしなかったし、嫌悪もしなかった。それも所詮は便宜
 的な、間に合わせの仮面に過ぎないのだ。しかしそこにあるのがこれまでの自分の顔ではない
 ことを、彼ほとりあえずありかたく思った。

  いずれにせよ、多岐つくるという名のかつての少年は死んだ。彼は荒ぶれた闇の中で消え入
 るように息を引き取り、森の小さく開けた場所に埋められた。人々がまだ深い眠りに就いてい
 る夜明け前の時刻に、こっそり密やかに。墓標もなく。そして今ここに立って呼吸をしている
 のは、中身を大きく入れ替えられた新しい「多崎つくる」なのだ。しかしそれを知る者は、彼
 自身の他にはまだI人もいない。そして彼はその事実を誰にも知らせるつもりはなかった。
 
  多崎つくるは相変わらずあちこちの駅に行って構内のスケッチをし、大学の講義は欠かさず
 出席した。朝にはシャワーを浴びて髪を洗い、食後には必ず歯を磨いた。毎朝ベッドをメイク
 し、シャツには自分でアイロンをかけた。できるだけ暇な時間を作らないように努めた。夜に
 は二時間ばかり本を読んだ。多くは歴史書か伝記だ。そのような習慣は昔のまま身についてい
 る。習慣が彼の生活を進行させている。しかし彼はもう完璧な共同体を信じてはいないし、ケ
 ミストリーの温かみを身に感じることもない。

  彼は毎日洗面所の鏡の前に立って自分の頗をしばらく見つめた。そして新しい(変更を加え
 られた)自分という存在に少しずつ心を馴らしていった。新しい言語を習得し、その語法を暗
 記するのと同じように。やがてつくるには一人の新しい友人ができた。名古屋にいる四人の友
 人たちに去られてから一年近く経った六月のことだ。相手は同じ大学の二流年下の学生だった。
 その男とは大学のプールで知り合った。

                                                                          PP.44-51                         
               村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 


 

 

昨日はランチに即席麺を食べぬようにとレタスチャーパンをつくり、あなたの健康を考えてよと、
彼女は、いつもの朝食のおむすびセットと併せてつくり置き出かけた。しかし、今日は担々麺シ
リーズも終わり、ちゃんぽんシリーズに突入。つくりおきの刻みネギと豚バラ肉を一枚、スープ
の素(パウダーと油性液体の二種)、五香粉、ドライガーリックフレーク、ガーリックオリーブ
油と油揚げ麺を中華鉢に入お湯を注ぎラップ、電子レンジ5分(5百ワット)。それで評価は?
スープはマジ最高の五つ星、ただし麺の食感は日清食品が上手(ふやけ速度が大きいため)。
これで、百円+10数円で頂けるのだから、「デジタル革命渦論-
食品編-」ということですね。
それでは、今夜はこの辺で。 

 

コメント
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