【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】
1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン
- 第1章 政策に影響を与える思想の力
- 第2章 21世紀最初のグローバル経済危機を引き起こした思想と政策
- 第3章 将来を「知る」ために過去のデータに頼ること-資本主義システムについての古典派の考え
- 第4章 1ペニーの支出は1ペニーの所得になる-資本主義経済と貨幣の役割に関するケインズの考え
- 第5章 国債とインフレーションについての真実
- 第6章 経済回復のあとに改革を
- 第7章 国際貿易の改革
- 第8章 国際通貨の改革
- 第9章 ケインズも誇りに思うような文明化された経済社会の実現に向けて
- 第10章 ジョン・メイナード・ケインズー簡潔な伝記
- 補論 なぜケインズの考えがアメリカの大学で教えられることがなかったのか
- 訳者解説・あとがき
- 参考文献
【ケインズ経済学の現在化】
ところで、『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』の著者であるポール・デヴィッドソンは
ポストケイジアンに属しケインズ自身の流れを汲みジョーン・ロビンソン、ミハウ・カレツキを代表としては
じまる。カレツキはケインズ・サーカスとは別個に同じ内容の理論を打ち立てたが、のちにイギリスに渡りケ
インズ・サーカスと親密に交流。価格メカニズムに代わるケインズの貯蓄=投資の均衡過程の分析を基本とし
て、新古典派に代替する理論の構築を目指した。元々はケインジアンの主流であったが、価格メカニズムにお
ける均衡を数理的に精密化したアメリカンケインジアンが台頭していくにつれ、政治的に敗れたため傍流と化
した。一般理論の長期化としての経済成長理論、ミクロ理論ではマークアップ原理やカレツキの設備投資理論
の拡張、パシネッティの経済成長理論など一定の成果を挙げる。その反面、インフレ対策として所得政策を支
持するが、ポストケインジアニズムの基礎は、不均衡動学であるため数理的な精緻化が難しく、これが政治的
に不利に働くが、ここ20年来の金融恐慌の再来でポストケインジアンの金融理論の評価が高まる。これに対し、
米国系ケインジアンはケインズに影響を受けたジョン・ヒックス、ロイ・ハロッドの流れを汲みポール・サミ
ュエルソン、ジェームズ・トービンなどが代表であり、一般均衡の枠組みにケインズの有効需要理論を移植し
たものとされ、ヒックスのIS-LM分析がその代表である。経済政策では、政府による有効需要のファインチュ
ーニングを通じ、古典派の唱えた完全雇用と経済成長を実現可能(新古典派総合)と考えた。連立方程式から
なる巨大な線型計量経済モデル用いられた。ケネディ政権のブレーンとしてアメリカの経済政策を左右しノー
ベル経済学賞受賞者を多数輩出した黄金時代があった。しかし、1970年代を通じ、アメリカにおける財政赤字、
貿易赤字と慢性インフレ、失業の共存の経験を通じて理論的に破綻するとともに、マネタリストおよび合理的
期待学派など新しい古典派の理論の復活を前に影響力を失っていく。そのことを踏まえて感じることは、社会
科学を数理経済学、経済物理学あるいは計量経済学的な手法でとらえることは不可能だと考えていて、まして、
線型計量経済モデルなど感覚的に受け入れることができないと考えている。ここではそのことには触れず、ポ
ール・デヴィッドソンの『ケインズ・ソリューション』の監訳者のあとがきをたどり、復権するあるいは復活
するケインズの理由を要約しよう。
【金融危機発生のメカニズム】
2007年8月、サブプライムローン市場の瓦解に端を発した金融不安は、短期間で収束するであろうという
楽観的な見方が支配的であったにもかかわらず、2008年3月には全米第5位の投資銀行ベアー・スターン
ズが破綻する金融恐慌に発展した。今回の金融恐慌の主役は投資銀行などの「影の銀行システム」であり、
銀行一証券分離規制が「1999年金融サービス現代化法」(G-L-B法)の成立で骨抜きにされることによっ
て事実上撤廃され、金融機関は高額の手数料収入を狙う組成販売型ビジネス・モデルに転換するようにな
った。米国の住宅バブルの膨張・崩壊において,金融機関は本体だけでなく、むしろ規制がほとんどない
SIVや投資ファンドなどをつうじて住宅ロ-ンを証券化し、さらに債務担保証券(CDO)などのデリバ
ティブに組み替えることによって信用を膨張させてきた。金融当局の規制監督が及ばないため、これら影
の銀行システムは、事実上いくらでもレバレッジを効かせて信用を膨張させることできたからである。こ
うして2008年9月、金融恐慌はリーマン・ブラザーズの破綻でピークに達し、その後まもなくグローバル
経済は第2次世界大戦後もっとも深刻な危機に陥った。
2006年12月末現在の、米国金融機関の住宅ローン残高は9.7兆ドルで、そのうちの約15%が、いわゆるサ
ブプライムローンといわれていた。1990年代前半までの時期なら、この15%が全額回収不能になったとこ
ろで、かつてのS&L問題や日本のバブル崩壊後の金融機関問題と同じく、米国のいくつかの金融機関が倒
産し整理され、たかだか預念者保護の問題が付け加わる程度の災難で終わったことであろう。それなのに
今回はなぜ、世界中の投資家をも巻き込んだグローバルな金融・経済危機にまで発展したのであろうか。
それは、この 15年間に、金融のグローバル化(globalization)と証券化(securitization)という、2つの「…
…化」の進展に表わされる。経済環境の大きな変化があったためである。経済のグローバル化は、効率的
市場理論を奉じるシカゴ学派の古典派経済学が、(真のケインズ主義とは異質で、適切なインフレ対策を
提示できなかった)サムエルソンの新古典派総合ケインズ主義に取って代わり台頭してきた1970年代に、
始まっている。かれらは、政府の介入のない自由な競争市場こそが最も効率的であると主張し、各国に対
し貿易や直接投資などのあらゆる市場での規制の緩和・撤廃や自由化を要求し実現させてきた、後でも若
干ふれるが、1970年代に、ブレトン・ウッズ体制の固定為替相場制を変動為替相場制に切り替えさせたの
も、かれらであった。金融の分野でも、国内的には、大不況直後制定された、銀行と証券の分離を規定し
たグラスースティーガル法のなし崩し的な撤廃が椎し進められ、1999年には同法は完全に骨抜きにされた。
(この年は、くしくもクリントン政権が米国をものづくり大国から金融覇権国家に転身させる決断をした
とみられる時期と一致している)。
対外的には、米国金融機関の自由な活動を可能にするような各国金融市場の開放を実現してきた。その結
果、米国金融機関が、自らの組成した優良・不良の住宅ローン債権等を束ねて担保とする証券を発行する
ビジネス(すなわち、金融の証券化)を大々的に行なうようになった。またエルゴード性の公理を前提と
している金融工学の発展が、債務担保証券(CDO)やクレジット・デフオルト・スワップ(CDS)などの
金融派生商品の開発をつうじて金融の証券化の一層の進展を後押ししたことも否めない。そのうえ格付会
社は、担保に一部不良貸付債権を含む、この金融派生商品全体を優良と格付けしたため、投資家は安心し
てこの派生商品に投資した。自由貿易のもとで、オイルマネーなど特定の国々に偏った貿易上の黒字資金
がそれらの派生商品への投資に向かった面もある。米国金融機関は、これら派生商品を内外の投資家に販
売することによって、融資金を早期に回収しまた高収益を上げることができたのである。
ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』
ところが2004年ごろになって米国で住宅ブームが終息し始め、住宅価格の上げ止まり、さらには下落さえ見る
に及んで、もともとローン返済資力に乏しく、返済原資を主として住宅の値上がり益に期待していた住宅ロー
ンや、借入当初1~2年は低い金利ながらその後急上昇するような返済条件となっている住宅ローンなどが、
次第に債務不履行に陥り始めた。このように,金融派生商品を、担保として背後で支える原住宅ローンそのも
のの一部が回収不能に陥ったことにより、金融派生商品全体の資産価値の健全性が疑われる結果となり、すべ
ての派生商品からの投資家離れが起こりかつ加速するが。もともとこれらの派生商品には、信頼すべきマーケ
ットメーカーの存在しない市場しか整えられていなかった。この投げ売り価格以外では容易に換金されず金融
派生商品の市場価値が暴落し、この商品を購入していた全世界の投資家や、主に借入金で購入していたヘッジ
ファンドをはじめ関係金融機関も、多額の損失を被り資金繰りも悪化することとなり、債務不履行保険ともい
うべきCDSを大量に販売していた保険会社も、債務不履行の増加で予想外に多額の損失を被る。そしてこれら
すべてが、グローバルな実体経済に深刻な打撃を与えるに至る。これが、たんなる米国の金融機関の不良貸し
が、グローバルな金融・経済危機へ至ったメカニズムだと要約する。
【危機に対する緊急対応策】
そこで、ヴィッドソンは2008年1月という早い時期に提言した金融危機の影響を緩和するための方策が、今で
も有効であるとし、次の対策を提示する。
1.ルーズヴェルト時代の住宅所有者資金貸付公社(HOCL)を復活させ、ローンの返済に窮し差し押さえに直
面している債務者をリファイナンスによって救済し、また返済不能の住宅ローン債権を抱える銀行からそ
れらを買い取ることによって銀行を支援すること。
2.ジョージ・W.H.ブッシュ大統領時代の整理信託公社(RTC)を再生し、業績不振の金融機関その他の企
業の抱えている有毒資産を買い取ることによってバランスシートを改善し企業の再建をはかるほか,再建
の見込みの立たない企業の資産を処分して企業を解散させること。
3.大きすぎてつぶせない銀行には、連邦準備制度や財務省をつうじて十分な流動性を供給すること。
4.民間からの需要が不足して失業率が高止まりしている折から、国民の生産性を向上させるものならば、当
面財政赤字を増やすことになっても財政支出を行ない需要喚起すべきこと(インフレの脅威には課税を活
用した所得政策で対処)。
その上で、現オバマ民主党政権は、おおむねこのケインズ的考えに基づいた緊急対策を取ってきたものと思わ
れるが、2010年秋の中間選挙で大敗を喫したのは、 経済の回復や失業の減少効果のはかばかしくなかったこと
が一因とされている。経済回復の遅れは、政府のとってきた政策がかならずしも十分なものではなかったとい
うことであるり、まず政府は、HOLCのような独立の政府機関を設立せず、既存の政府県住宅金融公社2社(フ
ァニーメイおよびフレディマック)に買い取りを任せたこともあって、金融機関からの不良債権の切り離しが
徹底されなかった。上記2社は、銀行から買い取ったローンの中に銀行が借り手の年収などをよく審査しなか
ったものがあるとして銀行に買い戻すよう求めており、また証券化商品への投資で損失を被った民間の資産運
用会社も銀行が同商品の裏付けとなる住宅ローンをきちんと審査していなかったとして補償を求め始めていた。
これにより、銀行側には追加的な損失計上を迫られる可能性があり、銀行経営の不確実性が高まると見受けら
れ、銀行は経済回復のための積極的な融資活動に乗り出せず、景気回復が遅れたと考えられる。またRTC(米国
整理回収銀行)も復活されず連邦準備制度が代行する形となったが、機動性、企業の選別、融資規模などの点で
不適切であったと見られ、最後に将来の国民の生産性を高めうるような財政支出による需要喚起策として、イ
ンフラ、教育、新エネルギーなどの分野が計画されているものの、順調に進捗しているようには見えないこと
や、長年にわたる生産の外部委託により失業率が高止まりする構造により下がりにくい要因として指摘する。
【構造改革】
デヴィッドソンは、これらを踏まえた構造改革に、第1に、21世紀版のグラスースティーガル法の制定、第2
に、国際決済システムの改革を挙げる。まず第1の新法の眼目は、銀行・証券全般にわたる規制の復活であり、
なかでも再び銀行と証券の業態の分離を厳格に行なうこと、非公開の市場で組成された資産(例えば、住宅ロ
ーンや商業銀行貸付など)の公開の市場を創設することを禁ずること。すべての公開市場に十分に資力のある
マーケットメーカーの存在の義務づけなどが重視し、これにより銀行は、融資を行なう際に再び伝統的な3C(
特性)の原則に則った市場行動をとらせる。この新法に関連する注目すべき最近の動きとして、議会が2010年
7月、金融規制改革法(ドッド=フランク法)を成立させる。この法律は、金融危機が金融商品と資産に関す
る「インセンティブ(誘因)とモラルハザード(倫理の欠如)」を媒介にして起こるという認識のもとに、
1.「大きすぎてつぶせない」銀行を解散可能にする仕組みの導入、
2.銀行の規模と範囲の制限(伝統的商業行銀行への回帰)、銀行の自己勘定取引禁止、自己資本・レバレッ
ジ・流動性・リスク管理などの規制強化、報酬規制導入、
3.ヘッジファンド、格付け機関への規制、
4.証券化に関する規制、重要な金融派生商品の集中清算と取引所取引の要求、
5.システミックリスクの監視制度確立、
を規定して、完全とはいえないものの、おおむね本書の提案に沿った制度改革となっていおり、グローバル化
時代の今日、米国の金融規制がグローバルな性格のものでなければその実効性に乏しいが、欧州での金融規制
改革とは必ずしも平仄が合っていないよう見受けられ問題は残ると渡辺良夫は解説する。
第2の国際決済システムの改革として、デヴィッドソンは、完全雇用、経済成長と国際的価値基準の長期安定性を同時
に推進しながら、他方で国際収支の不均衡も解決可能な決済システムを目指す。そもそも、ケインズは、自由
貿易、変動為替相場制および国境をまたぐ自由な資本移動が、完全雇用や急速な経済成長とは両立しないこと
があると主張しているが、現在はまさにそのような事態が生じ、現行の変動為替相場割下の国際決済システム
のもとでは、永続的に黒字を出している国がその黒字を他国の生産物の購入に用いず貯蓄し、それを主として
米国の国債や財務省証券などの金融資産の購入に充てているが、一国内で貯蓄を増やし金融資産の購入を増や
すことが失業増をもたらすことになるとのケインズの指摘した現象が、長年にわたり世界的規模で起こってき
ている。そこで、黒字国にその黒字を他国の生産物の購入に使うよう促すことにより、グローバルに雇用を増
やすシステムが必要となるとして、デヴィッドソンは、そのメカニズムの基礎となる仕組みとして、ケインズ
の考えに基づき、
1.会員制の複式簿記記帳を行なう外国為替取引の清算機関の創設と、国際通貨の国際的購買力を維持しなが
ら流動性を創造し還流させるための合意されたいくつかのルール→①一国が過剰な準備資産を蓄えること
によるグローバルな有効需要の不足を阻止、②黒字国に収支調整の責務を負わせる。③逃避資本の動きを
監視、必要とあらば規制,④国際決済流動資産の量的拡大を可能にする仕組み作り-の設定。
2.固定的だが変動可能な為替相場制への移行、
を提案している。その提案によれば、すべての外国為替取引はこの機関を通して決済されることになる。この
清算機関の会員は各国の中央銀行であり、各会員はそれぞれこの機関に預金勘定を設定するものとする。清算
に当たっては、なんらかの計算単位が必要であり、ケインズの「バンコール」にならって、IMCU(国際通貨
清算単位)と称する計算単位ならびに国際的決済手段を創設する。各国通貨はこのIMCU 1単位当たりいくら
であるか、すなわち、1IMCU当たり何ドル、何円、何ユーロか等々が取り決められる。これによって各国通
貨の交換比率は固定されることになる。固定為替相場制たる所以であるが、このレートは、あまりにも多額の
貿易収支の赤字を出している場合や各国内のインフレの亢進や労働生産性の向上などで経済状態に大きな変化
が生じた場合、適宜調整されるべきものとされている。IMCUは、中央銀行によってのみ所有され国内通貨へ
の一方向の交換は保証されているが、国民によっては所有されない。例えば、日本人が100万ユーロのフランス
ワインを輸入しその代金を支払う場合、この日本人は100万ユーロに見合う円を最終的には日本の中央銀行に払
い、中央銀行がその円に見合うIMCUを、清算機関に持っているIMCU預金勘定からフランスの中央銀行の同
IMCU勘定に付け替える。フランスの中央銀行は、IMCU預金の増加分に見合うユーロを、自国のワイン輸出業
者に支払うという形となる。このように決済で生じた黒字は、この清算機関におけるその国の中央銀行のIMCU
預金勘定に預け入れられるという意味で、IMCUは、国際流動性のための究極的な準備資産ともなる。こうして
おけば、投機資金を含むすべての国家間の資金移動が把握でき(運用次第ではトービン税と同じく移動資金の
抑制効果が期待でき)、また各国の国際的準備資産の積み上がり具介も明らかになる。そこであらかじめ会員
である加盟国の中央銀行間で、どの程度のIMCU残高の積み上がりが起こればその支出を促すかについての合
意が得られていさえすれば、グローバルな貯蓄の増加が抑制され、失業の減少をもたらすことができとする。
また固定相場制の採択により国際的基準価値の安定性が確保され、各赤字国には、国際収支の大幅な赤字を続
けるべきではないとの政策ディシプリン(節度)が課されることになる。要するに、ここで提案されているシ
ステムは、国際収支の調整の責務を黒字国に負わせるとともに、自らの所得以上の生活を続けこれを対外借入
によって賄うやり方、なかんずく、中心通貨国の特権を利用して毎年大幅な経常赤字を出すことによって、た
だひとり「無償の恩典(free lunch)」を享受してきた米国のやり方に制約を加えるという。国際協調を前提と
した極めて大局的見地に立ったシステムであるということである。それだけに、米国民がこれに素直に賛意を
表するのかどうかが注目される。
なお、デヴィッドソンが提案の中で改革しようとしている現行の変動為替相場制は、それが導入された1970年代におい
てさえ、その主唱者の喧伝しているような効果(国際収支調整効果やインフレ隔離効果)を待たないとの批判があり、ポ
スト・ケインジアンを含む多くの学者も早い時期からされてきたという。
※ 長年、変動為替相場制のパフォーマンスの検証した、山下英次の近刊書『国際通貨システムの体制転換 変動相
場制批判再論』(東洋経済新報社で、「(2010年においても)変動相場制は、いかなる意味においても有効な調整能力を
特っ ておらず、フロート論者の主張は神話である。とりわけ,国際収支(経常収支)は純粋に名目ベースの概念であり、
為替レートに、この不均衡を調整す る十分な効果はほとんどない。……国際収支の調整効果がないとしたら、そもそも、
国民経済的には、したがって、世界経済全休にとっても、為替レー トを、毎日、時々刻々変動させる意味は全くなくなる」
(同書323ページ)と結論されていることを挙げ、最近、無意味とも思われる「通貨安競争」や為替レートの異常な投機的
乱高下を目撃するにつけ、どういう形であれ、現行の変動為替相場制は見直されるべき時期に来ている。また、自由化
された貿易ならびに国際金融市場のもとでの、仕事の外部委託という問題に関して、古典派の効率的市場理論を 盲目
的に適用することから「悲惨な」結果が起こりうることが認識されるべきであるとして、競争条件の同一化を求めるなど、
何らかの規制の必要なことが提案されている」と指摘している。
この項つづく