ゴエモンのつぶやき

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障がい者向け学習支援のいま

2017年05月19日 10時19分19秒 | 障害者の自立

-文字入力はキーボード、音声読み上げも -

 障がいがある人への差別を禁止し、行政や学校での合理的配慮を義務化する「障害者差別解消法」が、2016年4月に施行されてから1年が経った。同法により、学校や受験において障がいのある学生が希望すれば、自分の能力を十分に発揮できるようにする措置を学校側がとる必要があるが、障がい学生を取り巻く環境に変化はあったのだろうか。「DO-IT Japan」の近藤武夫氏と、日本マイクロソフト 技術統括室 プリンシパル アドバイザーの大島友子氏が、障がい者教育の現状と課題を語った。

 近藤氏がプログラムディレクターを務めるDO-IT(Diversity Opportunities Internetworking and Technology)Japanは、同氏が准教授をしている東京大学先端科学技術研究センターが中心となり、2007年に発足したプロジェクトだ。ITによって、障がいや病気のある小中高校生・大学生の高等教育への進学と、その後の就労への移行を支援することで、将来の社会のリーダーとなる人材を育成する活動を10年にわたり続けている。

 近藤氏は大学受験を例に挙げながら、この10年で少しずつではあるが障がい者向けの配慮の事例が増えてきたと語る。たとえば、2007年には筋ジストロフィー症の生徒が国立大学の一般入試でキーボード入力による解答用紙への記入を認められた。また、2009年には脳性麻痺のある生徒が筑波大学の一般入試で数学入力ソフトを用いて受験している。2015年には読み書き障がい(ディスレクシア)の生徒が、PCによる音声読み上げを申請し、認められなかったものの、代読での受験が認められている。

キーボード入力や音声読み上げなどさまざまなアクセシビリティがある

 独立行政法人日本学生支援機構の実態調査によれば、2016年度にAOや推薦などの特別入試を配慮を受けて受験した障がい学生は786人で、前年度よりも175人増えている。また、特別入試以外の入試で配慮を受けて受験した障がい学生は2689人で、前年度より434人増えているという。

 また、マイクロソフトでもWindows PCやタブレットにおいて、幅広いアクセシビリティ機能を提供してきたと大島氏は説明する。具体的には、教科書のテキストデータをワープロソフト「Word」で読み上げる機能や、話した言葉を認識して文章化する機能、プレゼンテーションソフト「PowerPoint」で集中させたい場所にアニメーションを付けられる機能などだ。デジタルノート「OneNote」を使って、先生の話を録画して授業後に1人で学習するといったこともできる。

 近藤氏は、従来の障がい者教育は、健常な生徒と同じ方法で読み書きや計算ができるように繰り返し訓練する「治療教育アプローチ」が一般的だったと語る。しかし、いくら練習をしても機能障害によって上達に限界がある生徒もいることから、治療教育アプローチに加えて、生徒がITなどの代替手段によって読み書きができるようになる「機能代替アプローチ」も推進すべきだと訴える。

「障害者差別解消法」による変化と課題

 これまで、教室における平等は「全員が同じ環境であること」と考えられることが多く、結果的に障がい者は特別支援学校などに行かざるを得なかった。2016年4月に前述した障害者差別解消法が施行されたことで、この状況が大きく変わりつつあると近藤氏は話す。合理的な配慮をすることが義務化され、実際に多くの学校がそうした配慮をするようになったからだ。

 文部科学省も、対応指針におけるIT利用例として、試験などにおいて合理的配慮を受けたことを理由に、試験の結果を学習評価の対象から外したり、評価に差をつけたりすることを禁止した。また、入試において別室での受験や、試験時間の延長、音声読み上げ機能やタブレット端末の使用許可などを求めている。国内でも、2013年に発足した全国の80大学が参画するAHEAD JAPAN (全国高等教育障害学生支援協議会)のような、障がい者教育を支援する取り組みが急激に増えているという。

 

 また、障害者差別解消法によって不当な差別的な取り扱いが禁止されたことで、国立大学や一部の私立大学で合理的配慮の体制整備が進んでいる一方で、関心の薄い公立学校や私立学校は努力義務であるため、国立学校と意識に差が生まれてしまっているという。さらに、小学校と大学では支援が広がってるものの、中学・高校では限定的であるといった課題が残されているとした。

 このほか、アクセシビリティの保障についても法律の制定が求められると近藤氏は話す。「合理的配慮について、(教育機関から)『過重な負担です』と言われたら、障がい学生はアクセシビリティを毎回申し立てないといけない。本来なら潜在的に必要なものであり、環境を整備しないといけないが、法にして義務化しなければ(教育機関は)面倒なので対応しない」(近藤氏)。

進学の次に直面する「就労」という壁

 近藤氏は、障がい者の雇用についても言及した。日本の雇用形態では、基本的に週に40時間(8時間×5日間)の労働が求められ、職務定義がなく部署移動なども多いことから、「常用雇用の“何でもできる人”であることが暗黙の了解となっており、障がい者は排除される仕組みになっている。大学まで学んだのに就職した瞬間に仕事がない」と指摘する。

 一方の企業側も、従業員が50人以上の場合は、障害者雇用促進法において法定雇用率2%の障がい者を雇用する必要があり、障がい者手帳を持つ人を週に30時間以上雇用しなければならない義務が課せられているが、30時間分もの仕事を用意することが難しいという課題を抱えているという。

 そこで、近藤氏が提案するのが「超短時間雇用」だ。15分からの短時間で働ける専門的な仕事を切り出して割り当てることで、優秀でありながら長時間働けない障がい者にも活躍の場を設けるというもの。すでに神奈川県川崎市と連携して、川崎市内の企業20数社が試験的にこの雇用形態を取り入れているという。業種もITからイベント関係、ホテルなど幅広いそうだ。

 また、インターネットを通じて仕事を依頼するクラウドソーシングとも相性がいいと近藤氏は話す。実際に近藤氏の研究室では、遠隔地にいる障がい者にデータを共有して、障がい者向けオンライン図書館「AccessReading」に関する作業をしてもらうなどしており、「一番遠い人では、北海道の八雲町で入院している人に依頼している」(同氏)とのこと。今後は、障がい者と仕事をマッチングするプラットフォームの整備なども進めるとしている。

2017年05月18日      CNET Japan


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