ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

障がい者ががんばってくれるから、みんなが伸びるんだよ

2019年03月20日 23時13分46秒 | 障害者の自立

 今回は、有限会社ハニードライの代表取締役・大塚 祐二さんを取材した。

 ハニードライは、主に病院やクリニック、工場、飲食店、ホテルやイベント、美容室や理容室、学校などの教育施設、公的な機関などの業務用のユニフォームや制服及び備品のクリーニングを取り扱う。注文、回収、仕分け、洗濯・乾燥、仕上げ、配送までを引き受ける。

 本社を構える厚木市(神奈川県)を拠点に県内全域、都内などに集配エリアを構築している。工場は厚木市、横須賀市、相模原市に計3つ。

 創業は1988年で、当初から障がい者雇用に熱心に取り組む。現在、従業員数は約180人。うち、正社員は15人で、ほかはパート社員。障がい者は10人で、身体、精神、知的障がい者がいる。知的障がいがもっとも多い。神奈川県から、「かながわ障害者雇用優良企業」に認定される。認定は県内で障がい者雇用に積極的に取り組む中小企業等で、一定の要件を満たした会社に限られる。

 2007年には、社会活動の一環として「NPO法人障碍者支援センター鮎の風」(厚木市)を設立した。現在、理事長を務める。近隣の養護学校、福祉施設などの職場実習の受け入れを行う。小、中、高校の児童・生徒が「仕事や福祉」を学ぶための実習先や、障がい者雇用に関わる企業関係者が情報交換する場として開放している。

(tanyss/Gettyimages)

偏見や差別に、絶対に負けてなるものか

 1980年代後半に、知的障がい者の50代半ばの女性をパート社員としてはじめて雇ったのです。もう、30年が経ちましたが、今に至るまでに雇う側として大きな負担を感じません。むしろ、雇い入れた頃の売上が2000万円程で、現在は約9億円になったから、感謝しています。

 健常者と障がい者が一緒の職場で助け合い、仕事をする。それが、当初の大きな特徴。大企業の特例子会社のように、障がい者を健常者とは違うところで働かせることはしていません。健常者と障がい者が共存し、個々が仕事のやり方などを考え、よりよき形に変えようとする。もちろん、難しい面はあるのですが、最終的には会社として、個々の社員として伸びていくものなのです。

 50代半ばの女性は約10年間勤務して、勤務態度もよく、仕事熱心でした。残念でしたが、体の具合を悪くして、60代半ばで辞めました。重度の知的障がいということで、私の実感でいえば、3~5歳の子どもと接しているような感覚でしたね。たとえば、「こんな仕事は、やりたくない!」と大きな声で出して駄々をこねる。あるいは、仕事を指示すると、「はい、わかりました」と答える。けれど、違う作業をする。「なぜ、そんなことしているの」と尋ねると、指示を理解していないようでした。

 この女性のつながりで、障がい者の方がうちで次々と働くようになった。当時、健常者は5人程で、重度の知的障がい者が約10人。労働省(現 厚生労働省)や地元の市役所の職員が不思議に思ったようで、視察に来ました。健常者よりも障がい者がはるかに多いから、何かを感じたのかもしれませんね。

 ある日、健常者のパート社員が「障がい者の人たちと一緒に仕事はできない」「私が社長だったら、こんな人たちを雇わない」と不満を言うんです。ショックだったね。それで、つい言い返したんです。

 「あなた、この前、恵まれない人にお金を寄付したと職場で話していたよね。それでいて、我々の仲間に対して何を言うの?」

 パート社員は不満だったのか、辞めました。私は差別に敏感です。以前は、差別される側でした。22歳の時にアメリカへ行ったんです。留学でも、就職でもない。生きていくために様々なアルバイトをしました。英語のレベルは低いし、コネもないから、すぐにアンダーになりました。最下層に…。

 当時(1970年代後半~80年代前半)は、アメリカでは人種差別がひどかった。日本人で、貧しい場合は激しい差別を受ける時代でした。私も「ジャップ」って、よく言われました。本来は、許されない差別用語だけどね。住んでいた地域は、生活水準の相当に低いところでした。貧しい日本人にはレストランなどの床拭きの仕事ぐらいしかなかった。

 上司はアメリカ人で、知的障がい者。「日本人で、体も小さく、俺よりももっと馬鹿な奴がいる」と笑って、私をバカにしていたようです。私の方が仕事は多少できたから、しばらくすると彼は部下になった。だけど、その後も英語の先生をしてくれた。いい奴だったな。

 27歳のときに帰国して、クリーニング業を座間市(神奈川県)ではじめたんです。ほかの会社からの支援も、まとまったお金もない。名刺の印刷代の1500円くらいの投資でスタートしました。運よく、早いうちに仕事が増え、(前述のように)障がい者を雇ったのですが、違和感はありませんでした。一時期、地域でも「重度な知的障がい者をたくさん雇う会社」と奇異に見られていたようです。そんな偏見や差別には、絶対に負けてなるものか、という思いでした。

なぜ、健常者と障がい者への接し方を変えるの?

 今、振り返ると、この30年は障がい者の社員たちのおかげで楽しかった。あるとき、知的障がい者の男性が道の真ん中で立ち小便をしていた。もちろん、だめな行為だから叱るけど、ある意味で人間味があふれているじゃないですか…。彼らを辞めさせる? 使えない? そんなふうには考えませんよ。かけがえのない戦力です。

 仕事が嫌いな人は障害の有無や程度に関わらず、使えないのかもしれない。仕事が好きならば、必ず、使えるようになります。会社として、上司としてそのようにするべきでしょう。ここで働く障がい者の多くは仕事が好き。だから、みんなが使える人材です。

 以前は、健常者のパート社員の中に「知的障がいの人に何度言っても、仕事を覚えない」と不満を言う人がいました。私は、こう言ったんです。

 「そんなのは、当たり前でしょう。そもそも、知的障がい者は健常者のようには理解ができないのだから…。あなたは、耳の不自由な人に“きちんと聞き取りなさい!”と言いますか? 言えないでしょう。なぜ、知的障がい者にはその配慮をしないの? 健常者で高熱な人がいると、“大丈夫?早く、家に帰ったら?”なんて言うじゃない。なぜ、健常者と障がい者への接し方を変えるの?」

 知的障がい者の体臭を「くさい」と指摘するパート社員もいました。私は「あなたは、健常者の中高年社員に向かって、加齢臭がすると言える?」と聞いた。すると、パート社員は「健常者にはさすがに言えない」と答えた。だから、注意をしたんです。「それは偏見であり、差別。仮に体臭がキツイならば、双方に言わないといけない。健常者には言えないが、障がい者には言おうとするのはおかしいでしょう?」。パート社員は黙っていました。

 最近は、健常者の社員たちの多くが慣れてきたようです。うちの会社では、差別は絶対にダメ。それを感じたら注意するし、ひどい場合は叱る。ただし、区別をせざるを得ない場合はあります。たとえば、工場で健常者と障がい者が一緒に仕事をしていますが、一部に危ない作業はある。障がい者がその機械を触ろうとしたら、注意指導をせざるを得ない。叱ることもあるでしょう。今まで、大きな事故はありませんが。

 障がい者の社員たちから、社内で私はいちばん嫌われているみたい…(苦笑)。工場内を頻繁に見まわったり、何かがあれば小言を言うから。経営者として責任がありますからね。だけど、いちばん好かれているみたい。私が職場に行かないと、さびしいようです。工場に顔を出すと、喜んでくれる。かわいいですよ…。やはり、人間関係が大切だとあらためて思います。

障がい者を雇うのは、社会的責任、法定雇用率をクリアのためか?

 最近、うちに見学に来る方は多い。経済団体や経営者、人事の実務担当者、そして公的な機関の職員、研究者や大学生などです。その中には、「会社が障がい者を雇うのは、まずは社会的な責任の遂行や法定雇用率をクリアするため。そのうえで何らかの利益があればいい…」と話す人がいます。

 それも1つの考えかもしれませんが、私は違うんじゃないかと思っているのです。会社である以上、やはり、まずは利益を出さないといけない。そのうえで、社会的な責任の遂行や法定雇用率をクリアするべきでしょう。発想が逆になっているんじゃないかな。会社として利益を出せないと、納税もできない。いずれは、障がい者の雇用もできなくなる。当たり前のようでいて、多くの人が見失っているように思います。

 当社は規模が小さいですが、利益は出しています。工夫すれば、できるんですよ。たとえば、障がい者にも丁寧な教育を繰り返す。そして、誰もが仕事ができるような仕組みやマニュアルをつくる。重度の知的障がい者も、できるようになります。みんなで障がい者の仕事の仕方を考え、整理していくと、多くの業務でルールが出来上がっていました。ISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)を取得する際には、マニュアル化が進んでいたので、約3カ月ですみました。これも、障がい者雇用の効果といえるでしょう。

 障がい者の社員がほぼ毎日、工場や駐車場、オフィス内をきれいに掃除してくれます。これで、健常者は自分の仕事に気持ちよく専念できます。掃除という単純作業してくれる人がたくさんいることで、自分の仕事や生活が成り立っている。そのことを忘れちゃいけない。そこを会社として、人として大切にしないといけないんですよ。

2019年3月20日        WEDGE Infinity


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