混雑して並ぶのが大変、和式で使いにくい、汚い、夜間ゴソゴソして周囲の人に気を使いたくない……。避難所では、こんな理由でトイレに行く頻度が減り、無意識に水分を控え、便秘に悩む人も多い。避難所の運営や個人ではどんなことを心がければ、少しでも状況が改善するのだろうか。
NPO法人「日本トイレ研究所」代表理事の加藤篤さん(47)は、「ためらわずに、十分な水分摂取を」と話す。
水分を控えると、便秘だけでなく、低体温、血圧上昇、感染症のリスクや免疫力の低下など、体の弱い部分に大きな悪影響が出やすくなる。エコノミークラス症候群のリスクも高まる。
だがそのためには、安心して排泄(はいせつ)できるトイレ環境の整備が不可欠だ。
避難所の管理者や支援者は、「水を飲みましょう」と呼びかけるだけでなく、「トイレに行けているのか」「安心して行けるトイレ環境なのか」ということを気にかけるのが大切だという。
トイレを促す声かけが大切
「食事や衣類が必要」だと声を上げることはさほど壁は高くない。でも、「トイレ」や「排泄(はいせつ)」に関することは声を上げづらい。東日本大震災当時も、管理者側が、トイレ掃除を終えた後などに、「トイレがきれいになったから一緒に行きましょう」などと声かけをして、トイレに行くきっかけをつくることができた。
子ども、高齢者、妊娠中の女性、障害者らのケアももちろん大事だが、自分でタフだと思っていたり、他の人から思われたりしている人にも注意が必要だという。避難生活を頑張りすぎて、水を飲むことも控えがちになりエコノミークラス症候群にかかるケースもある。
避難所のトイレ運営に関するチェックリストも参考になる。
トイレ掃除から安心な避難所を作る
衛生対策の工夫は、発災前の備えがカギだが、発災後も、工夫の余地は十分ある。掃除当番をつくるなどして、「トイレからより安心な避難生活をつくっていく」こともできるという。
日本トイレ研究所が、昨年7月の西日本豪雨災害後に被災した岡山、広島、愛媛の3県で衛生対策について現場の声を聞きとった調査がある。ある小学校では避難所が開設された翌日に避難者が約2千人に。その日のうちに受水槽の水が尽きてしまった。当初は、ポンプでくみ上げ、トイレ前に並べておいたが、全員が上手に流せるわけではなく、トイレ環境が悪化した。そこで、教員だけでなく外部支援者が中心となり清掃チームをつくったところ、1日2回の掃除で、環境が改善。全体の避難所運営もスムーズにいくようになったという。
生活リズムも整えられる
自分が避難した場合にできることは、トイレに行くことを意識することだ。周囲の環境、食や睡眠など避難生活では、生活リズムが乱れる。でも、平時の頻度でトイレに行くのだと目標を持ってみると、生活リズムをつくることができる。集団生活の中で、ひとりになれる大切な場所にもなり得る。
排泄は命に関わること。発災時の対応策だけでなく、日頃のトイレの備えも含めて、日本トイレ研究所のHP(https://www.toilet.or.jp)で詳しく紹介している。
【避難所トイレチェックリスト】
□要配慮者のトイレは避難所に近い場所に設置し、介助者も入れる広さを確保する。
□トイレ管理や相談の対応は、男女共同で行う
□女性や子どもはトイレにひとりで行かないようにする。防犯ブザーを設置するか配布する
□掃除は定期的に実施。その際は、使い捨て手袋や作業着を着用する
□照明は、室内と屋外の両方に設置する
□アルコール手指消毒液を設置する
□洋式便座の段差が高い場合は足踏み台を用意する
□トイレに行くことを促す声かけを行う
(「日本トイレ研究所」のチェックリストより抜粋)