風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

養子

2018-11-11 16:23:48 | はらから集いてソウル

 末っ子の妹が生まれたとき、子どものいない広島勤務の叔父が、

自分たちの養子に欲しがったそうである。

母はこの叔父とはとくべつ仲がよかった。

子ども好きなのに出来ないで可愛そうけど、これだけはねえ、

と母から聞かされた覚えがわたしにはある。

12歳下の妹は初めて聞く話だと言った。

 あんたもしかしたら叔父さんちの子になっていたかもよ。

 結局叔父夫婦は赤の他人の子を養子に迎えた。

若い女性が不倫で産み、育てられない子どもで、

養子として迎えたばかりなのに、

叔父は酒場の階段から転げ落ちて亡くなってしまった。

 あとに遺された叔母は、この子を連れて広島から東京の実家へ引き上げた。

子どもはまだ2歳になったばかりだった。

経済的な事情もあり、周囲からのすすめで、

人を介して、その子の父親に戻すことになった。

不倫相手で、妻子のある父親だから、引き取って育てるわけにいかず、

子どもは祖父母の家で育てられることに話が決まった。

 その話にわたしがくわしいのは、その子の引き渡しが我が家で行われ、

わたしはその席にお茶を運んだからである。

不倫で子まで産ませた男というのがどんなにカッコいいのか興味津津だったが、

あまりぱっとしないどこにでもいそうな中年男だった。

亡くなった叔父のことを思いだしては涙する養母の膝で、

子どもは怪訝そうにその男の顔をみていた。

 その日、子どもは父親と養母に連れられて家を出た。どこかの駅で別れたのだろう。

 あとから聞いた話では、

その翌日、叔母は預けられた先の男の両親の家に行き、

子供を取り戻してきたそうである。

 生まれてすぐに引き取り二年間育てた子を手放すなんてとても出来ない、

自分の実子なら夫が死んだからといって返す先などはないのに間違っていたと、

一晩泣きあかして育てる覚悟を決めたそうである。

        

          

 


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