風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

ぼくちゃん

2018-11-06 14:50:01 | はらから集いてソウル

 ラウンジから街の灯りを見降ろす75歳の弟の横顔に、

何十年もむかし「ぼくちゃん」と呼んだ弟の顔が重なる。

今は孫のユウトくんに目を細める老人にも、

遠い日には、家族から待望の男の子、「ぼくちゃん」と呼ばれていたころがある。

ぼくちゃんは大学を卒業したその年に、親の反対を押し切ってひとつ年上の女性と結婚した。

 結婚した女性は一人娘で、その親が近くにマンションを買ってやるからそこに住んでくれと、

いうことになった。ぼくちゃんはなぜかこれを猛烈に拒否した。

 相手の親がうちの親のところへ、弟を説得してくれと泣きついてきて、

うちの母親が、いいじゃないの、買ってくれるっていうんだから。

住んでやれば……、と言った。

 今も弟たちは後楽園ドームのすぐ傍のそのマンションに住んでいる。

泣きついてきた相手の親も、説得したこちらの親も、

とうにこの世からいなくなっている。往時茫々。

     

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