ラウンジから街の灯りを見降ろす75歳の弟の横顔に、
何十年もむかし「ぼくちゃん」と呼んだ弟の顔が重なる。
今は孫のユウトくんに目を細める老人にも、
遠い日には、家族から待望の男の子、「ぼくちゃん」と呼ばれていたころがある。
ぼくちゃんは大学を卒業したその年に、親の反対を押し切ってひとつ年上の女性と結婚した。
結婚した女性は一人娘で、その親が近くにマンションを買ってやるからそこに住んでくれと、
いうことになった。ぼくちゃんはなぜかこれを猛烈に拒否した。
相手の親がうちの親のところへ、弟を説得してくれと泣きついてきて、
うちの母親が、いいじゃないの、買ってくれるっていうんだから。
住んでやれば……、と言った。
今も弟たちは後楽園ドームのすぐ傍のそのマンションに住んでいる。
泣きついてきた相手の親も、説得したこちらの親も、
とうにこの世からいなくなっている。往時茫々。
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