風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

母と子

2010-09-18 17:53:06 | 家族
 また負けたじゃない!

 バスの中で、うとうとしていたら、いきなり背後に甲高い声がした。
さっきのバス停で乗り込んできた母と女の子らしい。

「今日も負けて、あんたはそれでどうもないの? 先生から注意されるのもあんたばかりだし、くやしくないの?」

 話の様子から、どうやら、プールだかダンスだか、なにかのお稽古の帰りのようである。

「いつもいつも、どうしてそんななの!」 
 母親は、地団駄でも踏みかねない勢いで、完全なヒステリーを起している。
 子供は終始無言である。

 ああ、可哀想だなあ。こんな乗客の多いバスの中で、子供は傷つくよなあと胸が痛む。

 後ろを振り向いて、おいおい、やめとかんね、と言ってやりたいが、その勇気もない。

 負けたっていいじゃないか、と今は思う。
 水泳だかダンスだかわからないが、そんなものが一番でもビリでも、大人になれば、どうでもいいことなのである。

 楽しかったらビリでもいいんだよ、良かったねえ、と言ってやる方が間違いなくいい子に育つのである。

 だが、待てよ、風子ばあさんだって、その昔、わが子がいつまでも自転車に乗れなかったときは、かなり逆上したではないか。

 みんなが乗れるのに、どうしてあんただけが乗れないの、と怒鳴りましたねえ。

 いやいや、だから……、後ろの声が切ないのです。


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2 コメント

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身につまされますね (hiroko)
2010-09-18 21:23:25
大人になればプールだってダンスだって一番だろうが、
下手だろうがどうでも良いことなのに、
どうしてそのときに気付かなったのだろうと、
今頃後悔しますね。
でも殆どの親が、同じことをやっているような。
返信する
そこがばあさんの出番なのですが。 (fuuko)
2010-09-19 16:04:43
昔はね、どこの家にも年寄りがいて、
アンタネエ、そんなにオコンナイデモ
ヨカロウモン、とかなんとか言って
孫をかばったりしたもんです。
いまどきはかばってくれる気概のある
年寄りがいないところがチビたちに
気の毒です。
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