風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

千円

2011-10-28 22:21:56 | 友情
    夜の9時過ぎになって、近くの友人が訪ねてきた。
    雨も降っている。
 
    「どうしたの? 今ごろ……」
     「風子さん、今日もどこか出かけてたね、三回も来たけど留守だった」
    「なにごと?」
    「いやあ、昨日千円借りたから」

    二つ折りにした封筒を差し出された。
    「なにも今夜でなくたっていいのに。水くさいねえ」

    いつも車に乗せてくれるし、おかずはわけてくれるし、
    肩が凝れば揉んでくれるし、彼女は風子ばあさんの良き助っ人である。
    姉妹同然のつきあいである。
    ほんとに千円くらいどうでもいい仲なのである。

    「いやあ、そういうわけにはいかない。
    お金のことだけはきちんとしとかないとね、
    忘れるといけないからね、気になって」
  
    「それはわざわざどうもどうも」
    というようなことで、封筒を受け取り、……またね、とバイバイした。

    ひとりになって取りあえず封筒の中を覗いた。

    ない! 封筒の中がカラッポである。

    うふふふふ……。 なんだか笑いがとまらない!
 
    ちなみに彼女はまだ呆けてるわけではない。
    しっかり者の彼女でもこういうことがあるのだとおかしい。
 
    こんな雨の中持って来てくれたんだもの、
    中味なかったよ、なんて言えない。 言わない。

   たぬきの木の葉っぱじゃないけど、もらったよ、たしかに。
    わざわざありがとう。たまにはこういうこともあります。

    一万円でなくてよかった!