ひまわり博士のウンチク

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NHKドラマ「大地の子」

2012年07月27日 | テレビ番組
Daichinoko
 
 1995年に放送されたドラマ「大地の子」をチャンネル銀河の再放送で観た。
 全7回だが、1~6話までが1時間半、最終回は1時間50分という大作である。
 主役の上川隆也は当時まだ無名の新人で、作品の大半が中国ロケでしかも長期にわたる撮影期間という条件をクリアできるのは、有名俳優では困難という判断からだった。しかし、このキャスティングに原作者の山崎豊子氏は満足し、上川にとってはブレイクのきっかけになった。
 
 このドラマは日中合作でほとんどの撮影が中国で行われ、台詞の大半が中国語である。見事なのは上川隆也もその日本人の父親役である仲代達矢も、中国人と遜色ない中国語で話す。上川隆也はわずか1カ月あまりの特訓で発音をマスターしたという。
 
 さて、山崎豊子の作品はほとんどがドラマ化または映画化されていて、初期の頃の『ぼんち』から『白い巨塔』、そして最近作の『運命の人』までたいてい小説も読み映画・ドラマも見ているのだけれど、『大地の子』だけは原作も読んでいなければドラマも見ていなかった。20年前にNHKが放送していた当時、相当評判になっていたことは耳にしていたのだけれど、例の「受信料支払い拒否」の関係でNHKを観ることそのものを拒否していて見逃していた。だから、こんなにすごい作品だとは想像もしていなかった。
 NHKでなければできなかったろうと思われるほど大規模な撮影に加え、日本人と中国人の間の、複雑な感情的葛藤が実によく描かれている。これも、ある意味保守的なスポンサーに気を使って自粛する必要にないNHKならではの成果だ。
 中国人にとって日本人は、日中戦争で家族・親族を殺された敵である。それも、戦闘ではなく(これを書くとまた右翼がうるさいが)日本軍や開拓団の一部による理不尽な行いによって。
 そして、この作品の背景となった1960年から80年代には、日本人の中に中国人を見下した考え方を持つ人間が少なくなかった(一時減ったが現代はまた増えているようだ。石原慎太郎に影響されたかどうかは知らないが)。
 中国の製鉄工場を見て「遅れてるなあ、まるでおもちゃだ」などと不用意で傲慢な発言をする訪中団員がいたことも描かれている。
 
 (以下あらすじ、ネタばれあり)
 上川隆也演じる中国残留孤児の陸一心(日本名:松本勝男)はアジア太平洋戦争のさなか、満州開拓団として中国の東北部にわたった。敗戦後ソ連の攻撃などで祖父と母を失い、妹とも生き別れになってしまう。父親は徴兵されていて満州にはいなかった。
  幼い子にはあまりにも苛酷な体験が続き、勝男は自分がだれなのか、ほとんどすべての記憶を失い言葉さえも話せなくなる。、放浪中に人買いの手にかかり売られそうになった勝男は、小学校教師の陸徳志に助けられる。子供のない陸徳志夫妻は勝男を一心と名付け、実の子のように大切に育てた。
 一心は大学に進学し趙丹青という恋人ができるが、自分が日本人であることをなかなか言い出せないでいた。プロポーズをする前にとそのことを丹青に打ち明けると、「だまされた、日本人と知っていれば付き合わなかった」と別れを告げられる。
 私生活でも職場でも日本人であるがために不当な差別を受けながら、中国の発展のため尽くそうとするのだが、しかし、そんなおり文化大革命が勃発する。一心は、日本人であるという理由で反革命分子とされ、囚人の収容所である労働改造所に送られた。
 5年後、中国の父徳志の命がけの嘆願で釈放された一心は、労働改造所時代の命の恩人である巡回看護婦江月梅と結婚した。一心はその優秀な能力を認められ、日中共同のプロジェクトである製鉄所建設チームの一員として働くことになる。
 なんと、そのプロジェクトで中国に協力を要請された日本の東洋製鉄には、一心(勝男)の実父である松本耕次がいた。上海で顔を合わせた松本も一心も、そのときはお互いが親子であることを気付かず、激論を交わしたりもする。
 その後、日本に出張した一心は死んだ家族を弔うために、訪日団に隠れて木更津の松本の家を訪れる。しかし、この訪問が問題化し、また一心を快く思っていなかった同僚(実は元恋人の趙丹青の夫)に陥れられ、産業スパイとして内蒙古の製鉄所へ左遷させられてしまう。
 時を経たある日、丹青は自宅に残された告発文書のカーボン紙や、夫の浮気相手が残していった機密文書から、自分の夫が一心を陥れたことを知り、共産党幹部に告発した。冤罪が解けた一心は再びプロジェクトに復帰、完成した製鉄所の高炉に火が入り、日中の技術者たちは心を一つにして喜び合った。
 プロジェクト終了後、一心は日本の父と中国の父、二人の父への愛情に心は揺れる。苦悩の末、涙ながらに「私はこの大地の子です。そして、この大地が父、長江は母です」と答え、中国に残ることを決意する。
 一大プロジェクトを成功させた一心は、次の仕事として左遷時代に過ごした内蒙古の製鉄所へ、自ら転属を志願する。家族より一足先に内蒙古に向かった一心が製鉄所でかつての仲間達に暖かく迎えられるシーンでドラマは終る。
 この最後のシーンは原作にはない。原作は一心が日本人の父と長江川下りの途上、「私は、この大地の子です」と中国に残ることを決意して終る。
 
 山崎作品の映像化を多数見て来たが、この作品は出色である。おしいことに、このドラマが制作された1990年代はまだ放送がアナログで、画質が荒い。広大な中国の風景をデジタルハイビジョンで映像化したらどんなにすごいだろうと思うが、あのレベルを超えるドラマをリメイクすることは望むべくもないだろう。
 
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