ひまわり博士のウンチク

読書・映画・沖縄・脱原発・その他世の中のこと

地下1階で観た『屋根裏』

2015年05月06日 | アート・文化
 梅ヶ丘にある燐光群のスタジオ「梅ヶ丘BOX」坂手洋二作演出の『屋根裏』を観る。
 この公演は燐光群の代表作ともいえるもので、数々の文学賞、演劇賞を受賞している。
 

 
 配られたパンフレットで、坂手洋二氏は以下のように述べている。
 
『屋根裏』は、〈梅ケ丘BOX〉での上演を前提として作られた。
 〈梅ケ丘BOX〉は1991年に燐光群が始めたスタジオである。場所じたいが公的支援を得られているわけではないから運営はたいへんだ。
『屋根裏』は十三年前、「自分たちのスタジオで〈本公演〉をする」という宿願を果たした作品だ。最初は『船底』という芝居を考えていた。しかし劇場を船底に見立てて「体験型の上演」をするというそのアイデアは、シアタートラムでの『トーキョー裁判1999』で壮大なスケールで結実してしまったので、梅ケ丘でやることにはならなかった。
『屋根裏』は別なアプローチの作品となった。内容は、自分たちのスタジオがあることの試行錯誤から見出された直観と、世界の情勢そのものから、導き出された。台本はこの十三年間、二つの固有名詞以外は、まったく書き換えていない。
「世界一小さな舞台での上演」として話題を呼んできたことは確かだが、ここまで多くの国・都市で上演され続けることになるとは、当初は思わなかった。
 もう何度目の上演になるのかわからないほどだが、国際キャストバージョンの『裏屋根裏』も入れると、どうやら東京での上演だけで九回目となる。
 馴れるということはない。この間に自分たちの過ごしてきた時間を振りかえって、身の引き締まる思いだ。(一部割愛)

 
「梅ケ丘BOX」は梅ヶ丘駅近くのガード脇、1階に焼き鳥屋が入るマンションの地下にある。
 

 
 地下入口の前にテントを張ったところが受付だ。この日、7時からの上演では、半ばを過ぎた頃1階の焼鳥屋の宴がたけなわになり、酔い客の話し声が客席にまで聞こえてくる。チケットに振られた番号順に入場すると、キャパはざっと数えて50席くらい。かつて小劇場として名を馳せた六本木の自由劇場(キャパ80)よりも狭い。
 折り畳み椅子を限界ぎりぎりまで並べてあるものだから、前の席との空間が少なく、一度座ったら身動きできない状態だ。舞台の1人用屋根裏部屋と気分を客にも味わってもらおうという魂胆か。しかし、芝居が面白かったので楽ではなかったが苦痛はあまり感じなかった。
 
 近未来、と言っていいかどうか、屋根裏の形をした独り部屋が商品としてヒットしている、という設定だ。芝居のほとんどは、その狭い屋根裏部屋で行われる。その中では現代社会の縮図がコントか寸劇のようにオムニバス形式で次々に演じられる。引きこもる青年、現実逃避する若夫婦、戦場からシェルター代わりに忍び込む兵士、張り込みのデカ、落ち武者。共通するのは、自分を中心にした限られた空間でしか生きられたい、生きようとしない人間達の姿だ。そうした人間達をコミカルにかつ毒素いっぱいに坂手洋二の世界は小さな屋根裏部屋を飛び出して無限に広がっていく。
 シェルターに隠れていれば世界に目を向けずにすむ。そんなことは知らなかったよ、と言える。
 燐光群の公演は総じてはずれがないが、この「屋根裏」は中でも非常に面白い。
 観終わって帰り道、道を行く人々がみんな、目に見えないシェルターに引きこもっているように見えた。

 
 「マツコ・デラックスが総理大臣に就任しました!」というニュースが飛び込んで来た時は、思い切り吹き出してしまった。
 
 11日月曜日のマチネ(14:00開演)が東京公演最終。9日までソワレ(19:00開演)
 問合せ・チケット申込みは「燐光群」 rinkogun@alles.or.jp