池袋暴走事故の遺族にまた中傷投稿 警察に相談、松永さんの思い
2022/03/13 16:00
(毎日新聞)
またもネット交流サービス(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷のメッセージが届いた。2019年に起きた池袋暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さん(35)は、以前からSNS上の心ないコメントに悩まされてきた。「誹謗中傷のない世の中にしたい」。そんな思いを抱き、松永さんは12日、警察に相談することにした。
「金や反響目当てで闘っているようにしか見えませんでしたね」。松永さんのツイッターアカウントに11日午前、匿名の人物からこんなメッセージが送られてきた。投稿は、亡くなった妻真菜さん(当時31歳)と長女莉子ちゃん(同3歳)にも触れていた。「そんな父親、天国の莉子ちゃんと真菜さんが喜ぶとでも??」。松永さんの書き込みに返信する形で送られており、松永さんもすぐに気付いたという。この投稿は既に削除されている。
その後、松永さんがこの投稿を引用して「警察へ相談しに行こうと思います」と書き込むと、新たに作られた「松永拓也様本当にごめんなさい」というアカウントから、謝罪のメッセージが届いた。このアカウントでは、「例のデマツイートを立てた張本人です。申し訳ない つい」との書き込みもあったが、最初の投稿と同一人物かははっきりしない。松永さんは「本人だとしても、形だけの謝罪だ」と憤る。
松永さんは12日、送られてきたメッセージの内容などを警視庁に伝えた。
事故後、松永さんは同じような交通事故被害を少しでも減らそうと、厳罰を求める署名活動をしたり、国に高齢ドライバーの事故対策などに関する要望書を渡したりするなど、さまざまな活動をしてきた。SNSでも多く発信し、社会の共感を得ていった。
一方、中傷コメントも多く送られるようになり、SNSでは「悲劇のヒーロー気取りか」「うざい」などと非難された。「騒ぎすぎだ。殺すぞ」という音声が流れる動画がユーチューブに投稿され、警視庁に相談して周辺の警戒が強化されたこともあった。真菜さんや莉子ちゃんが事故に遭ったのは「前世で悪いことをしたからだ」などという暴言にも心を痛めた。
SNSによる中傷を巡っては、フジテレビの人気番組の発言で非難を受けたプロレスラーの木村花さんが20年5月に亡くなったことなどを受け、国が対策を検討。21年4月には匿名の投稿者を特定しやすくする改正プロバイダー責任制限法が成立したほか、今月には侮辱罪の法定刑を引き上げる刑法改正案が閣議決定された。
SNSでの中傷防止に向けた社会的な機運は高まっている。これまでは「泣き寝入り」していたという松永さんも、広くその実態を知ってもらうため、SNSで問題の投稿を引用して警察に相談することを明らかにしたという。「投稿者には反省してもらいたいが、(投稿者)個人を責めたいわけではない。被害に遭った人がしっかり声を上げ、次の被害者を生まないようにすることが大事と思った。社会全体でこういう誹謗中傷はいけないという考えが広がり、誹謗中傷がなくなる世の中にしたい」と話している。【柿崎誠】
◇池袋暴走事故
2019年4月19日午後0時25分ごろ、東京都豊島区東池袋4の都道で、旧通商産業省(現在の経済産業省)工業技術院元院長の飯塚幸三受刑者(90)が運転する乗用車が暴走して交差点に進入し、自転車で横断歩道を渡っていた松永真菜さん(当時31歳)と長女莉子ちゃん(同3歳)がはねられて死亡したほか、9人が重軽傷を負った。自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われた飯塚受刑者は「ブレーキとアクセルは踏み間違えていない」などと無罪を主張したが、東京地裁は21年9月、禁錮5年(求刑・禁錮7年)の実刑判決を言い渡し、確定した。