「この騒ぎ聞こえますか?眠れないんですよ」 午前3時にかかってきた電話 激変する商店街の苦悩
2022/06/26 06:00
(沖縄タイムス)
【特集】激変 商店街
「この騒ぎ声、聞こえますか。眠れないんですよ」
5日、午前3時。那覇市の平和通り商店街の建物3階に住む男性(67)から記者に電話があった。
「騒音がひどいときは、何時でもいいので電話してほしい」と事前に伝えていた。すぐに現場へ向かう。
小雨が降る未明の国際通り。飲食店が入るビルの煌々(こうこう)とした明かりが、ぬれた路面を照らす。通りには連れだって歩く若者たち。平和通りのアーケードに入ると、湿気と汗っぽい独特の匂いが滞留していた。
男性宅の向かいには1年半ほど前、午前5時まで営業するカラオケ酒場がオープンした。
■睡眠を妨げる酔客の大声
店内は防音仕様が施されているものの、店の前でたむろする酔客の大声に睡眠を妨げられてきた。
「毎週末のように警察に通報している。でも警察は客をその場から帰すだけ。次の日には同じことが繰り返される」。生まれ育った商店街で、今までになかった悩みに直面している。
平和通り商店街には約20世帯が住む。ここ数年で安く酒を提供する飲食店が急増し、朝方まで営業する店も出始めた。
那覇署には、路上での口論やけんかなどの通報も増えているという。4日未明には牧志の「パラソル通り」で男2人組による強盗致傷事件が発生した。
午前3時45分、くだんのカラオケ酒場から若い男女6人が酩酊(めいてい)状態で出てきた。大声がアーケードに響く。集団は国際通り方面へ消えていった。
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那覇の中心商店街で大衆酒場などの飲食店が増え、治安悪化や騒音、悪臭などの課題が浮上している。様変わりする商店街を取材した。(社会部・城間陽介)
■トイレなし 悪臭に苦情
平和通り周辺は、都市計画法で商業地域に区分されている。ただ、アーケード街の2〜3階は住居も多く、すぐ裏手には住宅が広がる。
「小学生の孫と住む住人が昨年、引っ越した。臭いし治安も良くないからと」
新栄通商店街(サンライズなは)振興組合の関係者が、こう打ち明けた。商店街沿いに50世帯以上が暮らし、住民から組合へ度々、苦情が寄せられる。
「苦情元を特定されるのを恐れ、店舗に直接言えない事情がある」からだ。
取材中、いすとテーブルを路上に出す屋台形式の店舗で、年配の男性が席を立ったと思うと路地裏に消えて戻ってきた。この飲食店にはトイレがない。なぜ開業が認められるのだろうか。
県の食品衛生法施行条例施設基準には「従業者の数に応じた数の便所を有し」とあり、従業員が使うトイレの確保が条件だ。ただ、盲点がある。
那覇市保健所によると、店舗内になくても近隣店や周辺の公衆トイレで確保できれば認められるのだ。
店主は最寄りのコンビニで用を足すよう客に促すが、酔って従わない人が散見される。「大家にトイレ設置を求めたが『難しい』と断られた。近隣の店舗にトイレ確保を求めているが、難航している」と頭を抱える。
■散歩や通学路 避ける例も
商店街は以前、衣類や食品、日用雑貨を扱う物販店が主で、飲食は食堂や喫茶店が多かった。「小学校の頃は商店街が通学路で、店のおばちゃんたちに良くしてもらって育った。人情味ある雰囲気が好きだった」。新栄通商店街振興組合の渡嘉敷高代表(46)は振り返る。
大型ショッピングセンターが人気を集め、店主も高齢化して後継者不足で空き店舗が増えた。5〜6年ほど前から大衆酒場が次々と軒を並べ始めた。
渡嘉敷代表は「商店街ににぎわいを取り戻したいが、飲み屋街で治安悪化となれば別の問題」と複雑な表情を浮かべる。
保育園児の散歩コースでもあったが、園は一部の酔客による園児への声かけを気にして取りやめた。「客に悪気はないかもしれないが、ショックだった」と渡嘉敷代表。近隣の小学校も児童に商店街を通らないよう促しているという。
■騒音条例を求める声
5月25日。那覇市、那覇署を交えた意見交換会で商店街側から、騒音を取り締まる条例を求める声が上がった。
第一牧志公設市場の粟国智光組合長は「商店街だけで対応するのはもう限界」。中心商店街連合会の上原正敏会長は「問題となっている店舗は数軒。ごく一部のために条例まで作るのは本来おかしな話」と話し合いの必要性を説く。
商店街側の指摘を受け、飲食店でつくる組合側からもトイレの設置は必須とする声が上がり始めている。
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