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ポー『モルグ街の殺人』(新潮文庫、巽孝之訳)

2018-02-20 | 書評「ハ行」の海外著者
ポー『モルグ街の殺人』(新潮文庫、巽孝之訳)

史上初の推理小説「モルグ街の殺人」。パリで起きた残虐な母娘殺人事件を、人並みはずれた分析力で見事に解決したオーギュスト・デュパン。彼こそが後の数々の〈名探偵〉たちの祖である。他に、初の暗号解読小説「黄金虫」、人混みを求めて彷徨う老人を描いたアンチ・ミステリ「群衆の人」を新訳で収録。後世に多大な影響を与えた天才作家によるミステリの原点、全6編。(「BOOK」データベースより)

◎推理小説の開祖

ポーは24歳のときに、『壜のなかの手記』で懸賞小説に入選しています。これが実質的な小説デビュー作品です。ただしこの作品は、図書館で検索しても、「該当なし」となっていました。ところが2014年10月に刊行された『kindle版新潮文庫準拠:ポー短編集・黒猫/黄金虫』(99円)のなかに、「罎の中から出た手記」というタイトルで所収されていたのです。「新潮文庫準拠」とありますが、手元にある新潮文庫には所収されていません。

「罎の中から出た手記」(佐々木直次郎訳)は曇天文庫版を使用したとあり、「壜のなかの手記」と同じものだとの添え書きがついています。この原稿の改訂中に、ダウンロードしました。まだ読んではおりません。
 
ポーの作品を経時的にたどるなら、2009年に刊行された『ポー短編集』(「ゴシック編」と「ミステリー編」の全2冊、新潮文庫)がお薦めです。「ゴジック編」には『黒猫・アッシャー家の崩壊』、「ミステリ編」には『モルグ街の殺人・黄金虫』が収載されています。『ポー短編集』2冊には、探偵小説、ミステリー小説の開祖・ポーの魅力が凝縮されています。
 
――推理小説の歴史は1841年のポーの短篇『モルグ街の殺人事件』にはじまるというのが定説である。それまでは犯罪実話か、単純な事件読み物であったが、ポーはこの作品で初めて、提示した不可解な謎を論理と推理を駆使して合理的に解決に導いている。(『海外ミステリー事典』新潮社より)

もう少し辞書的な解釈を借用してみます。
 
――ポーの作品はほとんど幻想と怪奇が中心であり、推理小説に属するものは極めて少ない。『モルグ街の殺人事件』のほかには、『マリー・ロジェエの怪事件』(1842-43発表)、『盗まれた手紙』(1844年発表)、『黄金虫』(1843年発表)、『お前が犯人だ』(1844年発表)の計5編であり、厳密にいえば後の2編は推理小説から除かれている。(『海外ミステリー事典』新潮社より)

これら5作品はすべて、『ポー名作集』(中公文庫)に所収されています。

『モルグ街の殺人』(新潮文庫のタイトルにしたがって表記)が後年に与えた影響は絶大でした。この作品に世界ではじめての探偵、C・オーギュスト・デュパンが登場します。デュパンと語り手「わたし」という形式は、やがてホームズとワトスンの名コンビ(ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』)に引きつがれます。日本の推理小説のパイオニアである江戸川乱歩の筆名が、エドガー・アラン・ポーからのもじりであることはあまりにも有名な話です。

◎世界の探偵第1号・デュパンの登場

「モルグ街の殺人」は、密室殺人事件を扱っています。パリのモルグ街の一室から、悲鳴が響き渡ります。建物の4階からでした。そこには老夫人と令嬢が暮らしています。近所の人々が階段を駆け上がります。扉は施錠されていました。室内からは悲鳴と人が争っているような声が聞こえます。扉を蹴破って、室内になだれこみます。

令嬢は狭い煙突のなかに、逆さまになった死体で発見されました。老婦人は坪庭で、バラバラ死体になって絶命していました。窓も施錠されており、完全なる密室殺人事件です。警察は事件の解決を、一人の男に依頼します。ここで世界の探偵第1号・オーギュスト・デュパンが登場します。
 
近所の人はなかで発せられた声を、母国語ではないと断言します。フランス語、スペイン語、イタリア語などと、さまざまな憶測が乱れます。これが論理的な、世界はじめての推理小説なのだと、読んでいて感激してしまいました。
 
デュパン探偵が登場する第2作「マリー・ロジェエの怪事件」は、『モルグ街の殺人・黄金虫』(新潮文庫)には収載されていません。先に記したように、中公文庫『ポー名作集』に頼るしかありません。

個人的には、「盗まれた手紙」(『モルグ街の殺人・黄金虫』所収)が好きです。誰も殺されないミステリー。第1作品(「モルグ街の殺人」)に登場する探偵・C・オーギュスト・デュパンの第3場は、ポーの最高傑作ともいわれています。
 
「盗まれた手紙」は、最初から犯人がわかっています。テレビで好評だった「刑事コロンボは、この流れを組んでいます。警察がどんなに家捜ししても、犯人が隠した手紙は見つかりません。ここでデュパンの直感が、冴えわたることになります。

もう1作あげるなら「黄金虫」がすばらしい。本作はこども向けに書かれた、暗号小説です。論理的であり、視覚的でもあり、怪奇的でもあります。ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』を読む前に、ポーのほかの作品にふれておくべきだったと後悔しています。最後に「ブリタニカ国際大百科事典」から、ポーの評価について紹介したいと思います。
 
――ポーは、詩においても小説においても、美の創造を目的とし、単一の効果をもたらすために、短く、音楽的な形式を主張した。生前および没後しばらくは、英米での評価はあまり高くなく、ボードレールをはじめとするフランス象徴派によって認められた。
(山本藤光:2010.06.09初稿、2018.02.20改稿)

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