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一気読み「ビリーの挑戦」071-076

2018-03-05 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」071-076
071cut:チャンス到来だ、おめでとう
――12scene:5月のオフイス
影野小枝 ここは漆原さんになってからの、夕暮れの釧路オフイスです。以前との違いがわかりますか?
寺沢(大きな声で)ただいま……。
漆原(顔を上げて、大きな声で)おかえり。
チームメンバー(顔を上げて)お疲れさま。
寺沢(ノートパソコンを立ち上げ、プリンターに向かう。出力された1枚の紙片を持って、上司の席へ)漆原さん、きょうの日報です。
漆原(日報を見ながら)きょうの目玉は、川上先生だったよな。浮かぬ顔をしているけど。
寺沢 きょうは不発でした。真剣にデータを見てはくれたのですが……。
漆原 やったじゃないか。一歩前進だよ。
寺沢(笑いながら、頭をかき)そうですかね。
漆原(日報に赤ペンで、丸印を書きこむ)だっていままでは、データに見向きもしなかったのだろう。チャンス到来だよ、おめでとう。
(チームメンバーが、漆原の席に集まる)
影野小枝 このシーンを見て、同じオフイスが様変わりしていることを、理解していただけると思います。以前のオフイスと、どこが違っているのでしょうか。おわかりですよね。
漆原(1枚の紙片を取り出し)見ろよ、川上先生の攻略が、未来軸へと移動した。
影野小枝「未来軸へ移動した」は、のちほど触れるとして、帰社した直後のMRがなぜすぐに日報を提出できたのでしょうか。喫茶店で日報を書いてから、戻ってきた? 答えはブー、です。何か秘密がありそうですね。探ってみましょう。

072cut:朝書きの日報の効果
――12scene:5月のオフイス
影野小枝「おはよう」と、元気なあいさつが飛び交っています。カバンに書類を入れる人。資料について、意見交換している人。電話が鳴りました。
石川 ありがとうございます。R製薬でございます。
影野小枝 そうそう、帰社したMRの日報の話でしたね。オフイスに戻るなり、なぜMRは日報を提出できたのか。ちょっとのぞいてみます。
田中(パソコンに何やら入力している)
影野小枝 おはようございます。ごめんなさい。お仕事の邪魔をしてしまって。あら、日報じゃないですか。日付が今日になっていますけど……。
田中(顔を上げて)これ、今日の日報です。
影野小枝 今日の日報ですか?
田中 そうです。本日分の日報を、毎朝作成しています。
影野小枝(首を傾げる)えっ?
漆原 本日の訪問計画を、入力しています。何時にどこへ行き、どんな製品を宣伝するのか、どんな手段でそれを実施するのか。どんな成果が上がるのか。そこまでを、出る前に書いてしまうのです。
影野小枝 だって、お会いできない先生もいるでしょう?
田中 そんなときは、コメント欄に「会えず」と書けばいいのです。
漆原 この方法を採用してから、訪問の目的がクリアになり、訪問効率が上がりました。
田中 待合室や車のなかで、コメントをちょこちょこと書きこめば、その日の日報は一丁できあがりというわけです。
影野小枝 だから、帰ってくるなり、日報を提出できたのですね。

073cut:未来軸へ移動している
――12scene:5月のオフイス
影野小枝 いかがですか。日報は、出がけにほぼ完成しています。だから、MRは会社へ戻るなり、上司と日報をはさんで、楽しそうにやり取りができたのですね。あのシーンをちょっと巻き戻してみましょう。
(071cutの再現)
影野小枝 ここです。上司は、部下の本日の重点活動を掌握していました……。なぜでしょうか?
漆原 朝書き日報には、一軒だけコメント欄に成果を思い描いたものを記入してもらっています。その日いちばん大きな仕事の成果を思い描く。大切なことです。
(日報をズームアップ)
影野小枝 これって、日報というよりも、本日の活動計画ですね。
漆原 そう、ここを抑えておけば、帰社したMRとポイントを絞って話ができるわけです。
(071cutの再現を継続)
影野小枝 ああ、ここです。漆原さんは日報を見ながら「やったじゃないか」「おめでとう」を連発しています。これって、MRに元気を与えますよね。どうして、こんなにスムースに共感や賞賛ができるのでしょうか。「未来軸に移動している」ともいっています。何か、日報に仕掛けがあるようですね。

074cut:日報の仕掛け
――12scene:5月のオフイス
(日報のブランクフォーム。次第に左側の訪問先、宣伝品目、方法の欄が埋まりはじめる。コメント欄はまだブランクのままである)
影野小枝 出がけには、半分以上が埋まっているのですね。これって、逆転の発想です。日報はオフイスへ戻ってから書くもの、という常識が根底からくつがえっています。
漆原「朝書き日報」により、MRの一日に起伏が生まれました。その日、成功したらそれを翌日のバネにする。失敗だったら、今日を翌日の糧にする。そのことは、コメント欄を見てもらえればわかります。
(コメント欄をズームアップ)
影野小枝 これが本日の目玉の面談ドクターですね。さて、どうして上司とMRは、元気なやり取りができたのでしょうか。探ってみます。
(コメント欄に文字が浮かぶ。次のような文章が書かれている)

「川上先生についての日報」
◎一日の成果を思い描いての記述
新規処方の確実な感触を得る
◎日報のコメント欄の記述
・これまではデータすら見てもらえなかった。
・本日はじっくりと見ていただけ、二度ほどうなずいてくれた。
・相変わらず話してくれないが、次回は処方を依頼する。

影野小枝 シンプルなコメントですけど……。
漆原 わかりますか。日報の書き方に秘密があります。

075cut:共感、賞賛、共有の話法
――12scene:5月のオフイス
漆原 さっきのコメント欄を、もういちど見ていただきましょう。3行に分けて、書かれていますね。こうすれば、分かりやすくなるんですよ。
(日報の各行の先頭に、上から「過去」「現在」「未来」の文字を挿入する)
熊谷 そうです。目玉先については、「前回・今回・次回」のメモを書いているんです。
影野小枝 それがどうして、あのような心地よい会話になるのですか?
漆原 過去は、現在よりも常に厳しい状況にありますよね。
影野小枝 はい。
漆原 だから過去を質問すると、「たいへんだったな」と共感できるのです。
熊谷 現在は今日の活動ですから、厳しい過去から一歩前進しているのが普通です。
漆原 したがって、今日の活動を確認し、賞賛してあげられるわけです。
影野小枝 共感に、賞賛ですか……。
漆原 そして、未来は「おい、何か困っていることはないか」と声をかけ、MRとゴールを共有し、支援することになります。
影野小枝 過去、現在、未来を書かせて、共感、賞賛、共有と反応するわけですね。これは、すごく元気の出る展開ですね。
熊谷 日報提出が楽しくなります。
漆原 一人のドクターについて、MRの活動が未来軸へと移動していれば、活動は順調ということになります。これは「PPF」という手法なのです。過去、現在、未来の英語の頭文字からつけた名前です。
影野小枝 この日報は、重要な顧客の攻略履歴になっているのですね。しかも元気な会話が生まれています。

076cut:毎日に起伏が生まれる
――12scene:5月のオフイス
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
監督 いいね、「朝書き日報」か。ネーミングはダサいけど、逆転の発想だよ。
製作 原作者がいっていたけど、『人間系ナレッジマネジメント』(山本藤光著、医薬経済社)を読んだ多くの企業が導入したようだ。
助監督 それにしても、毎朝多くの顧客を思い浮かべて、成果を予測するのはたいへんそうですけど。
製作 いちばん大きな成果だけを、思い描けばいいって書いてあるだろう。たくさん書かせるのは、思い描きにウソが混じるので、ご法度とのことだった。
監督(台本を読みながら)思い描くから、毎日に起伏が生まれる。成功したらそれが明日へのバネになり、失敗したら明日への糧になる。いいね、このコピーは、テロップで流そう。
助監督「PPF」は、ちょっと難解ですね。
製作「PPF」を日報に取り入れてくれた企業もあるようだ。前回、今回、次回を書くことにより、営業マン自身も攻略具合を直視できるから、活動にもインパクトが生まれる。「未来軸へと動いていないぜ」が、流行語となったりするらしい。またデータベースとして、顧客攻略履歴を整理している企業もあるようだ。



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