一気読み「ビリーの挑戦」083-088
083cut:医師会の勉強会
――14scene:サブリーダー
影野小枝 夜のオフイスです。石川さんを中心に、ホワイトボードを取り囲んでいます。漆原さんはいらっしゃいません。
石川 ドクター向けビデオを配布しているメーカーは、これですべてか?
熊谷 リハビリ編がかなりあるのだけど、こっちは、医師会の勉強会にふさわしくないと思います。
田中 疾病と治療に絞ったほうがいいですね。その方が、ドクターを集めやすいでしょう。
寺沢 薬局長やナースにも、声をかけた方がいいと思います。
石川 医師会長はすごく乗り気なので、何としてでも成功させなければならんぞ。
田中 メーカー同士が一緒になって、勉強会を開催するのは例がない。問題は、大手が乗ってくるかどうかです。
熊谷 武田はおれが説得します。田中は中外にポン友がいるよな。
寺沢 ノバルティスは、私がやります。
石川 交渉はどのビデオを取り上げるかを決めてからだ。開催予定日は来月の18日夜7時。ビデオの絞りこみを急がなければならない。
熊谷 会場は?
石川 医師会長が医師会館を抑えてくれた。
寺沢 薬局長やナースはどうします?
田中 断る理由はなかろう。くるものは拒まず。
影野小枝 釧路地区のMRがまとまって、一つの企画に向かっています。みんな張り切っていますね。
石川 具体案を検討しよう。叩き台として、おれの企画案を見てもらいたい。(用紙を配布)おれとしては、開業医のドクターの関心が高い生活習慣病とインフルエンザに絞りたい。2時間でやるには、それが限度だと思う。
熊谷 せっかく他社と協力してやるのだから、治療と疾病のビデオを持っているメーカー全部を集めたいですね。
田中 私もそう思います。小さなブースを作って、ビデオを山積みにし、各社のMRがドクターにポイントを説明する。学会のポスター展示みたいな感じの方が、ずっとインパクトがありますよ。
寺沢 おもしろそうですね。お祭の屋台というイメージですね。
熊谷 講演は「患者さんへの啓蒙」などとし、ドクターはもっとビデオを活用すべき、といったテーマで話してもらう。
石川 悪くはないな。その方法なら1回で完結する。
田中 講演終了後は、簡単なパーティも必要ですね。1社5万円くらいとして、リストにあるメーカーすべてが協賛すると60万円になります。
石川 桁が違うよ。会場費は安いけど、ブースの設営、案内パンフレット、パーティ費用、講師への謝礼などを考えると、最低でもその数倍は必要になる。
影野小枝 企画案が具体的になってきました。それにしても、企画って、力仕事なのですね。成功してもらいたいです。
084cut:参考になる成功例
――14scene:サブリーダー
影野小枝 帯広の山之内さんの部屋です。4人のメンバーが車座になっています。
山之内 メルマガのタイトルは、『ビリーの挑戦』に決まった。問題はコンテンツだけど、太田ならどんな記事が参考になる?
太田 先週、山之内さんからきたメールには驚きました。「なぜBを使っていただけないのですか」なんて質問は、考えたこともありませんでした。3軒で試してみたのですが、どこも正直に答えてくれました。1回も怒鳴られていません。だから、あのような成功例を教えてもらえば、参考になります。
山崎 おれもやってみたけど、あの質問を少し変えると、別の情報が得られる。
太田 どんな質問ですか?
山崎「先生はなぜP社の製品をお使いなのですか」って聞くのさ。
山之内 それいいな。何となく使っていることって、多いからな。
太田 叱られませんでした?
山崎 問題なし。
乾 その線で行きましょう。失敗例はどうしますか? こっちの方が、情報としては貴重だと思いますが。
山之内 それも採用だな。成功例と失敗例を、同時に掲載する。何やら、おもしろくなってきたな。
乾 支店長や他のチームリーダーにも、送りましょうよ。
山之内 いいな、それも採用。さすがに最下位チームのトップMRだよ。
乾 何ですか、それは。それよりも、1日も早くビリーなんてタイトルを改めましょうね。
影野小枝 メルマガも動き出したようですね。みんな熱心ですし、何よりもチームがまとまってきました。
085cut:知恵を出し合う「場」
――14scene:サブリーダー
影野小枝 漆原さんにインタビューさせていただきます。石川さんの医師会勉強会、山之内さんのメールマガジン、どちらも動きはじめましたね。チームが一丸となって、イベント企画を立案する。チーム強化にとって、極めて大切なことですね。
漆原 私が千葉時代には、よくブレーンストーミングをやらされました。印象的なテーマは「新人MRを、いち早くドクターに認知してもらうための企画」とか「競合会社が群がる医局で、イニシアティブをとるための企画」などです。考える習慣を身につけたのは、ブレストのお陰です。
影野小枝 おもしろそうですね。それで実際に話し合いしたものは、採用されるのですか?
漆原 もちろんです。たとえば新人MRには。A4の紙片を名刺代わりに使わせました。まだ名刺ができていないものですから、と告げて紙切れを差し出す。そこには自筆の稚拙な文字で、名前、出身地、趣味、特技、性格などが書かれています。おまけに、似顔絵つきです。これはインパクトが大きかったですよ。新人MRは、たちまち認知されました。
影野小枝 ブレストのよさは、突飛なアイデアが出ることですよね。
漆原 医局でイニシアティブをとる企画では、「当病院の担当MRリスト」というものを発行しました。あらかじめ1人の医師と話し合い、同意を得るところからはじめます。ちょっと再現してみましょうか。
MR 先生、ここにきているMRリストが、あったらいいと思いませんか? 連絡先や特技が書いてあり、コンピュータで悩みごとがあったら、リストを見てAさんに相談するなどと便利ですよ。
医師 それいいね。
MR では私が作りますので、先生、応援してください。
漆原 競合会社のMRは、進んでデータの提出をしてくれます。担当交代のたびに、当社MRのところへあいさつにくるようになったほどです。
影野小枝 1人で考えあぐねていないで、みんなで考え合う場が必要ですね。そんな場が、釧路にも帯広にも生まれました。
086cut:朝の時間は濃密である
――14scene:サブリーダー
影野小枝 5月末午前5時半。漆原さんの自宅です。石油ストーブに乗せたヤカンからは、湯気が噴き出しています。漆原さんは、食卓で読書中です。ちょっと声をかけてみます。ずいぶん早い起床ですね。いつもそうなのですか?
漆原 合宿からは、ずっと5時起床を続けています。朝の30分って時間が濃密で、難解な本でも頭に入ります。
影野小枝 漆原さんは、仕事の虫ですね。家族サービスは大丈夫ですか?
漆原 ゴールデンウィークは、家族連れで道東を一周しました。例の標茶・藤花温泉ホテルのスィートルームに泊まりました。
影野小枝 いいですね、みなさんの笑顔が目に浮かびます。そうそう、太田さんはどうしていますか? 毎朝30分、新書を読むっていっていましたよね。
漆原 ちゃんと続いているみたいです。彼に刺激されたのか、みんなよく本を読むようになりました。よい意味での循環が、チームに生まれつつあると実感しています。
影野小枝 それはよかったですね。あの合宿が、全国最下位チームのエポックメーキングになりましたね。ところで、5月現在の全国ランキングはどうですか?
漆原 そんな簡単には、浮上しませんよ。でも上がる感触はあります。
影野小枝 ずっと気になっていたのですが、教えていただけますか。4月の会議で今の数字をどこまで伸ばせるか、検討しましたよね。その結果はさんたんたるものでした。ところが、例の合宿でみなさんは大きく数字を引き上げました。どうしてですか?
漆原 4月の会議のときに、残りの数字はみんなと連携し、自分が責任を持つといいました。合宿ではそれを話し合い、彼らと戦術を練ったのです。つまり一人で攻略する病院と、私と連携して攻略する病院を明確にしたということです。
影野小枝 数字に占める割合は、連携先のウエイトが非常に高いということですね。
漆原 通常MRは、単独で攻める先を過小評価しがちです。ところが、上司との連携先には大きな成果を期待します。これはすべての営業マンに通じる考え方です。連携先を明確にすると、必然的にゴールラインは引き上がるものなのです。
影野小枝 ごめんなさい。朝の大切な時間に、おじゃましてしまって。
087cut:K病院の攻略履歴
――14scene:サブリーダー
影野小枝 漆原さんは寺沢さんと面談しています。
漆原 テラの日報から、K病院の攻略履歴をピックアップしてみた。きみはよくがんばっているよ。これは来週号の『ビリーの挑戦』に、掲載してもらうつもりだ。
◎寺沢MRのK病院への挑戦
1.鈴木リーダーから引き継ぐ。引継ぎはない。採用品目もない。Fの宣伝許可は絶対に降りない、と鈴木さんから念押しされた。
2.薬局長にFの宣伝許可を依頼する。怒鳴られた。
3.新製品が出るときのために、定期訪問だけは継続している。
4.漆原リーダーと同行。薬局長にごあいさつ。
5.漆原リーダーと同行。リーダーは「MRを男にしてやりたい」と土下座をしてくれた。涙がこぼれた。
6.薬局への集中攻撃を開始。何としてでも、漆原リーダーに恩返しをしたい。
7.薬局長が「熱心だな」といってくれた。可能性が見えた。
8.「発売以来10年になるのか。そろそろ時効だな」と薬局長。はじめて笑顔を見た。心臓が飛び出しそうになった。
9.「S(他社の薬剤)の副作用問題で、明日の説明会が空いてしまった。やるか?」と薬局長にいわれた。やった! バンザイ。
10.ほぼ徹夜で説明会の練習を実施。メンバー全員が協力してくれた。
11.景山先生から、2例処方が出た。やった!
12.未処方のドクターを集中訪問。結果が出ない。
13.漆原リーダーより、「なぜ使ってくれないのですか?」と質問するように、とのアドバイスをいただく。まだ勇気が出ない。
14.「なぜ使ってくれないのですか?」と、勇気を振り絞って質問した。「確固たる理由はない」との返事。すかさず処方をお願いする。
15.ついに若松先生が処方してくれた。やればできる。仕事が楽しくなった。
寺沢 漆原さん、ありがとうございます。メラメラと闘志がわきました。
影野小枝 漆原さんって、ほめてあげること探しの天才ですね。寺沢さん、照れていますが、うれしそうです。
088cut:チームがまとまりつつある
――14scene:サブリーダー
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
製作 サブリーダーを中心に、チームがまとまりつつある。ここからは、ゴールに向けて一直線の展開になる。
助監督 普通の会社の営業リーダーは、部下と1年間連携して攻略する先を、あらかじめ決めてあるものでしょうか。確かに漆原の説明はマトを得ています。しかし、マネしてみようと思ってもらえますかね? 合宿直後のシーンで説明していれば、もっとわかりやすかったと思います。
製作 その点は私も原作者にいったのだが……。
助監督 でも、原作者は頑な人で、ですか?
製作 まいったな、そのとおり。種明かしは、すぐにすべきではない。読者に考えさせることが大切だって、一蹴された。
監督 就任してたった2ヶ月で、ここまで変化するのは眉唾ものだ。このシナリオは、雑誌に連載されていたのでしょう。そのときの反響はどうだったのですか?
製作 すこぶるよかったみたいだ。ただし今回のビデオ化にあたり、大幅に加筆修正している。見こみ数字が引き上げられる場面は、雑誌連載時にはなかったものだ。
監督 仕事には3種類ある。上司と連携する先の目標数字は、必然的に高くなる。この部分はいただきだな。小さな目標を追いかけていると、その人まで小さくなっている。だからさりげなく目標を上げる仕掛けを、漆原は作ったんだな。
助監督 朝の漆原が描かれていたけど、奥さんやこどもは出てこないな。
製作 それも質問したけど……。
助監督 必要ない、っていわれましたか?
監督 きみは成長したよ。そのとおりだったみたいだ。
083cut:医師会の勉強会
――14scene:サブリーダー
影野小枝 夜のオフイスです。石川さんを中心に、ホワイトボードを取り囲んでいます。漆原さんはいらっしゃいません。
石川 ドクター向けビデオを配布しているメーカーは、これですべてか?
熊谷 リハビリ編がかなりあるのだけど、こっちは、医師会の勉強会にふさわしくないと思います。
田中 疾病と治療に絞ったほうがいいですね。その方が、ドクターを集めやすいでしょう。
寺沢 薬局長やナースにも、声をかけた方がいいと思います。
石川 医師会長はすごく乗り気なので、何としてでも成功させなければならんぞ。
田中 メーカー同士が一緒になって、勉強会を開催するのは例がない。問題は、大手が乗ってくるかどうかです。
熊谷 武田はおれが説得します。田中は中外にポン友がいるよな。
寺沢 ノバルティスは、私がやります。
石川 交渉はどのビデオを取り上げるかを決めてからだ。開催予定日は来月の18日夜7時。ビデオの絞りこみを急がなければならない。
熊谷 会場は?
石川 医師会長が医師会館を抑えてくれた。
寺沢 薬局長やナースはどうします?
田中 断る理由はなかろう。くるものは拒まず。
影野小枝 釧路地区のMRがまとまって、一つの企画に向かっています。みんな張り切っていますね。
石川 具体案を検討しよう。叩き台として、おれの企画案を見てもらいたい。(用紙を配布)おれとしては、開業医のドクターの関心が高い生活習慣病とインフルエンザに絞りたい。2時間でやるには、それが限度だと思う。
熊谷 せっかく他社と協力してやるのだから、治療と疾病のビデオを持っているメーカー全部を集めたいですね。
田中 私もそう思います。小さなブースを作って、ビデオを山積みにし、各社のMRがドクターにポイントを説明する。学会のポスター展示みたいな感じの方が、ずっとインパクトがありますよ。
寺沢 おもしろそうですね。お祭の屋台というイメージですね。
熊谷 講演は「患者さんへの啓蒙」などとし、ドクターはもっとビデオを活用すべき、といったテーマで話してもらう。
石川 悪くはないな。その方法なら1回で完結する。
田中 講演終了後は、簡単なパーティも必要ですね。1社5万円くらいとして、リストにあるメーカーすべてが協賛すると60万円になります。
石川 桁が違うよ。会場費は安いけど、ブースの設営、案内パンフレット、パーティ費用、講師への謝礼などを考えると、最低でもその数倍は必要になる。
影野小枝 企画案が具体的になってきました。それにしても、企画って、力仕事なのですね。成功してもらいたいです。
084cut:参考になる成功例
――14scene:サブリーダー
影野小枝 帯広の山之内さんの部屋です。4人のメンバーが車座になっています。
山之内 メルマガのタイトルは、『ビリーの挑戦』に決まった。問題はコンテンツだけど、太田ならどんな記事が参考になる?
太田 先週、山之内さんからきたメールには驚きました。「なぜBを使っていただけないのですか」なんて質問は、考えたこともありませんでした。3軒で試してみたのですが、どこも正直に答えてくれました。1回も怒鳴られていません。だから、あのような成功例を教えてもらえば、参考になります。
山崎 おれもやってみたけど、あの質問を少し変えると、別の情報が得られる。
太田 どんな質問ですか?
山崎「先生はなぜP社の製品をお使いなのですか」って聞くのさ。
山之内 それいいな。何となく使っていることって、多いからな。
太田 叱られませんでした?
山崎 問題なし。
乾 その線で行きましょう。失敗例はどうしますか? こっちの方が、情報としては貴重だと思いますが。
山之内 それも採用だな。成功例と失敗例を、同時に掲載する。何やら、おもしろくなってきたな。
乾 支店長や他のチームリーダーにも、送りましょうよ。
山之内 いいな、それも採用。さすがに最下位チームのトップMRだよ。
乾 何ですか、それは。それよりも、1日も早くビリーなんてタイトルを改めましょうね。
影野小枝 メルマガも動き出したようですね。みんな熱心ですし、何よりもチームがまとまってきました。
085cut:知恵を出し合う「場」
――14scene:サブリーダー
影野小枝 漆原さんにインタビューさせていただきます。石川さんの医師会勉強会、山之内さんのメールマガジン、どちらも動きはじめましたね。チームが一丸となって、イベント企画を立案する。チーム強化にとって、極めて大切なことですね。
漆原 私が千葉時代には、よくブレーンストーミングをやらされました。印象的なテーマは「新人MRを、いち早くドクターに認知してもらうための企画」とか「競合会社が群がる医局で、イニシアティブをとるための企画」などです。考える習慣を身につけたのは、ブレストのお陰です。
影野小枝 おもしろそうですね。それで実際に話し合いしたものは、採用されるのですか?
漆原 もちろんです。たとえば新人MRには。A4の紙片を名刺代わりに使わせました。まだ名刺ができていないものですから、と告げて紙切れを差し出す。そこには自筆の稚拙な文字で、名前、出身地、趣味、特技、性格などが書かれています。おまけに、似顔絵つきです。これはインパクトが大きかったですよ。新人MRは、たちまち認知されました。
影野小枝 ブレストのよさは、突飛なアイデアが出ることですよね。
漆原 医局でイニシアティブをとる企画では、「当病院の担当MRリスト」というものを発行しました。あらかじめ1人の医師と話し合い、同意を得るところからはじめます。ちょっと再現してみましょうか。
MR 先生、ここにきているMRリストが、あったらいいと思いませんか? 連絡先や特技が書いてあり、コンピュータで悩みごとがあったら、リストを見てAさんに相談するなどと便利ですよ。
医師 それいいね。
MR では私が作りますので、先生、応援してください。
漆原 競合会社のMRは、進んでデータの提出をしてくれます。担当交代のたびに、当社MRのところへあいさつにくるようになったほどです。
影野小枝 1人で考えあぐねていないで、みんなで考え合う場が必要ですね。そんな場が、釧路にも帯広にも生まれました。
086cut:朝の時間は濃密である
――14scene:サブリーダー
影野小枝 5月末午前5時半。漆原さんの自宅です。石油ストーブに乗せたヤカンからは、湯気が噴き出しています。漆原さんは、食卓で読書中です。ちょっと声をかけてみます。ずいぶん早い起床ですね。いつもそうなのですか?
漆原 合宿からは、ずっと5時起床を続けています。朝の30分って時間が濃密で、難解な本でも頭に入ります。
影野小枝 漆原さんは、仕事の虫ですね。家族サービスは大丈夫ですか?
漆原 ゴールデンウィークは、家族連れで道東を一周しました。例の標茶・藤花温泉ホテルのスィートルームに泊まりました。
影野小枝 いいですね、みなさんの笑顔が目に浮かびます。そうそう、太田さんはどうしていますか? 毎朝30分、新書を読むっていっていましたよね。
漆原 ちゃんと続いているみたいです。彼に刺激されたのか、みんなよく本を読むようになりました。よい意味での循環が、チームに生まれつつあると実感しています。
影野小枝 それはよかったですね。あの合宿が、全国最下位チームのエポックメーキングになりましたね。ところで、5月現在の全国ランキングはどうですか?
漆原 そんな簡単には、浮上しませんよ。でも上がる感触はあります。
影野小枝 ずっと気になっていたのですが、教えていただけますか。4月の会議で今の数字をどこまで伸ばせるか、検討しましたよね。その結果はさんたんたるものでした。ところが、例の合宿でみなさんは大きく数字を引き上げました。どうしてですか?
漆原 4月の会議のときに、残りの数字はみんなと連携し、自分が責任を持つといいました。合宿ではそれを話し合い、彼らと戦術を練ったのです。つまり一人で攻略する病院と、私と連携して攻略する病院を明確にしたということです。
影野小枝 数字に占める割合は、連携先のウエイトが非常に高いということですね。
漆原 通常MRは、単独で攻める先を過小評価しがちです。ところが、上司との連携先には大きな成果を期待します。これはすべての営業マンに通じる考え方です。連携先を明確にすると、必然的にゴールラインは引き上がるものなのです。
影野小枝 ごめんなさい。朝の大切な時間に、おじゃましてしまって。
087cut:K病院の攻略履歴
――14scene:サブリーダー
影野小枝 漆原さんは寺沢さんと面談しています。
漆原 テラの日報から、K病院の攻略履歴をピックアップしてみた。きみはよくがんばっているよ。これは来週号の『ビリーの挑戦』に、掲載してもらうつもりだ。
◎寺沢MRのK病院への挑戦
1.鈴木リーダーから引き継ぐ。引継ぎはない。採用品目もない。Fの宣伝許可は絶対に降りない、と鈴木さんから念押しされた。
2.薬局長にFの宣伝許可を依頼する。怒鳴られた。
3.新製品が出るときのために、定期訪問だけは継続している。
4.漆原リーダーと同行。薬局長にごあいさつ。
5.漆原リーダーと同行。リーダーは「MRを男にしてやりたい」と土下座をしてくれた。涙がこぼれた。
6.薬局への集中攻撃を開始。何としてでも、漆原リーダーに恩返しをしたい。
7.薬局長が「熱心だな」といってくれた。可能性が見えた。
8.「発売以来10年になるのか。そろそろ時効だな」と薬局長。はじめて笑顔を見た。心臓が飛び出しそうになった。
9.「S(他社の薬剤)の副作用問題で、明日の説明会が空いてしまった。やるか?」と薬局長にいわれた。やった! バンザイ。
10.ほぼ徹夜で説明会の練習を実施。メンバー全員が協力してくれた。
11.景山先生から、2例処方が出た。やった!
12.未処方のドクターを集中訪問。結果が出ない。
13.漆原リーダーより、「なぜ使ってくれないのですか?」と質問するように、とのアドバイスをいただく。まだ勇気が出ない。
14.「なぜ使ってくれないのですか?」と、勇気を振り絞って質問した。「確固たる理由はない」との返事。すかさず処方をお願いする。
15.ついに若松先生が処方してくれた。やればできる。仕事が楽しくなった。
寺沢 漆原さん、ありがとうございます。メラメラと闘志がわきました。
影野小枝 漆原さんって、ほめてあげること探しの天才ですね。寺沢さん、照れていますが、うれしそうです。
088cut:チームがまとまりつつある
――14scene:サブリーダー
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
製作 サブリーダーを中心に、チームがまとまりつつある。ここからは、ゴールに向けて一直線の展開になる。
助監督 普通の会社の営業リーダーは、部下と1年間連携して攻略する先を、あらかじめ決めてあるものでしょうか。確かに漆原の説明はマトを得ています。しかし、マネしてみようと思ってもらえますかね? 合宿直後のシーンで説明していれば、もっとわかりやすかったと思います。
製作 その点は私も原作者にいったのだが……。
助監督 でも、原作者は頑な人で、ですか?
製作 まいったな、そのとおり。種明かしは、すぐにすべきではない。読者に考えさせることが大切だって、一蹴された。
監督 就任してたった2ヶ月で、ここまで変化するのは眉唾ものだ。このシナリオは、雑誌に連載されていたのでしょう。そのときの反響はどうだったのですか?
製作 すこぶるよかったみたいだ。ただし今回のビデオ化にあたり、大幅に加筆修正している。見こみ数字が引き上げられる場面は、雑誌連載時にはなかったものだ。
監督 仕事には3種類ある。上司と連携する先の目標数字は、必然的に高くなる。この部分はいただきだな。小さな目標を追いかけていると、その人まで小さくなっている。だからさりげなく目標を上げる仕掛けを、漆原は作ったんだな。
助監督 朝の漆原が描かれていたけど、奥さんやこどもは出てこないな。
製作 それも質問したけど……。
助監督 必要ない、っていわれましたか?
監督 きみは成長したよ。そのとおりだったみたいだ。
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