北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「ご老人は謎だらけ~老年行動学が解き明かす(佐藤眞一著・光文社新書2011刊)」を読んだ。佐藤眞一(さとうしんいち1956生れ)氏は、早大大学院(文学研究科)博士課程修了し、東京都老人総合研究所、ドイツ/マックスプランク人口学研究所、明治学院大学(心理学部)教授を経て、現在は阪大(人間科学研究科)教授である。専門は老年行動学とのこと。------
はじめにを読むと、“訳が分からないご老人の行動には理由(わけ)がある”、“もう先が長くないのに気にもせず楽しく暮らしている人。反射神経や判断力が低下しているのに車の運転をやめない人。些細なことでキレ、頭から湯気を出して怒る人”、これらの理由を老年行動学によって解き明かしたのがこの本であると書いている。-----
心理学といっても殆どが文系的アプローチなので、多様な老人行動の特徴を書き出しているだけとも考えられる。“自分勝手な人は長生きする。都合のよいことしか覚えない。都合の悪いことは思い出さない。孤独な人は認知症になり易い。孤独がゴミ屋敷を生む。”-----
巻末には、老人読者への慰めの言葉も用意されている。“ピアニストのアルトゥールルービンシュタインは曲目を減らし練習をそれに集中して老いを乗り切った。観阿弥は老いても少な少なに工夫を凝らしてまことの花を咲かせた。”このような例外的人物も歴史上を見渡せばおられるが、大概は若さには勝てないのが事実だろう。このように老人の生態を細々と書き出した本であるに過ぎない。結論のない本である。文系のこの方面の学問には支柱となる理論が欠乏しているケースが多い気がする。