『イングロリアス・バスターズ』 ~キル・ゼム!

2009-11-20 23:59:50 | 映画&ドラマ


ブラピが大きく写っていますが、彼女たちの方が見どころは多い。


 渡し忘れた物を届けに昭和記念公園まで自転車を走らせました。最初に当たりをつけところに行くと、ちょうど昼食を終えた1グループを見つけました。ビンゴ!
 スタッフの一人に電話してもらい、届けたい本人の居場所を確認しました。十分後、映画『第三の男』のファーストシーンとラストシーンに出てきた並木道によく似た銀杏並木で物を渡すことができました。駄目もとで追っかけてみて良かった~。
 紅葉が進み、落葉と言った方が良さそうな昭和記念公園内の木々を眺めながら、「これだけきれいな景色を見られたのだから、自分がうっかりしていて忘れたことも『終わり良ければ全て良し』といったところかな~」(ではいけないのですが)と、例によって都合のいい解釈を下し、家に帰って寝ようと思ったのですが、シネマシティの前を通ると、タランティーノの新作『イングロリアス・バスターズ』が今日から(金曜日なのに)公開されているではありませんか! 
 念のため上映時間を確かめると、次回上映は15分後の13時45分! 観ない手はありません。チケットを買うと(会員なので1300円)斜め向かいの【てんや】に入り、速攻でワンコインの天丼をかきこみ、43分に座席に着きました。光速移動はお手のもの?
(自分は予備知識なしにこの映画を観たのですが、ここから先は映画に関する物語の核心に触れてしまうので、内容を知りたくない方は読み飛ばしてください)

 「てめえら、にんげんじゃねえ。叩き斬ってやる!」
 萬谷錦之介主演のテレビドラマ『破れ傘刀舟 悪人狩り』が大好きでした。高橋英樹主演の『桃太郎侍』も良く見ていましたが、こちらは決め台詞(「一つ人世に生血を啜り~」)がちと長く、『必殺』シリーズも無論見ていたけれど、金をもらって恨みを晴らすという点がちとひっかかる・・・時代劇について語り出したら長くなるので、とにかく自分は刀舟先生の啖呵と、その後の凄まじい殺陣に痺れまくっていました。
(あと、江波杏子の女っぷりとジャネット八田のお色気にも。ジャネット八田の役柄は「むっつりお竜」だけど、「むっちりお竜」だと思った。ませたガキだなあ~)

 『イングロリアス・バスターズ』は2時間32分と長尺だけれど、ひと言でいえば、映画バカ(愛をこめて)タランティーノの「啖呵」だ! チケットを買うとき舌を噛みそうな題名は、マカロニ戦争映画『地獄のバスターズ』の英語題名で、タランティーノ本人も『地獄のバスターズ』のリメイクを作ると言っていたらしいが、今までの彼の作品と同じように、『イングロリアス・バスターズ』も無数の映画が混じった「ごった煮」映画で、何が出てくるかわからない映画の「闇鍋」といったところ。
 劇中、自分が気づいただけでも、『死の銀嶺』『ヨーク軍曹』、レニ・リーフェンシュタール、G・W・パプスト、ブリギッテ・ヘルム、ルイス・B・メイヤー、セルズニック・・・といった映画、女優、監督、プロデューサーの名が出てきた。ブラッド・ピット演じるアルド・レイン中尉の名は、ハリウッド俳優アルド・レイ(代表作に『最前線』『裸者と死者』)から頂いたものだ。
 この手の引用を挙げていくとキリがないが、活劇の内容だとリー・マーヴィン主演の『特攻大作戦』(『暁の七人』『ナバロンの要塞』もそうだよね)に近く、映画の雰囲気としてはイーストウッド主演の『戦略大作戦』に近い『イングロリアス・バスターズ』が、名前こそ出てこないが、エルンスト・ルビッチ、フリッツ・ラング、ダクラス・サーク(ドイツ時代はデトロフ・ジールク)の三人の大監督に捧げられていることに注意しよう。

 彼らはドイツを離れ、ハリウッドに新天地を求めた。
 ルビッチは、ナチスドイツによるポーランド侵攻の悲劇をキャロル・ロンバードをヒロインに据えたお得意の艶笑コメディに置き換えた恐るべき傑作『生きるべきか死ぬべきか』(42)を発表している。ラングは、ブレヒトと共同脚本を書き、ナチ占領下のプラハでゲシュタポに抵抗する人々をリアルに描いた傑作『死刑執行人もまた死す』
(43)を撮った。サークも『ヒトラーの狂人』(43)を撮っているが、残念ながら未見なのでどんな映画だか知らない。だが、非常に独創的なサウンドトラックの中に、スウェーデン出身の大女優&歌姫だったツァラ・レアンダーの大ヒット曲が使われている(パンフで知った)。メロドラマの巨匠と呼ばれたサークは、ドイツ時代に彼女主演の『世界の涯てに』(36)と『南の誘惑』(36)を撮っており、彼女が出てきたことからもサークへもあて書きしていると確信できる。というか、「映画木違い」(今回はこんな変換しました)なら、この三人を知らない筈がない!
 ~ツァラ・レアンダーは、ナチスドイツのプロパガンダ映画を撮ったことから映画史から抹殺されたレニ・リーヘンシュタールほどではないにしても、ナチスドイツに協力的だったことから戦後は一線を退いてしまうのだが(彼女の回顧録は非常に面白いらしい)、ダイアン・クルーガー(お久しぶりですね。相変わらず素敵です!)の演じたドイツ女優が、ひょっとすると彼女へのオマージュかもしれない~

(ここから先はクライマックスに触れるので、知りたくない方は読み飛ばしてください)
 『イングロリアス・バスターズ』の舞台は映画館だ。映写室も出てくる。映画を観終わったとき、無名時代のタランティーノがバイト先の場末の映画館の映写室で、ソニー千葉や梶芽衣子のフィルムを回しながら、『イングロリアス・バスターズ』のクライマックスの場面を思い浮かべていたに違いないと思った。
 世の中にはびこる「にんげんじゃねえ」奴らを彼の映画館に招待し、爆発的に燃焼するニトロセルロース・フィルム(1940年代までのフィルムは可燃性が強く、取り扱いが大変だった)を使って焼き殺す。だからこの作品は、まずクライマックスの「あのシーン」があって、それに至るまで話のつじつまを合わせていったのだと考えた。
 ところがそれは考え過ぎで、実際のタランティーノは、ロスのビデオ店でバイトしながら映画の脚本を書きためていた。彼は言う。「ナチは映画をプロパガンダに利用した。だから映画に復讐させたのさ」
 だが、「殺される奴ら」は交換可能で、ヒットラーやゲッペルズ、ゲーリングやボルマンを持ち出さなくても「人」であれば誰でもいい。その昔、自分も映画を見ながら何人殺しただろう? その意味では、『イングロリアス・バスターズ』は大藪春彦の小説に近い。大藪作品に登場する悪党(ときの権力者が多い)は拷問され、殺される。「悪党どもに死を!」がもらたしてくれるカタルシスが大藪作品の魅力だった。『ウィンチェスターM70』、『凶銃ルガーP08』、『血の来訪者』、『処刑の掟』、『蘇る金狼』なんか何度読んだだろう?

 名声&富を得たタランティーノが、まだこれほど青臭い映画を作れたことを素直に喜びたいのですが、最近の自分は「暴力」がすっかり苦手になってしまい、その点では全然楽しめませんでした。まあ、すっきりはしたけれど・・・。
 でもね、例えば政治の世界を眺めると、今のところ自民党と殆ど変わらない民主党の面々とか、刀舟先生に叩き斬ってもらいたいリストに加えたい人物も増えそうな感じです。「暴力」は反対でも、反骨精神と映画偏愛は持ち続けよう~♪

 これは蛇足だけど、藪さんの原点とも言える『裁くのは俺だ!』の探偵マイク・ハマーは、復讐の意をこめて真犯人の腹を45口径で撃った。腹を撃たれると非常に苦しんで死んでゆくらしい。死に様が強烈な『イングロリアス・バスターズ』の中でも、腹を撃たれる人物に一票!(ネタばれしても、これは言わない)

 『イングロリアス・バスターズ』公式HPは、 → ここをクリック


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