青春タイムトラベル ~ 昭和の街角

昭和・平成 ~良き時代の「街の景色」がここにあります。

実話・ハロウィーンの大パニック

2021-10-20 | 雑学(教養)の部屋

1938年10月30日のハロウィーン、アメリカが大騒ぎをしたのをご存知ですか?

ラジオから流れてきた、この言葉でパニックは起きました。

“Ladies and Gentleman, we interrupt our program of dance music to bring you a special bulletin from the Intercontinental Radio News.”

~ 皆さん、ここでダンスミュージックの番組を中断して、インターコンチネンタル・ラジオ・ニュースからの臨時ニュースをお届けします。~


「市民ケーン」「第三の男」で有名な、オーソン・ウェルズが演出・出演した、「H・G・ウェルズの宇宙戦争」というラジオ番組が、上の言葉の後に放送されたのです。

番組は、まず音楽番組としてスタート。それを中断して臨時ニュースが入ります。最初は火星で爆発があったというニュース。音楽番組に戻り、次にニュージャージー州に隕石が落下したというニュース。音楽番組に再度戻り、その後隕石落下現場からの中継となり、隕石は円盤で、そこから火星人が出てくる実況中継に・・・。その為ラジオを聞いていた人たちが、駅や教会等に避難するというパニックを引き起こしたのです。



この騒ぎは警察への数多くの問い合わせや、発砲騒ぎだけではなく、番組への訴訟も引き起こしました。また、エクアドルでは、これを真似たラジオ局が襲われて、死者を生む大惨事にもなりました。

この日は当時、アメリカ国民の3人に1人以上が聴取していた国民的人気を誇る裏番組に不人気歌手が登場し、多くの人が局を変えた瞬間、たまたま火星人によるニュージャージー州襲撃のくだりが放送されたことも、パニックに拍車を掛けました。更に、放送当時の国際情勢も、このパニックに深く関わっていました。同時期のヨーロッパでは、チェコスロヴァキアのズデーテン地方帰属問題をめぐってナチス・ドイツと欧米列強が緊張関係にあり、アメリカ国民の間でも、ヨーロッパで戦争が勃発し、自国も巻き込まれるかもしれないという懸念が膨らみつつあったのです。このため、火星人による襲撃をドイツ軍による攻撃と勘違いした住民も多く、当日は警察は暴徒の襲撃に備え番組終了後にラジオ局を緊急警備したと言います。

放送後、非常に多くの訴訟がオーソン・ウェルズを含む製作者に対して行われましたが、全て棄却または無罪となっています。なぜなら番組放送中、何度も「これはドラマである」旨の放送をしていたためです。余談ながら、1949年エクアドルにおいて同様のドラマが放送された時も暴動が起きましたが、こちらは放送後暴徒化した民衆によって出演者6名を含む21名が殺害され、プロデューサーは投獄されました。

デマによって人がパニックを引き起こすということは、よく知られています。関東大震災の時は、死者が出ましたし、日本での地震の時にも、動物園から猛獣が飛び出したというデマがネットで拡散されました。

昔はラジオ、そしてテレビの誤報が引き金になりましたが、このようなネットワークはメディアが運営しているものです。ところが現代の引き金は、インターネットです。誰もが情報を発信できる時代だからこそ、その情報性の信ぴょう性が問われます。何事も鵜呑みにせず、自分で情報を見極める目を持つことが必要ですね。


火星人がVan Ness Parkに「着陸した」ことを祝っている記念碑。

この番組の最後に、オーソン・ウェルズはこう告げたといいます。「これは、大人のためのハロウィーンです。今夜の教訓をお忘れなきよう。それではみなさん、おやすみなさい」