Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

花と兵隊

2009年08月20日 | 映画
 第二次世界大戦が終結しても、日本に帰らず現地に残った未帰還兵がいた。その人たちを探してインタビューをしたドキュメンタリー映画「花と兵隊」が公開されている。監督は松林要樹という1979年生まれの若い人。インタビューは2006年から2008年にかけておこなわれているから、監督がまだ20代のころ。
 監督の語るところによれば、あの戦争は祖父の時代のことでは済まない、戦争のとき祖父たちはまだ20代、今の自分と同じ年代、自分はたまたま今の時代に生まれたが、あの時代に生まれていたら、自分が遭遇したはず、もしそうだったら自分はどうしたか、そう考えると他人事ではない、と(大意)。

 登場する未帰還兵は6人。そのうちビルマ(現ミャンマー)国内の少数民族カレン族の中に定住の場を見出した坂井勇さんと中野弥一郎さん、タイに定住した藤田松吉さんの3人が主要登場人物。映画の前半は、坂井勇さんの大家族の日常生活を中心として、未帰還兵のみなさんが現地で根を張り、幸せな家庭を築いたことが描かれる。

 後半ではトーンが変わる。藤田松吉さんがシンガポールで華僑の大虐殺にかかわっていたことを語りだす。
 「あそこでは、殺したということは、小さい、このくらいの子供を殺してしまったんだよ。支那人の子供、殺してしまったんだよ。・・・あれは支那人の子供よ。支那人の子供とか、かかあとか、なんとか、全部殺してしまったんじゃ。命令が出てきたから殺したんだよ。女も子供も。」(プログラム誌)

 話はこれにとどまらない。6人の中でもいちばん穏やかで、好々爺のようにみえた中野弥一郎さんが、「なぜ帰国しなかったんですか」と問われて、言葉につまり、ボソッと一言いう、「ひとにはいえないことがあるんです」。心の中の闇がかいまみられる瞬間。
 先に行くと、藤田松吉さんも同じ闇をかかえていることがわかる。
 2人の闇がなんであるかをここに書くことは、はばかられる。そんなことをすると、2人の苦しみを冒涜するように感じられるから。

 闇を生きてしまった2人には、戦後の日本に居場所はなかった。かれらを受け入れてくれたのは、妻を含めた現地の人たちと熱帯の自然。
 映画の最後に、藤田松吉さんが2001年に亡くなった妻ボーチャルさんの写真をみるシーンがある。若いころのその写真は、きれいだった。
 藤田さん自身も今年1月に亡くなった。大虐殺にかかわった罪は、未来永劫ゆるされることはないだろう。そういう存在になってしまった藤田さんに、死後も寄り添ってくれる妻がいること――そこにせめてもの救いを感じた。
(2009.08.19.シアター・イメージフォーラム)

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