Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

意志の勝利

2009年08月15日 | 映画
 何年か前に(調べてみたら2003年だった)、ドイツの映画監督レニ・リーフェンシュタールの死去が報じられた。私は驚いた。それは101歳という年齢もさることながら、歴史上の人物だと思っていた彼女が、まだ生きていたから。報道によれば、70歳を超えてからもスキューバダイビングに興じていたとのことで、いかにも彼女らしい意気軒昂さだ。

 レニ・リーフェンシュタールというと、ヒトラーに気に入られて、ナチのプロパガンダ映画「意志の勝利」やベルリン・オリンピックの記録映画「オリンピア」をつくった人として、その名を記憶していた。

 なかでも「意志の勝利」にはおぞましいイメージがあるが、その映画が今都内で上映されている(8月28日まで)。ドイツでは法律で上映が禁止され、日本でも劇場上映は1942年以来67年ぶりとのこと。上映の趣旨は「本作を所謂「反面教師」とし、二度とあのような歴史を繰り返してはならないという現代社会への警鐘」にするためとされている。

 この映画はドイツのニュルンベルクで1934年9月4日から6日間にわたっておこなわれたナチの党大会の記録。1934年といえば、その前年に政権をとったヒトラーの絶頂期のころ。市内のさまざまな場所で昼夜を分かたずおこなわれる各種の集会やパレードは、まさに一大政治ショーだったことがわかる。

 映画の冒頭は、雲の上を飛んでいる飛行機からみた空の映像。飛行機にはヒトラーが乗っているように感じられる(多分これは演出。実際は‥)。次第に高度を下げると、ニュルンベルクの街並みが俯瞰され、地上には党大会のために集まっている群衆がみえてくる。
 カメラが切り替わって、飛行場の滑走路。そこに悠然と飛行機が降り立ち、ヒトラーが姿をみせる。ピークに達する群集の熱狂。この場面で、私は不覚にも背筋がゾクゾクしてしまった。ちょうどワーグナーの楽劇のクライマックスで感じるような高揚感。これはまずいと気を引き締めた。
 空港からオープンカーでパレードするヒトラー。沿道に並ぶ人々。若い母親が子どもを抱えて歩み寄り、歓迎の花束を手渡す。笑顔でこたえるヒトラー。今の時代でも、どこかの全体主義国家がやりそうな演出だと感じた。

 以下、この調子で6日間の集会やパレードが描かれる。カメラは、ヒトラーその人よりも、熱狂する人々を追っている。ナレーションは一切なく、映像と音楽とヒトラーその他の演説の声だけ。ある意味では単調だが、その繰り返しが圧倒的なうねりになる。低い声ではじまり、やがて興奮して絶叫するヒトラーの演説の陶酔感は、この映画を通じて確実に当時のドイツ各地に伝わったことだろう。
(2009.08.13.シアターN渋谷)

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2 コメント

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こんにちは (作務)
2009-08-17 10:44:40
この日本でも自民党(特に小泉純一郎とその一派が)ヒトラーのプロパガンダ方法を学び分析して、実行していると言われています。
広告代理店の電通が、全面的に彼らに手を貸していると言いますよ。
目的は勿論、日本の軍国化ですね。
http://blog.goo.ne.jp/blogsamu
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ナチ・ドイツと言葉 (Eno)
2009-08-17 12:27:06
小泉元総理の在任中に、その言葉と第三帝国の言葉の類似性について、どこかで指摘されていたことが記憶に残っています。短い言葉の繰り返しと、敵に対するバッシング。結果としての大衆の熱狂。岩波新書の「ナチ・ドイツと言葉」(宮田光雄著)が出たのも当時だったのではないでしょうか。わたしはまだ読んでいませんが、ずっと気になっています。
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