Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ブラビンズ/都響

2020年01月17日 | 音楽
 マーティン・ブラビンズは都響への客演が今回で5度目だ。わたしも何度か聴いているが、その都度興味深いプログラムを組んでいた。今回は「愛する人、親しい人に捧げた曲」を集めたもの。そのプログラムもさることながら、登場一番、でっぷり太って貫禄がついたのが印象的だった。今はイングリッシュ・ナショナル・オペラの音楽監督をしている。脂の乗り切った時期なのだろう。

 1曲目はラヴェルの「クープランの墓」。いうまでもないが、第一次世界大戦で戦死した友人たちのために書かれた曲。第1曲と第2曲ではリズムに弾みをつけようとしていることが聴き取れたが、今一つぎこちなさが残った。でも、全体としては心優しさが伝わる演奏だった。

 2曲目はジェイムズ・マクミラン(1959‐)の「トロンボーン協奏曲」(2016年)。5歳で亡くなった孫娘のために書かれた曲。独奏楽器がトロンボーンなので(わたしはトロンボーンの柔らかい音色が好きだが)、細かい動きには向かない。その点、あの手この手の工夫が凝らされ、こういっては何だが、作曲者の苦労の跡を感じた。

 トロンボーン独奏はアムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席奏者ヨルゲン・ファン・ライエン。この曲の初演者だ。名手なのだろう。アンコールにアルヴォ・ペルトの「Vater unser(天にいます我らの父よ)」が演奏された(独奏トロンボーンとヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1、コントラバスⅠの弦楽五重奏版)。胸に迫り、切なくなるような曲だった。

 余談かもしれないが、「トロンボーン協奏曲」に付された小室敬幸氏のプログラム・ノートが、かゆい所に手が届くような的確な解説で、初めて聴くこの曲の水先案内役を務めてくれた。お蔭で、今どこを聴いているのか、迷子にならずに聴くことができた。

 なお「トロンボーン協奏曲」の最後のほうにカデンツァの部分があるが、そのカデンツァが、独奏トロンボーンとオーケストラの中の3本のトロンボーンとの掛け合いになった。わたしにはそれが、孫娘を亡くした作曲者(=独奏トロンボーン)が3人の天使と議論しているように見えた。

 3曲目はエルガーの「エニグマ変奏曲」。前述の通り貫禄のついたブラビンズの、どっしりした、豪快さと繊細さを併せ持つ名演だった。個別の変奏では、第13変奏「***」でクラリネットが弱音で演奏する、その緊張感と集中力に息をのんだ。クラリネットを吹いたのは首席奏者の一人、サトーミチヨさんだった。
(2020.1.16.サントリーホール)

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