Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

川瀬賢太郎/日本フィル

2020年11月29日 | 音楽
 日本フィルの11月の横浜定期は、当初はインキネンが振る予定だったが、来日できなかったので、川瀬賢太郎が代役に立った。プログラムも一部変更になり、オール・ベートーヴェン・プロになった。その選曲がわたし好みの曲ばかりで、ひじょうに楽しみなプログラムになった。

 1曲目は序曲「レオノーレ」第3番。冒頭の和音の一撃からして、川瀬賢太郎の思いのこもった重々しい強烈な音が響いた。続く部分のどこをとっても川瀬の意思が徹底されていた。だが、残念ながらオーケストラが硬かった。もっとほぐれた余裕のある演奏がほしかった。少なくともこの曲にかんしては、川瀬の意図をくむだけで精一杯だったようだ。

 2曲目は交響曲第8番。オーケストラには1曲目のこわばった表情がとれて、みずみずしい音色がよみがえった。川瀬の意図はこの曲でも明瞭で、バネのようにしなやかな腕と膝から、目の覚めるようなヴィヴィッドな音楽が生まれた。1曲目で不安定だったホルンも、この曲では安定した。

 以上がプログラム前半で、後半はヴァイオリン協奏曲。ソリストは、当初はピンカス・ズーカーマンが予定されていたが、竹澤恭子に変わった。その竹澤恭子が、いまでは大家というにふさわしい、どっしりとした、集中力の途切れない演奏を聴かせた。とくに第2楽章の後半は、テンポをかなり落として、集中力のぎりぎりのところまでいったが、そこでも緊張の糸が切れなかった。

 川瀬賢太郎もその竹澤にぴったりつけた。川瀬は1曲目と2曲目では鋭角的なリズムで尖った演奏を繰り広げたが、この曲では竹澤の滑らか演奏に合わせて、リズムの角をとり、ゆったりと穏やかな演奏で竹澤を支えた。

 プログラムはこれで終わりだが、竹澤恭子のアンコールがあった。バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番からサラバンド。これもすばらしい演奏だった。清潔で正確なバッハだ。わたしはヨーロッパのどこかで(たとえば古城の一室で)聴いているような感覚になった。

 全体を通して、川瀬賢太郎が自分の音楽をやっていることが強く印象づけられた。自分の感性に正直な音楽だ。川瀬は1984年生まれ。山田和樹(1979‐)、鈴木優人(1981‐)、原田慶太楼(1985‐)と同世代だ。下野竜也(1969‐)からはひとつ下の世代にあたるこれらの才能が、今後思う存分自分の音楽を展開するよう願ってやまない。コロナ禍がこれらの才能にスポットライトを浴びせたなら、それは思いがけない僥倖だ。
(2020.11.28.横浜みなとみらいホール)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 藤倉大「アルマゲドンの夢」... | トップ | アダム・フィッシャーのCD »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事