Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

沖澤のどか/東京シティ・フィル

2024年01月14日 | 音楽
 沖澤のどかが東京シティ・フィルの定期演奏会に初登場した。1曲目はシューマンのピアノ曲「謝肉祭」をラヴェルがオーケストラ用に編曲したもの。そんな曲があったのかと思う。柴田克彦氏のプログラムノーツによると、ラヴェルが舞踊家のニジンスキーのために行った編曲とのこと。惜しむらくは、ラヴェルは「謝肉祭」の全曲をオーケストレーションしたが、出版されたのは4曲だけ。それ以外の曲は失われたそうだ。

 出版された(今回演奏された)4曲は「前口上」、「ドイツ風ワルツ」、「パガニーニ」、「ペリシテ人と闘うダヴィッド同盟の行進曲」。どの曲もバレエ音楽らしい華やかさに満ちている。全曲が残っていたらどんなに良かったことか。編曲時期は1914年なので、たとえば1912年の「ダフニスとクロエ」よりも後だ。ラヴェルの成熟した手腕がうかがえる。演奏も良かったと思う。沖澤のどかの指揮もさることながら、東京シティ・フィルがバレエ音楽の演奏に慣れていることがうかがえる。

 2曲目はシューマンのピアノ協奏曲。ピアノ独奏は黒木雪音(くろき・ゆきね)。わたしは初めて聴くが、海外のいろいろなコンクールに優勝または入賞している人のようだ。第1楽章冒頭のテーマがニュアンスたっぷりに演奏された。思わず引き込まれた。第2楽章が意外におもしろかった。とくに変わったことはしていないが、一音一音を正確かつ丁寧に演奏するので、おのずから音楽のおもしろさが滲み出る。第3楽章のコーダも正確に演奏するため、寄せては返す波のような音楽の高揚感が生まれた。

 アンコールにカプースチン(1937‐2020)の「8つの演奏会用エチュード」(1984)から第1曲プレリュードが演奏された。シューマンとは打って変わって、ヴィルトゥオーゾ的な曲および演奏だ。ジャズの要素も感じられる。派手なその演奏とシューマンの素直な演奏と、このピアニストの資質はどちらにあるのか。

 じつは私事だが、当日の朝、元の職場の友人の訃報が入った。孤独死も同然の亡くなり方だった。ショックだった。その友人の人生とはいったい何だったのかという想いが、シューマンのピアノ協奏曲を聴いているあいだ中、頭から離れなかった。シューマンのピアノ協奏曲が友人を送る音楽に聴こえることが意外だった。

 3曲目はラヴェルの「ダフニスとクロエ」の第1組曲と第2組曲。第1組曲冒頭の「夜想曲」と第2組曲冒頭の「夜明け」が、丁寧な音作りで雰囲気たっぷりに演奏された。沖澤のどかの美質の表れだ。第2組曲の「無言劇」のフルート独奏もニュアンス豊かだった。前首席奏者の竹山愛の抜けた穴をうめるに足る人材だ。最後の「全員の踊り」はスリリングな迫力に欠けなかった。
(2024.1.13.東京オペラシティ)

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