Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

広上淳一/日本フィル「道化師」

2023年07月09日 | 音楽
 広上淳一が指揮する日本フィルのオペラ「道化師」の演奏会形式上演。日本フィルはラザレフの指揮で2019年5月に「カヴァレリア・ルスティカーナ」の演奏会形式上演を行った。それ以来4年越しのダブルビルの完成のようにも見える。それほどこの2作は緊密に結びついている。

 ラザレフの「カヴァレリア・ルスティカーナ」も素晴らしかった。ロシアの指揮者がイタリア・オペラを?と思う向きもあるかもしれないが、ラザレフほどの大指揮者であれば、イタリア・オペラも見事だ。音色は明るく透明で、全体の構成もゆるぎない。

 今回の広上淳一の「道化師」も良かった。ゴージャスな音色でダイナミックな演奏だった。歌手はともかくオーケストラは、劇場ではピットの制約のため、これほど豊麗に鳴らすことは難しい。また劇場は基本的にデッドな音響なので、歌手をふくめてこれほど煌びやかな音色にはならない。

 広上淳一の指揮は全身を使い、思う存分やりたいことをやっていた。気合の入った本気の指揮だ。そのくらいの指揮でないと、オペラをやる意味がないだろう。わたしは1974年の春季のシーズンから日本フィルの定期会員なので、広上淳一のデビュー以来その指揮を聴いてきたが、デビュー当時のがむしゃらな指揮から、中年になって脱力系の指揮になり、ベテランになった今はどこに向かうのかと思っていた。今回の指揮は脱力系を乗り越えて、目覚ましい境地を示した。

 歌手も良かった。カニオを歌った笛田博昭は、第1幕の登場の場面から、圧倒的な歌声を聴かせた。だが、どういうわけか、肝心の「衣装をつけろ」は胸に迫るものに欠けた。感情表現の綾が乏しかったのか。トニオを歌った上江隼人はもうベテランだ。歌手陣の中で重石の役割を果たした。ペッペを歌った小堀勇介は「アルレッキーノのセレナータ」で甘い美声を聴かせた。忘れてならないのは、東京音楽大学合唱団と杉並児童合唱団の健闘だ。演奏全体を活気づかせた。

 「道化師」は上述の通り「カヴァレリア・ルスティカーナ」とダブルビルで上演されることが一般的だが、両者は似ている点が多々あるものの、対照的な点もある。そのひとつは、「カヴァレリア」が自然な抒情を基調とするのにたいして、「道化師」は技巧的な作りになっている点だ。とくにそれはドラマと現実が絡み合う点に顕著なわけだが、それ以外にも過多と思われるほど多くの場面が詰め込まれている点にも表れる。なので、劇場で観ると、ドラマに追われてせわしないのだが、今回のように演奏会形式で聴くと、音楽に集中でき、分かりやすい。いろいろな発見があった。
(2023.7.8.サントリーホール)

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