Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

血の婚礼

2015年10月27日 | 演劇
 新国立劇場の演劇研修所の公演には、演目に惹かれて、時々出かけている。今回の演目はロルカの「血の婚礼」。これはぜひ観てみたいと思った。

 「血の婚礼」はロルカの‘三大悲劇’といわれているものの一つだ。戯曲は読んだことがあるが、舞台は初めて。戯曲の枝葉を切り落として、約100分の上演台本にまとめていた。ストレートに話が進む。スピーディな展開。手際のよいまとめ方だったのではないかと思う。

 舞台美術も簡素だ。客席の最前列と同じ平面で(つまり客席よりも一段高い舞台ではなく)芝居が進む。床面には大きな円が描かれている。円の中が舞台だ。円の周囲に8本の高低差のある四角柱が立っている。これらの四角柱は動かすことができる。あるときは家の壁に、またあるときは森の木々になる。

 こういったシンプルな舞台美術は、わたしは大好きだ。数年前にチューリヒ歌劇場で「リゴレット」を観たときは、会議室用の机と椅子だけでやっていた。それだけで立派なオペラになっていた。

 演劇研修所のみなさんは(いつものことながら)熱演だった。十分にこの悲劇の世界を形作っていた。

 ストーリーは、スペインのアンダルシア地方の小村を舞台に、元カレが忘れられない娘と、(今は結婚しているが)その娘を忘れることができない元カレとが、娘の結婚式の当日に駆け落ちすることによって起きる悲劇。スペインの地方色が濃厚な芝居だが、同時に現代の日本でも起きそうなことだ。ロルカの世界と現代の日常性とが、透明な二重写しとなって見えてくる。そんな感覚に襲われる芝居だ。

 スペインの地方色は、主に音楽によって生まれてくる。ギターやアコーディオンによって静かに流れる音楽。また、ロルカの戯曲にふんだんに含まれる歌の数々。あれらの歌はだれが作曲したのだろう。語りのイントネーションに近い簡潔な歌たち。それらを歌う研修生のみなさんは、よく訓練されていた。

 ロルカの芝居というと、昨年、日生劇場が制作したゴリホフのオペラ「アイナダマール」のプレイベントとして、日生劇場のロビーで上演された「マリアーナ・ピネーダ」を想い出す。まったくなにもないロビーで、役者が動き回るだけの上演だったが、空間の立体的な使い方によって、ロルカの劇世界が立派に現出していた。やる気があれば、お金がなくても芝居はできるという一例かもしれない。
(2015.10.26.新国立劇場小劇場)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする