Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カルメル派修道女の対話

2013年10月26日 | 音楽
 矢崎彦太郎指揮東京シテイ・フィルの「カルメル派修道女の対話」。フランス音楽の彩(あや)と翳(かげ)シリーズの第20回だ。偶然だろうが、第20回という節目でこのような大曲が演奏されたことは、永く記憶されると思う。(注)

 ブランシュは浜田理恵。舞台に出てきたときから影を帯びた表情で、もうブランシュそのものだった。愁いのある歌唱にブランシュとしてのリアリティがあった。またフランス語の発音も自然だった。繊細な――繊細すぎるほど繊細な――ブランシュは日本人の歌手に合うのではないかと思った。今まで聴いたどのブランシュよりもしっくりきた。

 ブランシュだけではなく、他の役もよかった。まずマリー修道女長の秦茂子。声がよく、またフランス語も自然だった。フランスで活動している人だそうだ(浜田理恵もフランス在住だ)。しゃにむに殉教に導こうとするマリーではなく、落着いた姉のような存在のマリーだった。

 クロワシー修道院長の小林真理もフランス語が自然だった。プロフィールによると、この人もフランスを中心に活動しているようだ(以上の3人の歌手はフランス在住の矢崎彦太郎の人脈なのかもしれない)。クロワシー修道院長は第1幕の最後で亡くなるが、そのときの取り乱し方が大袈裟ではなく、自然だったのもよかった。

 後任のリドワーヌ修道院長は半田美和子。美しい舞台姿だ。その実力は周知のことだと思う。この人のフランス語は初めて聴いた気がする。美しいフランス語でとくに不満はないが、上記の3人のなかに入ると、発音がほんの少し強く感じられた。

 第2幕で女声合唱が入る場面では、合唱の一部が1階席の一番後ろで歌った。これはすばらしく効果的だった。ホール全体が大聖堂のなかのように鳴った。

 最後に修道女たちが処刑される場面では、修道女たちはオーケストラの後方のパイプオルガンの前に並んだ。ギロチンの音が鳴るたびに、まずリドワーヌ修道院長の半田美和子がこうべを垂れて腰を下ろし、そして次々に腰を下ろした。わずかこれだけの演出で処刑の悲劇が感じられ、胸に迫るものがあった。

 オーケストラもすばらしかった。プーランクの明るく弾けるような音、ハッとするような暗い影のある音、また――このオペラで顕著な――深く沈潜するような音など、このオペラを隅々まで描き出した。個別的には第1幕のクラリネット・ソロが印象的だった。
(2013.10.25.東京オペラシティ)

(注)このブログは演奏会の翌日に書きました。そのときはプログラムを読んでいませんでした。数日たって読んだら、矢崎さんのメッセージが載っていました。フランス音楽の彩と翳シリーズは「諸般の事情により」これで終了するそうです。残念。
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