Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2013年10月19日 | 音楽
 ラザレフ/日本フィル。プロコフィエフ、ラフマニノフと続けてきたチクルス演奏は、今回からスクリャービンが始まった。スクリャービンの全貌をつかむ、あるいは真正面から向かい合ういい機会になると思う。

 1曲目はチャイコフスキーのバレエ組曲「眠れる森の美女」。冒頭の「序奏」がものすごい勢いで始まったときには、正直いってびっくりした。咆哮するオーケストラ。ラザレフが感じるこの曲はこうなのかと驚いた。全5曲のすべてがそうだったわけではなく、オーソドックスに流す曲もあったが、最初の一撃のショックは大きかった。

 2曲目は武満徹の「ウォーター・ドリーミング」。フルート・ソロをともなうこの曲、首席フルート奏者の真鍋恵子がエレガントなドレスを着て出てきたときには、別人のように見えた。音のよさはいつものとおり。

 オーケストラは水彩画のように薄い音だった。この曲を生で聴くのは初めてなので、自信をもってはいえないが、武満徹の同時期の作品から類推するに、もう少しこってりした音であってもおかしくない気がした。もしかすると、ラザレフが感じる武満徹(=日本)の音はこうなのかと思った。

 3曲目はスクリャービンの交響曲第3番「神聖なる詩」。じつにきちんと、折り目正しく演奏されたスクリャービン。素直にその音楽に浸ることのできる演奏だった。スクリャービンの正統的な演奏というか、――おどろおどろしさで塗り固められた演奏ではなく――格調高く作品の真の姿を再現した演奏だった。

 大村新氏のプログラムノートによれば、第2楽章のヴァイオリン・ソロは「ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》の第2幕を思わせる」とあるが、第2楽章全体が、鳥の鳴き声の模倣もあって、レスピーギの「ローマの松」の第3部「ジャニコロの松」のように感じられた。もっとも、「ジャニコロの松」は南国の甘い香りが充満する夜だが、スクリャービンのほうは北国の冷たく冴えわたった月夜のような感触だ。

 この曲あたりから顕著になるスクリャービンのトランペットの偏愛、そのトランペットはオッタビアーノ・クリストーフォリが吹いた。さすがに名手だ。安心して聴いていられた。1曲目と2曲目は別の人が吹いていて、やや不安定だった。スクリャービンでクリストーフォリが出てきたときにはホッとした。定期なのだから1曲目からベストメンバーで臨んでほしいと思うのだが――。
(2013.10.18.サントリーホール)
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