Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

西埠頭

2010年04月23日 | 演劇
 新国立劇場が「演劇研修所修了生のためのサポートステージ」と銘うった公演の「西埠頭」。作者はベルナール=マリ・コルテス。私はその名前を知らなかったので、例によってWikipediaで調べてみたが、のっていなかった。そこであれこれ検索していると、今回の出演者の北川響さん(演劇研修所一期生2008年修了)のブログに行き当たり、有益な情報をえた。

 それによると、コルテスは1948年フランス生まれ(生地はメッス)。16歳のときに、ランボー、デカルト、クローデル、ドストエフスキー、ゴーリキー、ツルゲーネフ、トルストイなどを読む。1968年ニューヨークへ旅。1970年ストラスブール演劇学校に入学。1973年ソ連(当時)へ旅。その後、ニカラグア、メキシコ、ナイジェリア、マリ、コートジボワール、セネガルへ旅。ニューヨークにも2回。1989年エイズにより没。

 これをみると、読書の傾向と生涯にわたる辺境への旅(そう言ってよければ‥)が特徴的だ。そこからこの劇作家のプロフィールが浮かび上がる感じがする。

 「西埠頭」は1986年の作品。場所はニューヨークを思わせる港湾都市。ネズミやゴキブリに占拠された倉庫に住みつく移民の一家。ある夜、場違いなブルジョワの男女が車で乗りつける。男は横領行為の発覚を恐れている。その男を襲って金目のものを巻き上げようとする一家。(公演プログラムより抜粋)

 事前に、これは中劇場に特設舞台を設けた公演、と告知されていたが、それがどんなものかは、イメージできなかった。中劇場に入ると、メインステージに階段状の客席が仮設され、その客席は奥舞台に向いていた。そこはパイプがむき出しの暗い空間。装置は一切なく、ガランとしている。芝居がはじまると、役者がそこを走り回る。照明は主に下手奥から横方向に照射される。その結果、多くの場面がシルエットになる。

 この芝居は、物語の論理的な展開よりも、登場人物たちの激しく、そして無意味な、憎悪のぶつかり合いの情景。おそらく原作では、暴力や性も大きな要素になっているのではないかと想像される。今回は、演出家のモイーズ・トーレと鵜山仁によって再構成され、ピナ・バウシュ・カンパニーのダンサーだったというフランシス・ヴィエットによる「ムーブメント」が振付けられていて、暴力や性は「ムーブメント」のなかに収斂している。

 演劇研修所の修了公演というのは、今回がはじめてらしい(オペラ研修所ではすでにいくつかの優れた成果をあげている)。修了生3名と中堅・ベテラン4名が同じ舞台にたち、台詞はもちろん、「ムーブメント」の身体表現でもしのぎを削る姿は、爽快だった。
(2010.4.22.新国立劇場中劇場)
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