Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マネ展

2010年04月19日 | 美術
 丸の内にオープンした三菱一号館美術館の開館記念展「マネとモダン・パリ」展。モネやルノワール、あるいはゴッホではなく、マネをもってきたところに、同館の心意気が感じられる。もちろんこれは同館の館長、高橋明也氏あってのこと。

 内容の充実度は驚くべき程だ。今まで画集でみていた作品の実物が何点もきている。やはり実物だとちがうと感じた。たとえば「扇を持つ女」。ボードレールの愛人ジャンヌ・デュヴァルを描いたものだが、この絵がこんなに凄みのあるものだとは思っていなかった。目元の黒いくまが異様。その黒は髪の黒と呼応し、ドレスの白はカーテンの白と呼応し、扇の暗緑色はソファーの暗緑色と呼応している。限られた色による閉塞感。

 同じように画集でみていた「死せる闘牛士」。画集でみていたときには気がつかなかったが、男の左手小指には指輪があり、また胸元には小さな血痕がついている。これらのディテールが、男の死に現実味をおびさせる。

 「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」は2007年のオルセー美術館展にも来ていたが、今回こうしてマネという一本の文脈のなかに置かれると、味わいが深まる。モデルをその個性の先端でとらえた瑞々しさ、といったこと以外に、背景となったカーテンから入る薄い光が、なんともいえない柔らかさで画面をみたす。

 「ビールジョッキを持つ女」は、舞台をみつめる観客のなかで立ち働く給仕女――そこだけポッカリあいた異空間――を描いたもの。私のもっている画集にはロンドンのナショナル・ギャラリー収蔵の作品が載っているが、こちらはオルセー美術館のもの。こちらのほうが給仕女にはっきり焦点が合っていて、数年後のマネ畢生の傑作「フォリー・ベルジェールのバー」に一歩近づいている。

 一点一点は比較的地味かもしれないが、これだけの内容を誇るマネ展は、今後は難しいだろう。お陰で、マネとはなんだったのかを考える、よいきっかけになった。

 三菱一号館美術館は昨年完成した建物。もともとは1894年(明治27年)に建てられたオフィスビルだったそうだ。やがて1968年(昭和43年)に取り壊し。そのビルを、建設当時の設計図や解体時の実測図、写真などにもとづいて復元したもの。昨秋、プレオープンとして、その復元の過程が展示されたが、途方もない労力だと感心した(おそらくは資金も‥)。
 復元された建物には、古い事務室の名残がよみがえっている。そこでみる展覧会には、従来の美術館の抽象的な空間には感じられないないぬくもりがあった。
(2010.4.16.三菱一号館美術館)
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