Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

青ひげ公の城

2010年03月19日 | 音楽
 東京シティ・フィルは、2月定期では阪哲朗さん(ドイツのレーゲンスブルク歌劇場音楽監督)の指揮で、シューマンの交響曲第4番の好演をきかせてくれた。今月は常任指揮者の飯守泰次郎さんの指揮で次のプログラムが組まれた。
(1)コダーイ:管弦楽のための協奏曲
(2)バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式、字幕付き原語上演)

 コダーイの曲は日本初演だそうだ。舩木篤也さんのプログラム・ノートによれば、コダーイはシカゴ交響楽団の委嘱を受けてこの曲を書き、自ら初演の指揮をとるつもりだったが、第2次世界大戦の勃発のために断念し、亡命してアメリカに渡るバルトークにスコアを託したとのこと。生涯の別れとなったその場面が目に浮かぶ。

 曲は単一楽章の明るい民族的な音楽。シンコペーションで追い上げる部分はいかにもコダーイらしい感じがする。同時期の「ハンガリー民謡『くじゃく』による変奏曲」に比べると新古典主義的な軽さのある音楽だ。
 演奏は、金管がバリバリ鳴って、歯切れのよい演奏だったが、どこか余裕のなさを感じた。練習時間にかぎりがあったのだろうか。もしそうだとしても、安全運転で演奏されるよりはよっぽどよい。

 「青ひげ公の城」はじっくり落ち着いて、七つの扉の音楽的なちがいを描き出し、色彩的な変化を克明にたどり、また、青ひげ公の詠嘆的なアリオーソなどをあるべき場所にきちんと収めた演奏。飯守泰次郎さんはこの曲を知り尽くしている――そのことが十分に感じられる演奏だった。
 青ひげ公は小鉄和広さん。美声だが、この役にはもっと凄みがほしい。もっとも、これは気楽な立場の勝手な言い分かもしれない。プロフィールによれば、小鉄さんはこの役のためにわざわざハンガリーに行ってコーチを受けたらしい。
 ユディットは並河寿美(なみかわひさみ)さん。愛、好奇心、不安、恐怖へと揺れ動くこの役をよくこなしていた。舞台映えする容姿の人。

 私は今まで何度このオペラをきいたことか。昔は猟奇的な面にひっかかって、あまり好きにはなれなかったが、最近はだんだん面白くなってきた。多分このオペラの象徴するところがわかってきたからだと思う。
 このオペラは、人間の心の闇にかかわる物語だ。人間には残虐性、攻撃性、富や権力や美にたいする欲望などがひそんでいる。それが青ひげ公の七つの扉だ。これを開けてはならない。けれども、開けたいユディット。開けさせたくないけれども、もしかすると開けさせたいのかもしれない青ひげ公。その闘争と永遠に解決できない結末がこのオペラだと、遅ればせながら、やっとわかるようになってきた。
(2010.3.18.東京オペラシティ)
コメント
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