Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パン屋大襲撃

2010年03月09日 | 音楽
 望月京(もちづきみさと)の新作オペラ「パン屋大襲撃」。2009年にルツェルン劇場で初演され、引き続きウィーンではクラングフォーラム・ウィーン(現代音楽の演奏団体)によって上演されたとのこと。今回は日本初演。

 原作は村上春樹の短編小説「パン屋襲撃」と「パン屋再襲撃」。この機会に読んでみたが、なるほど面白い。簡単にいうと、若い夫婦が、空腹のあまり、深夜に目をさます。あいにく台所にはなにもない。途方にくれた夫が、若いころに同じように空腹に耐えかねて、パン屋を襲撃した話をはじめる。パン屋のおやじは、ワーグナーを一緒にきくことを条件に、パンをくれた――。
 その話をきいた妻は、今のこの空腹はそのときの呪いなのだという。呪いをとくには、もう一度パン屋を襲撃して、パンを奪わなければならないと。
 夫婦は深夜の街にでる。(その先の展開は、ここでは控えることにする‥。)

 「パン屋再襲撃」には「ニーベルングの指輪」のパロディらしき表象が仕込まれている。私もそうだが、ワーグナー好きには面白くてたまらない。これがオペラになると、当然ワーグナーのパロディがでてくるだろうと興味がわく。さて、どういうパロディか。

 実際にパロディはでてきた。このオペラが初演されたルツェルンはワーグナーゆかりの地。同地の観客は面白さも一入だったろう。
 もっとも、全篇これパロディという作品ではなかった。基調としては、電気ギターなどを使用しながら、現代的なポップ感覚の音楽によって、若者の日常を切り取った作品といったところ。ワーグナーや、一瞬でてくるバッハなどは、おやじ世代の遺物か。

 個々の役柄では、マクドナルドの「レジの若い女」が高音域を駆け回る音楽で、私はたまたま2月にフランクフルトでみたトーマス・アデスのオペラ「テンペスト」の妖精エアリエルを思い出した。このブログにも書いたが、そこにはリゲティのオペラ「ル・グラン・マカーブル」のゲポポの流れを感じるので、この3者はつながることになる。
 また「夜番のマネージャー」はカウンターテナー役になっていて、「テンペスト」の大酒飲みトリンキュローと共通し、「ル・グラン・マカーブル」のゴーゴー侯も同じだ。
 下世話な表現で申し訳ないが、この業界にも流行があるのだろうか。

 日本人の歌手たちはみな頑張っていたが、明るく、乾いた、弾けるような感覚には欠けていた。ルツェルンやウィーンの上演では、もっとちがっていたのではないか。これはウェットな日本人のメンタリティーの故なのかと思った。
(2010.3.8.サントリーホール小ホール)
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