先日、永田浩三さんの退官記念の最終授業に参加したときに、受付で購入したのが『原爆と俳句』(大月書店)でした。昨年12月の出版にかかわらず、今年の2月に2刷が刊行されています。オビは、ノルウェーでノーベル平和賞受賞演説を数十分間にわたって矍鑠として演説した日本被団協代表委員の田中煕巳さんです。
この本のテーマについては、「はじめに」で永田さんは次のように述べています。
「この本のテーマは原爆という人類の課題に対して、俳句がどのように向き合い、闘いを挑んで来たかを問うものである。」(9頁)
そもそも1954年大阪生まれの著者がなぜ「原爆」なのか、と思いました。本文中に次のような記載があり合点がいきました。広島での被爆2世であり2頁にわたってその自己史が語られます。
「わたしの母や祖父・祖母は原爆投下の際、八丁堀で被爆。燃えさかる街を北に逃げた。」(135頁)
著書に『ベン・シャーンを追いかけて』『ヒロシマを伝える』などがあるのも頷けます。ギャラリー古籐で四國五郎さんのご子息四國光さんと親しげに話されていたのを思い出します。四國五郎さんは絵本『おこりじぞう』の絵を描いた人で私には馴染みがあります。
四國光さんの『反戦平和の詩画人 四國五郎』(藤原書店)の出版は2023年のことで話題を呼んでいます。
与謝蕪村や正岡子規の俳句から始まって、寺山修司や無着成恭、中村晋、渥美清なども登場して、興味深く読むことができます。カバー装画は鉛筆画家の木下晋さん。
御一読のほどを!
◆もっと人間的な司法を
鎌田 慧(ルポライター)
石川一雄さんの悲報を妻・早智子さんの電話で受けて絶旬した。新年
から体調を崩していた。それでも回復を信じていた。彼もそうだったと
思うのだが急逝した。
埼玉県狭山市で1963年5月に発生した女子高校生殺しの犯人とされ
て、第一審死刑判決。二審無期懲役。最高裁で上告棄却。
31年ぶりに仮釈放されて帰宅した時は55歳になっていた。
それ以来、再審請求し、無実を示す鑑定書を提示しても一度も『証拠
調べ」がなかった。
高校生が白昼誘拐され身代金を要求された事件とされるが、顔見知り
による殺人で脅迫状は偽装の証明であろう。
石川さんの家庭は極端な貧困で小学校さえろくに通えなかった。
非識字者が脅迫状で金銭要求すると考えるなど、非識字者の苦しみと
悲しみ、恐怖を想像したことのない人間の傲慢さ、とこの欄で書いた
(2月11日)。
最高裁は「他の補助手段を借りで下書きや練習すれば、作成すること
が困難な文章ではない」と」の地裁判決を支持している。
「最近、急に体力が低下してきた。鑑定人尋問、再審開始決定、無罪
判決、それまでの時間が心配だ」とも書いてから1カ月。石川さんは無
念を抱えて旅立った。
その日はくしくも61年前、一審死刑判決が出された日だった。
石川さん追悼集会は4月16日(水)午後1時から、日本教育会館(東京
都千代田区ーツ橋2) で。
(3月18日「東京新聞」朝刊19面「本音のコラム」より)
◆妻は職業を諦めろ?
日本は「女性の地位後進国」
前川喜平(現代教育行政研究会代表)
14日の本紙タ刊によれば、宮崎産業経営大で男性教授と女性助教が結
婚したことを理由に、女性助教が雇い止めを通告されたという。学園側
は「夫婦共稼ぎはご遠慮いただく不文律がある」と言っているそうだ
が、そんな人権侵害の不文律に存在の余地はない。
かつて一部の教育委員会で、夫婦とも教員の場合に、夫が管理職に
なったら妻は依願退職するという不文律が存在していた。そんな陋習(ろ
うしゅう)は、さすがに今はなくなっでいると信じたいが…。
ちなみに文部科学省にはそんな不文律はない。夫婦とも局長になった
例もある。
しかし、職業を持つ女性が夫や家族のために白分の職業生活を諦める
のは当然だという観念は、日本社会のあちこちにまだ残っている。
そんな古い観念を、道徳教育を通じで再生産しようとする人たちもい
るのだ。
日本教科書という会社がつくった中学生用道徳教科書には「ライフ・
ロー ル」という題の教材が載っている。
祖母の介護について、夫婦と子どもたちで話し合った結果、妻が介護
することを決め、職場での管理職への昇進を諦めるという話だ。
ライフ・ロール(人生の各局面で担うべき役割)に名を借りて、女性
は家族のために職業を諦めるべきだという考えを生徒に植え付ける。
こんな教科書を書く人たちがいる日本は、やっばり「女性の地位後進
国」だ。 (3月16日「東京新聞」朝刊21面「本音のコラム」より)