前回のブログで、大逆事件に連座した坂本清馬のことを、鎌田慧さんの『残夢』や『坂本清馬自伝』などで紹介しました。自分の無知をさらけ出しながらも、あまりの衝撃で、市民運動の仲間たちにもこのことをレポートすることにもなったのです。
そしてさらに、『大杉榮 自由への疾走 』を手に取ることにしました。この本は『残夢』の続編という趣の本でした。奇しくも大杉榮は坂本清馬と同い年です。「赤旗事件」で獄中にあった大杉は大逆事件の連座を免れたものの、その12年後の関東大震災のときに伊藤野枝、甥と官憲により虐殺され、古井戸にぶち込まれたのでした。この時、労働運動家10名と、数千人ともいわれる朝鮮人が虐殺されたことは周知の事実です。
『大杉榮 自由への疾走 』〔岩波書店、1997年(岩波現代文庫に収録)〕は私が言うまでもないことですが、作者渾身の労作で名著です。まずは、その概要から見てみましょう。
〇岩波書店サイトより
「春三月 縊り残され 花に舞う」
大逆事件――幸徳秋水ら12名が,「天皇に危害を加えようとした」として大逆罪で絞首刑となったとき,たまたま大杉栄は別の事件で収監されており,社会主義者を壊滅させようとしたこの権力の陰謀からまぬがれた。大杉26歳のときのことである。その2ヵ月後,生き残りの社会主義者たちの合同茶話会で大杉が読んだのがこの一句。
「ここにあらわれているのは,首を撫でおろしてホッとしている感慨ではない。むしろ,遺された時間をさらに闘争にあて,豪華絢爛に散ろうとする決意表明のように読める。」
著者,鎌田慧氏は,このようにこの句を読み,関東大震災の後,伊藤野枝,甥の橘宗一とともに官憲に惨殺されるまでの「叛逆」に生きた大杉の鮮烈な生涯を,新たな資料,豊富な取材をもとに跡づけた。本書は,自由へ向け疾走した大杉の生涯,そして彼と同じく困難な時代、状況を突破しようとしていた男たち女たちの群像を,現代の反骨ルポライターが描ききった大作である。
第1章 予感 第6章 脱出
第2章 叛逆 第7章 虐殺
第3章 苦闘 第8章 復讐
第4章 煩悶 第9章 欺罔
第5章 自由
大杉榮略年譜
あとがき
岩波現代文庫版あとがき
人名索引
さらに、文庫版には次のような紹介があります。
〇(文庫版)思想に自由あれ。しかし又行為にも自由あれ。そしてさらには又動機にも自由あれ-躍動する知性,柔軟な思考,本当の自由人・アナキスト大杉榮の言動のエッセンスは閉塞した精神に風穴をあける。叛骨,反権威のルポライターが選んだ自由へ疾走する思想家の現代人への熱いメッセージ。
大杉榮を最初に意識したのは、私が敬愛する先輩教師の故・村田栄一さんの『学級通信ガリバー』『戦後教育論』(社会評論社)を読んでのことでした。村田さんは大杉榮の「生の拡充」という考え方は教育の究極の目的の一つではないかというのです。その時から「生の拡充」というキーワードが頭にこびりついて離れませんでした。
『大杉榮 自由への疾走 』を読んで最初に浮かんだことばは、『残夢』と同様に、良質な多角的ドキュメンタリードラマであるということでした。おそらく本人が読んだら、へえ、そういうことだったのかという、本の「主人公」自身でもある気づきがある秀逸なルポになっているということです。単に大杉の思想遍歴をなぞるものでないということが鎌田評伝の特徴なのです。鎌田さんは思想遍歴についてはあとで触れる『大杉榮語録』を用意してくれています。
そして、大杉はなんて恋愛に関して自由なのかということです。彼の生き方のテーマは〔愛と革命〕と言いきってもいいようです。妻の堀安子(堺利彦妹)、伊藤野枝(辻潤の妻)、神近市子との自由恋愛。このあたりは瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』〔(大杉栄・伊藤野枝)文藝春秋 1966 のち角川文庫、文春文庫〕、『遠い声』〔(管野スガ)新潮社 1970 のち文庫〕を読んでみたいと思います。
故・布施哲也さんの出版記念会に参加した時、鎌田さんが出席されていて『大杉榮 自由への疾走 』を買ってサインしてもらいました。その時にしたためてくれたのが「心を沈めて 耳を澄ます 鎌田慧」でした。
最後に大杉の思想に触れておきます。概観するには『大杉榮語録』が最適です。
■『大杉榮語録』鎌田慧編、岩波現代文庫、2001年
〔扉〕思想に自由あれ。しかし又行為にも自由あれ。そしてさらには又動機にも自由あれ―躍動する知性、柔軟な思考、本当の自由人・アナキスト大杉栄の言動のエッセンスは閉塞した精神に風穴をあける。叛骨、反権威のルポライターが選んだ自由へ疾走する思想家の現代人への熱いメッセージ。
・自己決定の美学(解説)
1.生の拡充 美はただ乱調にある、など
2.新しい女 男女関係論、など
・インタビュー 大杉榮氏に聴く(解説)
3.僕らの主義 社会的理想論、など
4.ロシア革命について なぜ進行中の革命を擁護しないのか、など
5.獄中から 一犯一語、など
・甘粕犯人説への疑問(解説)
大杉は様々な事件で検挙され、数回刑務所に放り込まれました。そのたびに外国語を一つずつマスターしていったというから驚きです。それが 「一犯一語」です。他にも魅力的な大杉の全体像が示され、まさにお勧めの1冊です。
関連した資料として、以下のものも紹介しておきます。
〇青空文庫『生の拡充』 Kindle版 大杉 栄 (著)
個人主義や無政府主義を実践するための社会運動に従事した大正期の思想家、大杉栄の評論。初出は「近代思想」[1913(大正2)年]。評論「征服の事実」の続編として書かれた文章。闘争的な生の力強さを褒めたたえ、それを革命の原動力として認める。アンリ・ベルクソンやジョルジュ・ソレルなどの影響が読み取れる大正生命主義の一作。
〇参考『現代に甦る大杉榮―自由の覚醒から生の拡充へ』飛矢崎雅也、東信堂、2013/12
そしてさらに、『大杉榮 自由への疾走 』を手に取ることにしました。この本は『残夢』の続編という趣の本でした。奇しくも大杉榮は坂本清馬と同い年です。「赤旗事件」で獄中にあった大杉は大逆事件の連座を免れたものの、その12年後の関東大震災のときに伊藤野枝、甥と官憲により虐殺され、古井戸にぶち込まれたのでした。この時、労働運動家10名と、数千人ともいわれる朝鮮人が虐殺されたことは周知の事実です。
『大杉榮 自由への疾走 』〔岩波書店、1997年(岩波現代文庫に収録)〕は私が言うまでもないことですが、作者渾身の労作で名著です。まずは、その概要から見てみましょう。
〇岩波書店サイトより
「春三月 縊り残され 花に舞う」
大逆事件――幸徳秋水ら12名が,「天皇に危害を加えようとした」として大逆罪で絞首刑となったとき,たまたま大杉栄は別の事件で収監されており,社会主義者を壊滅させようとしたこの権力の陰謀からまぬがれた。大杉26歳のときのことである。その2ヵ月後,生き残りの社会主義者たちの合同茶話会で大杉が読んだのがこの一句。
「ここにあらわれているのは,首を撫でおろしてホッとしている感慨ではない。むしろ,遺された時間をさらに闘争にあて,豪華絢爛に散ろうとする決意表明のように読める。」
著者,鎌田慧氏は,このようにこの句を読み,関東大震災の後,伊藤野枝,甥の橘宗一とともに官憲に惨殺されるまでの「叛逆」に生きた大杉の鮮烈な生涯を,新たな資料,豊富な取材をもとに跡づけた。本書は,自由へ向け疾走した大杉の生涯,そして彼と同じく困難な時代、状況を突破しようとしていた男たち女たちの群像を,現代の反骨ルポライターが描ききった大作である。
第1章 予感 第6章 脱出
第2章 叛逆 第7章 虐殺
第3章 苦闘 第8章 復讐
第4章 煩悶 第9章 欺罔
第5章 自由
大杉榮略年譜
あとがき
岩波現代文庫版あとがき
人名索引
さらに、文庫版には次のような紹介があります。
〇(文庫版)思想に自由あれ。しかし又行為にも自由あれ。そしてさらには又動機にも自由あれ-躍動する知性,柔軟な思考,本当の自由人・アナキスト大杉榮の言動のエッセンスは閉塞した精神に風穴をあける。叛骨,反権威のルポライターが選んだ自由へ疾走する思想家の現代人への熱いメッセージ。
大杉榮を最初に意識したのは、私が敬愛する先輩教師の故・村田栄一さんの『学級通信ガリバー』『戦後教育論』(社会評論社)を読んでのことでした。村田さんは大杉榮の「生の拡充」という考え方は教育の究極の目的の一つではないかというのです。その時から「生の拡充」というキーワードが頭にこびりついて離れませんでした。
『大杉榮 自由への疾走 』を読んで最初に浮かんだことばは、『残夢』と同様に、良質な多角的ドキュメンタリードラマであるということでした。おそらく本人が読んだら、へえ、そういうことだったのかという、本の「主人公」自身でもある気づきがある秀逸なルポになっているということです。単に大杉の思想遍歴をなぞるものでないということが鎌田評伝の特徴なのです。鎌田さんは思想遍歴についてはあとで触れる『大杉榮語録』を用意してくれています。
そして、大杉はなんて恋愛に関して自由なのかということです。彼の生き方のテーマは〔愛と革命〕と言いきってもいいようです。妻の堀安子(堺利彦妹)、伊藤野枝(辻潤の妻)、神近市子との自由恋愛。このあたりは瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』〔(大杉栄・伊藤野枝)文藝春秋 1966 のち角川文庫、文春文庫〕、『遠い声』〔(管野スガ)新潮社 1970 のち文庫〕を読んでみたいと思います。
故・布施哲也さんの出版記念会に参加した時、鎌田さんが出席されていて『大杉榮 自由への疾走 』を買ってサインしてもらいました。その時にしたためてくれたのが「心を沈めて 耳を澄ます 鎌田慧」でした。
最後に大杉の思想に触れておきます。概観するには『大杉榮語録』が最適です。
■『大杉榮語録』鎌田慧編、岩波現代文庫、2001年
〔扉〕思想に自由あれ。しかし又行為にも自由あれ。そしてさらには又動機にも自由あれ―躍動する知性、柔軟な思考、本当の自由人・アナキスト大杉栄の言動のエッセンスは閉塞した精神に風穴をあける。叛骨、反権威のルポライターが選んだ自由へ疾走する思想家の現代人への熱いメッセージ。
・自己決定の美学(解説)
1.生の拡充 美はただ乱調にある、など
2.新しい女 男女関係論、など
・インタビュー 大杉榮氏に聴く(解説)
3.僕らの主義 社会的理想論、など
4.ロシア革命について なぜ進行中の革命を擁護しないのか、など
5.獄中から 一犯一語、など
・甘粕犯人説への疑問(解説)
大杉は様々な事件で検挙され、数回刑務所に放り込まれました。そのたびに外国語を一つずつマスターしていったというから驚きです。それが 「一犯一語」です。他にも魅力的な大杉の全体像が示され、まさにお勧めの1冊です。
関連した資料として、以下のものも紹介しておきます。
〇青空文庫『生の拡充』 Kindle版 大杉 栄 (著)
個人主義や無政府主義を実践するための社会運動に従事した大正期の思想家、大杉栄の評論。初出は「近代思想」[1913(大正2)年]。評論「征服の事実」の続編として書かれた文章。闘争的な生の力強さを褒めたたえ、それを革命の原動力として認める。アンリ・ベルクソンやジョルジュ・ソレルなどの影響が読み取れる大正生命主義の一作。
〇参考『現代に甦る大杉榮―自由の覚醒から生の拡充へ』飛矢崎雅也、東信堂、2013/12