後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔307〕ドイツからの訃報、我らのペーター・シュミットが亡くなりました。合掌

2020年10月29日 | 追悼文
 2日前だったでしょうか。2階から降りてきた妻が「ペーターが脳内出血で亡くなったって。」涙をこらえて伝えてくれました。茫然自失とはこのことです。昨年の夏、ビュルツブルク市内に腰の手術で入院していたペーターを2回お見舞いに伺ったときに、80歳とは思えないくらいお元気で、にこやかな表情を見せてくれたのです。その時、これからお連れ合いのイングリットと相変わらず仲良く暮らしていくんだろうと確信したのでした。
  ペーター・シュミットさんとの出会いは20年前にさかのぼります。1999年、現役教師だった我々夫婦は、夏休み中に22日間にわたるヨーロッパ旅行をしたのでした。私たちが中世ドイツの彫刻家、ティルマン・リーメンシュナイダーの作品に初めて出合った旅でした。ミュンヘンのバイエルン国立博物館で彫刻「マグダラのマリア」と衝撃的な出合いをし、妻はそれ以降、リーメンシュナイダーの追いかけ人になったのです。
 その数日後、私たちはリーメンシュナイダーの作品を世界で最も多く所蔵するビュルツブルクのマイフランケン博物館(当時の名称)に辿り着きました。リーメンシュナイダーの部屋は他には誰もいず、我ら2人の貸し切り状態でした。舐めるように作品を鑑賞し、写真を撮りまくりました。その時に背の高い中年の男性職員がドイツ語で話しかけてきたのです。妻はノバでドイツ語を習い始めたばかりで、あまり理解はできなかったと言います。
 その時のことを我々は後に自費出版した旅行記に書き綴っていました。
 「ほとんど驚嘆の眼差しで作品を舐めるように2人で鑑賞していたら、中年の係員が話し掛けてきた。ドイツ語なのではっきりはしないが、色々教えたがっているようなのだ。フラッシュなしなら撮影OKなので、彼も一緒に写真を撮ることにした。」三津夫(『ヨーロッパ2人旅、22日間』福田三津夫・緑、私家版、2000年2月26日発行)
「私が深い感銘を受けたのは、聖セバスチャンの像だ。木にくくりつけられ、矢を身体のあちらこちらに射られていながら、深い眼差しで空を見つめている。その縛られた血管の浮き上がった手がまるで生きているようだ。矢は1本だけささっていたが、私たちがあまりにも熱心に長い時間これらの作品を見ているのに興味を覚えたらしい係の男性が、本当は矢が7本刺さっていたのだと教えてくれた。ここにも、ここにもと指さす跡に、丸い矢の幹がポツンと見えた。この像が作られたのは1515年だ。」緑(同上)

 これがペーターとの出会いの瞬間でした。それ以降ドイツには十数回通うことになりました。リーメンシュナイダーを始めとするドイツ中世の彫刻を訪ね歩く旅でした。毎回ヴュルツブルクに行くたびに親しくなったペーターに連絡を取り、館内だけでなく、車で教会を案内してもらいました。ご自宅にも何度も招待されごちそうになりました。
 そして、これだけははっきり記録に遺しておきたいと思います。ペーター夫妻はじめドイツの友人たちの存在がなければ間違いなく緑の本邦初の『祈りの彫刻』シリーズ全四巻(四巻目はまもなく出版されます)は出版できなかったということです。さらに、ペーターはリーメンシュナイダーに関する地元新聞記事を度々送ってくれました。
 彼らご夫婦の思い出は尽きません。コロナが穏やかになった頃、必ず彼のお墓参りをしたいと妻と話しています。ペーター、今まで色々ありがとう! 合掌。

*妻もブログにいち早く追悼文を認めています。ペーターの写真もあります。
*『ヨーロッパ2人旅、22日間』残部あります。ご連絡いただける方には差し上げます。

https://blog.goo.ne.jp/riemenschneider_nachfolgerin/e/b6954d42cbd07464ff856a191676b124


 ◆恐怖の懲罰人事
              鎌田 慧(ルポライター)

 今回も日本学術会議大弾圧事件について。
 6人の新会員候補者が菅首相から拒絶され、政府の学問の自由への
抑圧として、世論の批判が激しくなった。菅首相は9日のインタビュー
で「99人分の名簿しか見ていない」と弁明した。
 つまり、6人を除外する前の105人の元の名簿は見ていない。
 だから、誰がパージされたか、それについては知らない、自分の責任
ではない、とする弁明だった。

 しかし、5日のインタビューで6人が(安全保障関連法等)政府提出
法案に反対だったこととの関連を問われ、「学問の自由とは全く関係
ない。6人についていろんなことがあったが、そういうことは一切関係
ない。総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から判断した。
これに尽きる」

 語るに落ちる。「6人についていろんなことがあった」と知って
いたのだ。「俯瞰的」と聞いて、安倍前任者の「地球儀を俯瞰する
外交」を思いだして笑ってしまった。地球儀など小さい、小さい。
せめて地球と言ってほしかった。
 それはともかく、学術会議会員の任命権者・総理大臣が今回のパージ
を知らなかった。とすれば首相の重大な職権放棄。任命権の侵害。
一体誰が簒奪(さんだつ)したのか。
 4年前、菅官房長官時代、3人の侯補者が除外させられ、秘密に
伏されてきた。今ようやく学会の反撃が始まった。
   (10月13日東京新聞朝刊29面「本音のコラム」より)

〔306〕コロナ禍の今、大江健三郎『芽むしり仔撃ち』がル・モンド紙に取り上げられました。

2020年10月09日 | 図書案内
  私にとって気になる良質な本を数多く出版している藤原書店が月刊「機」という小冊子(32頁)を発行しています。今年の8月号に掲載されていた「連載・『ル・モンド』から世界を読む」(加藤晴久)に目が釘付けになりました。大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』がル・モンド紙に取り上げられたというのです。
 『芽むしり仔撃ち』はこのブログ〔285〕でも紹介しましたが、Kさんを囲む読書会でこの夏取り上げたばかりでした。コロナ禍の今、疫病と対峙する『芽むしり仔撃ち』は今こそ読まれてほしいという趣旨の読者会報告でした。くしくも同趣旨の新聞記事がフランスの有力紙に載ったというのです。
  こんな書き出しです。

   五月二四/二五日付『ル・モンド』に
  「文学はカタストロフイを和らげようと
  する言説の逆を突く」というタイトルの
  寄稿文が載っていた。筆者は作家のミカ
  エル・フエリエ(一九六七年生まれ)。 一
  九九二年以来東京在住。中央大学フラン
  ス文学科教授である。

   『芽むしり仔撃ち』は大江健二郎初の
  長編小説で一九五八年刊。仏訳は一九九
  六年刊(ノーベル賞受賞後)。
   フェリエ氏は、この作品が今日のコロ
  ナ禍の世界の現実を鋭く照射し、それヘ
  の対処の虚妄を暴いているとして、内容
  を紹介しつつ解読しているのである。


 『芽むしり仔撃ち』の内容についてはブログを読んでください。
 さらに加藤氏は次のようにフェリエ氏の論考を紹介しています。まさに我が意を得たコラムでした。


   大江は「疫病に対する反応は〔国民性
  などという虚構でなく〕社会のさまざまな
  仕組みと人々の考え方とをどのようにコ
  ントロールするかに深く関わつているこ
  とを示した」
   「本物の文学は、カタストロフイを和
  らげようとする、あるいは艶やかに描き
  出そうとする、叙情的あるいは鎮静剤的
  な言説の逆を突く。こうした言説はまた、
  カタストロフィのもたらす様々な結果と
  変化と課題を考えることを妨げるのであ
  る」
   身近なところにあるすぐれた作品の存
  在を外国の作家が教えてくれている。


◆ 改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ
鎌田 慧(ルポライター)

 首相に就任するやいなや、いきなり日本学術会議を敵に回して人事に介
入、会員候補6人の学者の任命を拒否した。菅新首相の蛮行、敵基地攻撃
能力保持の欲望とセット、安倍前首相の申し送りの忠実な継承なのか。
 それとも、まず最初に懲罰的な人事を強行して異論を唱える者は排除す
るぞ、との見せしめ政治の初発の行使なのか。それにしてもやることが姑
息だ。
 これからの日本をどうするのか。コロナ禍を乗り切り、健康で文化的な
最低限度の生活をどのように保障するのか。
 集会、出版、言論、学問の自由を保障する民主主義の国を皆さんと手を
繋いで確立させましょう、と語りかけてほしかった。
 ところが、悪名高いアベ政治を継承するどころかさらにひどい、公然た
る言論・学問の自由抑圧をして出発。それが所信表明代わりとは、蓋(けだ)
し日本憲政史上初めてか。
 戦争のための学問を拒否する、日本学術会議への挑戦から菅内閣がはじ
まったのは悲しむべきことだ。もうひとつの悲しさは、首相補佐官に就く
と報じられていた通信社の論説副委員長が、この憲法違反ともいえる暴政
を押しとどめることができなかったことだ。
 この耳にするだけでも恥ずかしい学問の自由の抹殺は、世論によって修
正されるだろう。その前に新首相補佐官は、職を賭してでも任命拒否を解
除させてほしい。
  (10月6日東京新聞朝刊23面「本音のコラム」より)

〔305〕第5回Kさんを囲む読書会は『生きている兵隊』(石川達三)でした。

2020年10月07日 | 図書案内
  Kさんは清瀬市で数十年にわたって市民運動を共に担ってきた尊敬すべき先輩です。東京大空襲の体験者ということをうかつにも最近になって知りました。今年中にでも仲間を集めて彼女の話を聞く会を開きたいと思っています。
  Kさんを囲む読書会は5回を数えます。課題図書はすべてKさんが推薦したものです。彼女の「眼力」を信じて、数人で読み進めているのです。推薦本の書名はさすがにほとんど知ってはいますが、恥ずかしながら読んだことがない本ばかりでした。

・第1回石牟礼道子『苦海浄土』2018.11.28
・第2回大岡昇平『野火』2019.9.14
・第3回野間宏『真空地帯』2020.2.22
・第4回大江健三郎『芽むしり仔撃ち』2020.7.25

  読書会の様子はブログにすべて報告済みです。良かったら覗いてみてください。
  さて今回Kさんが提起したのは〔『生きている兵隊』(伏字復元版)石川達三〕でした。
  石川達三といえば私にとっては『人間の壁』です。大学4年の夏に読んだという記録が残っていました。。たしか勤評闘争のなかの教師の葛藤を描いた長編小説(3冊本)でした。『青春の蹉跌』も同じ頃読んだのでどこかに本があるはずです。
  中公文庫を手に取ったのですが、この夏にも増刷されているベストセラー小説ともいえそうです。

■『生きている兵隊』(伏字復元版)石川達三、中公文庫
・1999年7月18日 初版発行
・2020年7月5日 17刷発行

〔裏表紙〕虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。 〈解説〉半藤一利


  ウィキペディアを覗いたらこんなことが書いてありました。登場人物の紹介が本を読み進める上で参考になりますね。

●ウィキペディア
 石川は、南京陥落(1937年12月12日)直後に中央公論社特派員として中国大陸に赴き、1938年1月に上海に上陸、鉄道で南京入りした。南京事件に関与したといわれる第16師団33連隊に取材し、その結果著されたのがこの小説であり、日本国内では皇軍として威信のあった日本軍の実態を実写的に描いた問題作とされる。『中央公論』1938年3月号に発表される際、無防備な市民や女性を殺害する描写、兵隊自身の戦争に対する悲観などを含む4分の1が伏字削除されたにもかかわらず、「反軍的内容をもった時局柄不穏当な作品」などとして、掲載誌は即日発売禁止の処分となる。その後、執筆者石川、編集者、発行者の3者は新聞紙法第41条(安寧秩序紊乱)の容疑で起訴され、石川は禁固4か月、執行猶予3年の判決を受けた。この著作が完全版として日の目を見るようになったのは第二次世界大戦敗戦後の1945年12月である。


*登場人物
・近藤 一等兵。医学士。人間の生命を救うために自分が学んできた医学と、生命が戦場で簡単に失われる現状との差に悩んでいる。
・笠原 伍長。農家の次男坊で、粗野かつ無学な人物。人を殺すことに長けている反面、戦友に対しては情に篤いという「最も兵隊にふさわしい兵隊」。
・平尾 一等兵。かつては新聞社の校正に従事していた。元来繊細な感性の持ち主であるが、兵隊になってからはそれを隠すかのように、大言壮語や勇ましげな振る舞いを見せるようになった。
・片山玄澄 従軍僧。本来は戦死者を弔うことが彼の役目であるが、自ら戦闘に参加して、シャベルといったあり合わせの得物で、すでに20人以上殺している。
・中橋 通訳。血気盛んな青年で、自らすすんで通訳に志願した。
・倉田 小隊長、少尉。几帳面な性格で、地方にいたときは小学校の教師をしていた。
・西沢 連隊長、大佐。


  未読の方は是非読書をお勧めします。
 こんなにリアルに戦争を描いた小説は今まであったでしょうか。『野火』と比較すると面白いかもしれません。『野火』は体験を下敷きにして起承転結のはっきりした文学らしい文学であるのに対して、『生きている兵隊』は日本軍の行動をまるでルポルタージュしているような書きぶりなのです。南京事件のすぐ後に南京に入り、見聞したままをリアルに書き綴った、しかし、創作文学なのです。石川達三ははっきり「自由な創作」でありフィクションだということを冒頭に書いているのです。
 「現地徴発という名の略奪、若い中国女性を裸にして刺し殺す兵士、逃げる中国人の頭をシャベルで割って武勲を誇る従軍僧」(半藤一利)など戦場のリアルがこれでもかと書き綴られるのです。昭和13年当時、こうした本の発行が禁止されるのは目に見えていただろうに、なぜ石川は出版の努力を続けたのでしょう。
  とにかく討論しがいのある小説でした。話し合いの大きなテーマは次のようでした。

○なぜ従軍作家として『生きている兵隊』を10日足らずで書き上げたのか
○『生きている兵隊』は反戦文学か戦争文学か
○『生きている兵隊』はなぜ発行禁止されたのか〔中国語、ロシア語、英語版は存在していた〕
○小説としてはどう評価できるのか
○石川達三の思想性とは

  3時間近い話し合いを簡単には要約できませんが、これらの問いにヒントを与えてくれる本が見つかりました。『戦争と検閲――石川達三を読み直す』をお勧めします。
 
■『戦争と検閲――石川達三を読み直す』 (岩波新書) 2015/6/27 河原 理子 (著)

*内容(「BOOK」データベースより)
 「生きている兵隊」で発禁処分を受けた達三。その裁判では何が問われたのか。また、戦後のGHQの検閲で問われたこととは? 公判資料や本人の日記、幻の原稿など貴重な資料を多数駆使して、言論統制の時代の実像に迫る。取材し報道することの意味を問い続けて来た著者が抑えがたい自らの問いを発しながら綴る入魂の一冊。

*著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
河原/理子
 1961年東京生まれ。1983年東京大学文学部社会心理学科を卒業して朝日新聞記者になる。社会部などで働き、雑誌『AERA』の副編集長、文化部次長、編集委員、甲府総局長などをする。


  はたして第6回読書会の課題図書はどうなることでしょう。
  はてさて、今回も鎌田慧さんのコラムをどうぞ。

◆住民の命 住民の力
  「オール秋田」の運動で「イージスアショア」を断念させた

                    鎌田 慧(ルポライター)

 先週の土曜日。秋田市でちいさな集まりがあった。菅義偉新首相と
おなじ秋田出身、101歳の全生涯を歯に衣(きぬ)を着せぬジヤーナリスト
として全うした、むのたけじを顕彰する「地域・民衆ジャーナリズム」
賞実行委員会主催だった。
 彼の5回忌に合わせ「イージスアショア新屋配備を断念させたのは
秋田の住民の力だ」とする住民運動の集会でもあった。

 米軍の戦略に従属する米日軍事同盟下、それも国の「専決事項」と
突っ張ってきた防衛省が住民の抵抗を受け方針を変えた。お粗末、
デタラメな防衛計画が、見事に破綻したのは特筆に価する。
 それも安倍前首相の出身地・山口県と菅前官房長官の秋田県が基地
予定地。郷土を売る計画だった、ともいえる。

 知事、市長、県、市議会。科学者、住民、地元紙がそれぞれに
すすんで署名、請願、陳情運動、報道に力を尽くした。辺野古基地
反対運動と同じネットワーク型「オール秋田」の運動となった。
 自民党の「憲法改悪案」では、地方自治の力を奪うものになって
いるが、現憲法が健在である限り、地方自治条項は国の暴力を防ぎ
「住民の力」と「住民のいのち」を守ることができる。

 「戦争絶滅を謳(うた)った憲法9条こそ、人類に希望をもたらす」
というのが、従軍記者だったむのたけじの生涯にわたる信念だった。
       (9月29日東京新聞朝刊23面「本音のコラム」より)

〔304〕日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めるキャンペーンを応援します。

2020年10月06日 | メール・便り・ミニコミ
  私が「日本学術会議が推薦した新会員の候補者6人が任命されなかった」ことを最初に知ったのは『リテラ』というサイトでした。こんなことがまかり通るとは、安倍政権を継承する菅政権はやはり期待できないとんでもない政権だと再認識したのでした。
  その後、続々と心ある新聞やテレビがこの問題を大々的に取り上げました。
 さてどうしたものかなと思案していたら、以前にもたびたび登場いただいている塚越敏雄さんから以下のようなメールが届いたのです。「日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めるキャンペーン」です。
 地域の仲間に早速メールを回しました。ささやかながらこのブログにも掲載いたします。 
 以下塚越さんのメールです。末尾に鎌田慧さんのコラムがあります。こちらもどうぞ!


 ■おはようございます。塚越です。
 
 ご存知のように、日本学術会議が推薦した新会員の候補者6人が任命されなかっ
た問題で、任命拒否は学問の自由と独立に対する侵害などとして、学識経験者ら
の間で批判が広がっています。

 署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」では10月3日午前か
ら、任命拒否の撤回を求めて署名運動を開始。5日現在で10万人以上が賛同してい
ます
 鈴木淳・東京大大学院教授と古川隆久・日本大教授が呼び掛け人となり「前例
ない学問の自由と独立に対する侵害で、社会に計り知れない損害をもたらしかね
ない」と批判。東京大史料編纂所の本郷和人教授らが賛同人に名を連ねています。

 菅首相に日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めるキャンペーンを応援しませ
んか?

 概要を説明します。
 10月1日、菅義偉内閣総理大臣は、日本学術会議が新会員に推薦した105人のう
ち、人文・社会系の6名を任命しませんでした。これは、前例のない、学問の自由
と独立に対する侵害であり、ひいては社会に計り知れない損害をもたらしかねま
せん。菅首相に対し、この措置の撤回、すなわち、被推薦者全員の任命を強く求
める署名です。

任命されなかったのは、以下の6人の研究者です。

宇野重規 東京大社会科学研究所教授(政治思想史)
岡田正則 早稲田大大学院法務研究科(行政法)
小沢隆一 東京慈恵会医科大教授(憲法学)
加藤陽子 東京大大学院人文社会系研究科教授(日本近現代史)
松宮孝明 立命館大大学院法務研究科教授(刑事法)
芦名定道 京都大学大学院文学研究科教授(キリスト教学)

 今回任命を拒否された6名は、いずれも、政治学、法学、歴史学、宗教学など、
思想信条の自由、人権の尊重に深く関わる研究分野の研究者であり、こうした分
野に関して政府が介入したことは今回の問題の深刻さを示しています。しかも、
政府は当事者にさえ拒否した理由を示していません。
政府が推薦を拒否するという事態は、1949年に日本学術会議法により日本学術会
議が設置されて以来初めてであり、今後に悪例を残す、大変な問題です。


〈呼びかけ人〉
 鈴木 淳 /東京大学大学院人文社会系教授
 古川 隆久 /日本大学文理学部教授

〈賛同人〉(呼びかけ人確認順)
有山輝雄 /元東京経済大学コミュニケーション学部教授
三谷博 /東京大学名誉教授・跡見学園女子大学特任教授
吉田裕 /一橋大学名誉教授
中村尚史 /東京大学社会科学研究所教授
佐藤健二 /東京大学大学院人文社会系研究科教授
納富信留 /東京大学大学院人文社会系研究科教授
藤原辰史 /京都大学人文科学研究所准教授
熊野純彦 /東京大学副学長 附属図書館長
保谷徹  /東京大学史料編纂所長 同教授
本郷和人 /東京大学史料編纂所教授
吉見直人 /ジャーナリスト
河西秀哉 /名古屋大学准教授
吉田浩一 /出版社社員
冨永 望 /歴史研究者
浜田晋介 /日本大学文理学部教授
源川真希 /東京都立大学人文社会学部教授
北城玲奈 /出版社社員
茶谷誠一 /志學館大学教授
福島幸宏 /東京大学大学院情報学環特任准教授
瀬畑 源 /龍谷大学准教授
根津朝彦 /立命館大学産業社会学部准教授
三宅明正 /千葉大学名誉教授
及川英二郎 /東京学芸大学教育学部教授


 ◆リニア新幹線建設の残土と核のゴミ
  政治腐敗のツケが六ヶ所村に押し付けられるのか

鎌田 慧(ルポライター)

 山梨県都留市の見学センターで、リニア新幹線が目の前を疾走する
のを眺めたことかある。時速500キロ、風のように通り過ぎた、と
思いきやすぐまた引き返してくるのが不思議だった。
 7年後に品川-名古屋間を40分で結ぶ、というのだが、静岡県知事も
抵抗していてどうなるか分からない。甚大な環境破壊になるのは
「こちら特報部」でも報じられている。トンネルエ事で発生する膨大な
残土をどうするのか。青森県六ヶ所村にもリニア残土が運ばれる、
との噂がある。
 目下、六ヶ所村に建設されている使用済み核燃料の再処理工場は、
建設工事開始から27年がたって、いまだ完成しない伝説的な工場である。
 「もんじゅ」のように、廃炉宣言は時間の問題だ。
 リニア新幹線は在来の新幹線の4~5倍の電力を消費する。新潟県の
柏崎刈羽原発はリニア新幹線の電力需要にあわせたものだ、と
山本義隆・技術史研究家が指摘、根源的な批判を加えている(10・8
「山崎博昭プロジェクト」通信)。
 リニア新幹線、9兆円の建設予算のうち3兆円を財政投融資で賄う
ことが、安倍前首相と葛西敬之名誉会長の間で決められた。一企業に
3兆円のハチャメチャな優遇である。JR東海の葛西氏は国鉄民営化
三人組のひとり。核のゴミとリニアのゴミ。政治腐敗のツケが
六ヶ所村に押し付けられるのか。
         (9月22日東京新聞19面「本音のコラム」より)