後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔361〕藤原書店の『機』は「すべての常識を疑い、社会や歴史の見方を根底から問い直す」という宣伝誌です。

2021年04月30日 | 図書案内
 藤原書店のサイトには「すべての常識を疑い、社会や歴史の見方を根底から問い直す」ということばが巻頭に掲げられています。宣伝誌の『機』もそれをまさに体現するものです。実に知的でハイレベルです。新書版大、32頁に出版物の情報はもとより、著者の随想や関連記事が満載されています。頒価100円は儲けものです。
 藤原社長は『機』にかける思いを次のように語っています。

■藤原書店 PR誌『機』の誕生(「日本の古本屋」より)

編集長 藤原良雄
 小出版社にとって、PR誌を出すことは、“夢”である。 学生の頃――今から四十数年前のことだが――『未来』(未來社)や『図書』(岩波書店)を定期購読していた。価格も手頃だし、中に面白いエッセーもあり、新刊案内もわかるといった一石二鳥どころか三鳥も四鳥もあるものであった。
(中略)
 藤原書店を創立後すぐに、隔月で『機』を創刊し始めたが(一九九〇・四)、スタイルはこのスタイルを踏襲した。当初は一六頁。次いで二四頁、それから現在の三二頁。もうこれ以上大きくなると、書物の形が崩れてしまう。毎月、二万部位作っているが、心ある読書人から、この『機』の記事についてのコメントをいただくと、やはり無理をしてでも、これまで約三〇年余作ってきた甲斐があったなと、つくづく思う昨今である。


 最近の『機』の内容は次のようです。連載も数本抱えて、どこから読もうかと迷うばかりです。

【2021年2月号 目次(藤原書店オフィシャルサイト)】

■〈特集〉故・森繁久彌さんの予言
アニサキス 森繁久彌
森繁久彌さんの予言 桑原聡

■大規模なワクチン接種が始まる今、必読の書
ワクチン いかに決断するか 西村秀一

■経済は、生命をどう守るのか!? 緊急出版!
パンデミックは資本主義をどう変えるか R・ボワイエ

■米アカデミズムは今、中国をどう見ているか
いま、中国の何が問題か? M・ソーニ

■新渡戸稲造と渋沢栄一 草原克豪

■第16回 河上肇賞 受賞作決定

■〈寄稿〉今、なぜブルデューか?
『グロテスク』と『ディスタンクシオン』 加藤晴久
教育における不平等 宮島 喬

〈リレー連載〉近代日本を作った100人83「石黒忠悳」 笠原英彦
〈連載〉歴史から中国を観る14「遊牧民の戦争」 宮脇淳子
    沖縄からの声Ⅺ―3(最終回)「「夢幻琉球・つるヘンリー」から」 ローゼル川田
    今、日本は22「人間尊重主義」 鎌田慧
    花満径59「高橋虫麻呂の橋(16)」 中西進
    アメリカから見た日本14「破滅的前大統領の後始末をする就任式」 米谷ふみ子
    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―54「マルタ産本マグロ」 加藤晴久

1・3月刊案内/読者の声・書評日誌/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想

  次は『機』に連載を書かれている鎌田慧さんのコラムです。

 ◆人間は自然の一部だ
  効率一辺倒は、生きものには合わない

                 鎌田 慧(ルポライター)

 たまたま、生命誌研究者・中村桂子さんの講演を聞く機会があった。
 「地球上の全生物は祖先を一つにする仲間であり人間(ヒト)もその中
に含まれる」「現存の生物はすべて38億年の歴史をもつ」「人間は
生き物であり、自然の一部である」
 長い時間と多様な生き物たち。この広い視野から、わたしは自分を
見直すことはなかった。「万物の霊長」などと威張り、自然を征服する
などといって、破壊してきたのが人間の歴史だ。微細な生き物への
愛おしい視線が石牟礼道子さんの作品と重なる。早速、『中村桂子
コレクション3 かわる』を入手した。

 「傍若無生物」という言葉があった。「傍若無人」のように、ほかの
生き物に対して、勝手に振る舞う行為は自然という仲間を失う。
 原発事故、新型コロナ、二酸化炭素の増大などの元凶だ。
 「原発は絶対安全」「原発では事故が起きない」。なぜこの技術だけ
が決して事故が起きない、といい切ってきたのか。
 科学者、技術者が自分も生活者としての視点で、自分が関わる科学や
技術を評価せず、被害者のことを考えていなかった。

 効率一辺倒は、生きものには合わない。生きるということは過程
そのものであり、結果だけを求めることは、いのちをないがしろに
することにつながる。
 いま、差し迫った状況だからこそ、中村さんの主張が
耳に入りやすい。
      (4月27日東京新聞朝刊21面「本音のコラム」より)

〔360〕神奈川新聞「時代の正体 憲法考」(田中大樹記者)に啓発されました。

2021年04月22日 | テレビ・ラジオ・新聞
 普段は目にすることがない神奈川新聞の切り抜きをある人に送ってもらいました。「時代の正体 憲法考」という3回にわたる特集です。一読して鋭く時代を切り取るその先進性に目を見張りました。ネットでも調べてみるとこの「時代の正体」という記事は断続的に報道されているようで、多くの書籍にも収録されています。無知で浅学の己を恥じるばかりでした。
 今回はとりあえず、「時代の正体 憲法考」のさわりを紹介します。横浜事件と学術会議任命拒否問題は根底で通じる「排除」の論理があるというのです。田中記者は横浜事件の当事者の一人故・木村亨さんのお連れ合い木村まきさんに実に周到に取材して記事を書いています。ネットでは以下のようにその一部を読むことができますが、図書館などで実物を読むことをお勧めします。

■時代の正体 憲法考(上) 神奈川新聞| 2021年3月14日(日)
*横浜事件と学術会議任命拒否 根底で通じる「排除」の論理

 憲法の現場に立つ当事者の言葉から、自由や権利を改めて考える。

 国会はコロナ禍一色に染まっていた。
 1月28日、コロナ対策の特別措置法と感染症法の改定を巡る与野党協議が大詰めを迎える中、日本学術会議が声明を発表した。菅義偉首相が会員候補6人の任命を拒否した問題の発覚から4カ月、速やかな解決を求めた。
 翌29日、加藤勝信官房長官は記者会見で「任命権者として最終判断しており、一連の手続きは終了している」と不快感を示した。定員に満たない違法状態を放置する。
 さかのぼること1カ月半前、「戦時下最大の言論弾圧」と形容される横浜事件の被害者、木村亨さん=享年(82)=の妻まきさん(72)は東京・多摩の駅ホームでつぶやいた。
 「名簿も見ないで拒むなんて本当にひどいですね」(以下略)

■時代の正体 憲法考(中) 神奈川新聞| 2021年3月16日(火)
*ヤジ排除から考える 表現の自由 萎縮を危惧

憲法の現場に立つ当事者の言葉から、自由や権利を改めて考える。

 2月24日、札幌地裁(札幌市)で、ある訴訟の口頭弁論があった。発端は2019年7月15日、JR札幌駅南口の駅前広場だった。
 広場は群衆で埋まっていた。日の丸の小旗が揺れるその中に、横浜市出身の大杉雅栄さん(33)は身を置いていた。視線の先には安倍晋三首相(当時)。選挙カーに上り、参院選の街頭演説に立っていた。
 演説開始から1、2分が過ぎたころだった。「安倍、辞めろ」。大杉さんは声を張り上げた。直後、男たちに体をぐいとつかまれ、後方へと押しやられた。北海道警の警察官だった。法的根拠を尋ねたが、明確な回答はない。移動後もつけ回され、逃れることができたのは500メートルほど離れた札幌市時計台付近だった。
 駅前広場にいた団体職員の桃井希生さん(25)は、排除されたのが大学の先輩の大杉さんだとすぐに気付いた。自身も「増税反対」と叫んだ数秒後、同様に取り押さえられた。警察官はその後も傍らを離れようとせず、1時間以上付きまとわれた。この日、政策に批判的なプラカードを掲げた女性らも排除されていた。(以下略)

■時代の正体 憲法考(下) 神奈川新聞2021年3月17日(水)
*横浜事件と学術会議任命拒否 「学問の自由」を考える

 憲法の現場に立つ当事者の言葉から、自由や権利を改めて考える。
 「戦時下最大の言論弾圧」とされる横浜事件の国家賠償請求訴訟は、再審を認めなかった東京高裁の判断が確定した。2020年12月、東京・日比…(以下略)


〔359〕『デコちゃんが行く-袴田ひで子物語』はへこたれない「死刑囚の姉」の漫画です。

2021年04月16日 | 図書案内
  袴田事件をご存じですか。
 半世紀以上前に起きた強盗殺人放火事件で、袴田巌さんが、無実の罪に問われた事件です。一貫して無罪を主張する袴田さんに、ついに静岡地裁は再審決定を宣言し、死刑執行を停止、即日釈放しました。ところがあろうことか、検察は東京高裁へ異議申し立てをし、再審開始決定は取り消されてしまいます。現在再審請求の裁判は最高裁に移っています。ただ袴田さんは釈放状態が続いていますが、50年近くの獄中生活の後遺症、拘禁症状が続いたままです。
 そんな袴田さんに寄り添い見守り続けているのがお姉さんのひで子さんです。この漫画は多くの試練にもめげないで明るく闘うひで子さんの物語です。
 
 朝日新聞とともに月に2回、多摩地域のタウン誌「アサココ」が我が家には届けられます。地域で開催されるギャラリーや講座・集会、コンサートなどの情報、様々な活動について幅広く掲載されています。
 昨年、袴田事件のことが取り上げられ、ひで子さんが紹介されました。その時に『デコちゃんが行く-袴田ひで子物語』が読者プレゼントされるというので応募したところ、なんと当選してしまったのです。袴田事件応援CDも付いてきました。

 清瀬・くらしと平和の会でも冤罪に関する映画(ブログ掲載済み)の上映会を行ってひで子さんのお話をうかがったこともありました。私たちに何ができるか考えているところです。


■『デコちゃんが行く-袴田ひで子物語』いのまちこ編、たたらなおき漫画、静岡新聞社、2020/5/1(アマゾンより)

 これは、袴田巖さんの姉・ひで子さん誕生から現在までを描いた漫画です。「死刑囚の姉」「弟の無罪のため闘う姉」、テレビのニュースに映る袴田ひで子さんとはどんな人なのか、多くの人が関心を持っています。その一人である著者が、湧いた興味から袴田家を訪れ、親密になるに至り知った見事な彼女の人生物語です。

 「デコちゃん」、昔から彼女はそう呼ばれていました。その気丈な姿は多くの人が知るところです。ひで子さん、その人となりにまず驚くのは、裁判の支援者や報道陣です。「いや~、元気もらいました」、取材後は、必ずというほど驚きの声をあげます。
 でも、それは序の口。これまで語られなかった事が山ほどあります。もっと、もっと、みなさんに元気を届けましょう。この複雑で閉塞感のある現代で生きるのに疲れてしまった人たち、ダウンしている人たち。そういう方にこそ彼女を知ってほしい。どんな困難が襲ってきてもへこたれず、なにくそ前を向いて前進する逞しいデコちゃん、それをしまい込んでいるのはもったいない。そういう思いから、『デコちゃんが行く』は出版されました。

 ◆未来への責任  鎌田 慧(ルポライター)

 地震大国であるにもかかわらず原発54基、ふげん、もんじゅ、
使用済み核燃料再処理工場など日本列島に並べ建て、建設中が
まだ3基。
 自然と人間に大打撃を与えた大事故を発生させても誰も責任取ろう
としない「原発無責任国家」。

 原発立地地域に逃げ場がないと、水戸地裁が東海第二運転差し止め
命令。脱原発への号砲となろう。
 原発は10万年後にも厄災がおよぶ、出口なしの錯誤だ。破壊された
フクシマ3基の燃料デブリは880トン。いつ取り出せるか分からない。
「使用済み核燃料は再処理する」というが、六ケ所村の工場の運転は
2008年に事故で停止、復旧の見通しはまったくない。

 結局、核廃棄物の最終処分場の候補地として、北海道の寿都町と
神恵内村が暫定的に挙げられている。
 いくつかの候補地を示す陽動作戦は、推進側の常套手段。反対派の
当面の運動課題はとにかく原発廃炉だ。が、その後にも責任がある。

 地球科学者で京大元学長の尾池和夫さんは、「核のゴミ」を「人類
最大の負の遺産」といい、南鳥島への「格納」を提案。
本州から1800キロ、面積1.5平方キロ、の小島だ。
 マグマ活動が完全に終わっており、「世界でも最も安定した海洋
プレート上にある日本国土」「唯一の期待できる選択」との折り紙
付き(学士会会報、20年3月)。
 政府がこの事実を知らないはずはない。
      (4月6日東京新聞朝刊25面「本音のコラム」より)

〔358〕髙﨑彰著『アカハチ- 沖縄・八重山の英雄オヤケ赤蜂を探して』は50年越しの探索、思索の結晶です。

2021年04月14日 | 図書案内
 髙﨑彰さんは、東京都の公立中学校で社会科を教える教師でした。その後、教頭、校長などの管理職、東京都教育委員会では指導主事、室長を歴任しています。退職後は数カ所の大学で講師に迎えられました。
 私とはまさに同世代で、日本演劇教育連盟の常任委員として研究部などで共に活動した演劇教育の仲間です。管理職時代に東京都中学校演劇教育研究会長、全国中学校文化連盟会長・理事長も務められています。
 1980年代、学校教育で「ゆとりの時間」導入時に、佐藤学さん、故・如月小春さん、髙﨑さんの公開鼎談が元になった特集を雑誌「演劇と教育」で組んで評判になりました。また雑誌の500号記念では鎌田慧さん、髙﨑さんと私の鼎談を我が家で行ったこともありました。

 そんな髙﨑さんが、昨年の暮れ、ほとんど2段組で300頁を超える大著『アカハチ- 沖縄・八重山の英雄オヤケ赤蜂を探して』を出版しました。欠かさなかった研究部会後の呑み会で時折熱く話された大学時代の沖縄フィールドワークの全貌がここには記されていました。50年前の卒業論文や学術論文、調査報告書がその中核を占めるのですが、たんに学生が書いたものと切り捨てにできないくらいにレベルが高いものです。多くの研究者が髙﨑論文に注目していた事実も丁寧に書かれています。
 研究書ということでとっつきにくい本をイメージするかもしれませんが、けしてそんなことはありません。表紙の絵や本文中の「旅の絵日記」はお連れ合いの髙﨑美也子さん(元中学校美術教師)が温かくユーモラスに健筆を振るっています。アカハチの夫婦が髙﨑夫妻に重なって映ります。
「50 年ぶりの八重山の島々を訪ねて」と「最近の〈オケヤ・アカハチ〉をめぐる研究・実践の動向」で卒業論文や学術論文などを挟み込んでいるのも本書を読みやすくしていることに繋がっているようです。
 興味深かったのは、髙﨑さんの卒業論文や学術論文が「早稲田大学アジア学会」というサークル活動での成果であるということです。70年安保で揺れる学内は学生運動のるつぼでした。そうした時代背景を髙﨑さんは活写しています。同時代を生きた者としてある感慨が湧いてきます。
 いずれにして本書はオヤケ赤蜂に関する基本的文献の要件を備えているのは間違いはありません。カーリルで検索すると、沖縄にある多くの図書館が蔵書にしていることがわかります。アマゾンでは素敵なコメントを目にすることができます。

 沖縄やアカハチに興味がある方は是非本書を手に取ってみてください。

■髙﨑彰『アカハチ- 沖縄・八重山の英雄オヤケ赤蜂を探して』ハガツサブックス(カーリルより)

石垣島、八重山諸島に伝わる英雄伝説??
逆賊とも呼ばれたアカハチの正体に迫る

 沖縄・波照間島で生まれ、のちに石垣島の大浜村(現在の石垣市大浜) を根拠地とした豪族の首領となったといわれるオヤケアカハチ。正義感が強く、島の自由のために先頭に立って権力にたち向い、八重山の人々から太陽と崇められ信望を一身に集めていた??。そう伝わる一方で、赤い髪に不思議な色をした眼……日本人離れしたその風貌からか、“ 逆賊 ” であったという説もある。そんな沖縄の英雄に魅せられた研究者が、50年前に書いた論文をもとに最新研究を加え、オヤケアカハチ考をまとめたのが本書だ。今なお八重山の人々の信仰の対象として崇められ続けているアカハチの正体とは??? その謎に迫る。

■目次
はじめに
第 1 章 50 年ぶりの八重山の島々を訪ねて
第 2 章 卒業 論文『オヤケ赤蜂の乱の研究』(1971 年)
第 3 章 学術論文『「李朝 実録」より見た 15 世紀末の南西諸島・先島社会』(1971 年)
第 4 章 調査報告書『古見の御嶽』(1969 年)
第 5 章 最近の〈オケヤ・アカハチ〉をめぐる研究・実践の動向
おわりに

〔357〕志真斗美恵著『追想美術館』は「絵のいのちがよみがえる」評論本です。

2021年04月12日 | 図書案内
 先日、洗練されたオシャレでハイセンスな表紙の『追想美術館』という美術評論本が作者の志真斗美恵さんから送られてきました。このブログでも紹介していますが、名著『ケーテ・コルヴィッツの肖像』や『芝寛 ある時代の上海・東京 東亜同文書院と企画院事件』を出版している方です。
 彼女は私と同世代の1948年生まれ、大学非常勤講師を40年以上続けてこられたそうですが、コロナ禍によりリモート授業になるというので退職されたそうです。そしてコロナの日々、今まで20年くらいにわたって訪ねた美術展を「追想の中で再訪する」ことにしたというのです。元になっているのは様々な雑誌や新聞に執筆された美術評論やご自身の講演記録でした。

 軽いタッチの表紙をめくると単なる美術評論の域を超えている本の世界が広がります。展覧会の作品を時代の背景や作者の思いに心寄せながら具体的事実に即してしっかりと記述されています。それぞれの展示内容が複眼的多角的横断的に評価・評論されているといえるでしょう。
 取り上げた展覧会・作者に通底するのは、あくまで虐げられている人民や民衆に寄り添ったものになっていることです。
 浅学の私が知らない美術家も多く登場するのですが、お馴染みのベン・シャーン、粟津潔、佐伯祐三、国吉康雄、竹久夢二、いわさきちひろ、ケーテ・コルヴィッツなどについても言及されています。多少なりとも交流のある石川逸子さんのお連れ合いの彫刻家・関谷興仁さんや面識はないが何冊か著書を持っている内田宣人さんの名を文中に見つけて心躍りました。

 一番興味深かったのは藤田嗣治の戦争画に関する記述でした。小栗康平の映画「FUJITA-フジタ」から書き出され、各地での戦争画展、北村小夜さんの証言(このブログ掲載)や秋山清の詩で締めくくっています。紛れもなくひとつの藤田嗣治論が展開されています。

 コロナ禍の今、『追想美術館』でじっくりと紙上美術巡りを楽しまれたらどうでしょうか。



●『追想美術館』志真斗美恵、績文堂出版、195頁、2021年2月

目次
1 美術館に行く 春・夏篇
木場と調布―桂ゆきと富山妙子
群馬・桐生―麦秋のベン・シャーン ほか

2 美術館に行く 秋・冬篇
和歌山城址―アメリカへ渡った二人 国吉康雄と石垣栄太郎
東京・横網と八広―二つの追悼式と竹久夢二 ほか

3 破壊から再生へ
再生への模索―セバスチャン・サルガド

4 女性たちのつくる平和
平和主義者として生きる―ケーテ・コルヴィッツ
母子像のこと―三・一一の後に

5 ケーテとともに
コスモスの咲く安曇野―いわさきちひろ
新潟で考える―ゴヤ、グロッス、そしてブレヒト ほか