前回のコメント欄で約束したように、今回はバックロードホーンの音道の広がり方について解説します。もちろん、教科書は長岡鉄男氏のものですが、最も初期に位置する1975年の『別冊FA-FAN 第5号』からスキャンしてみました。もっと新しくて見やすいのもあるのですが、探すのが面倒だし、やはりオリジナルということで。
長岡氏の設計は、低域再生限界を欲張らず、開口面積が大きい量感重視タイプ。これは当時のユニットは空恐ろしいハイ上がりユニットが多く、低音の量感がないとバランスが取れなかったから。FP203のオリジナルは何を聴いても金管楽器になる面白いユニットだった。
バックロードホーンというのは、ユニットの背後から出る音を効果的に放出するものですが、空気室はホーンの効率を上げたり、スピーカーユニットの能率を上げる効果があります。これはスロートの断面積などと密接に関係し、ユニットとの相性もあるので、大半は経験値で決められています。バックロードホーンが名人芸の世界だというのは、この経験値が大きなウエイトを占めるからです。
しかし、ホーンの広がり方は純粋に数学的な計算で成り立つもので、低域再生限界をカット・オフと言い、24Hzなら10センチ進むごとに面積が1.093倍になります。自作バックロードホーンの大半は音道幅が一定のコンスタンス・ワイズス・ホーン(constant width horn)なので、単純に横から見た広がり方の変化となります。
でも、このような数学的な設計は、家の天井を超低音ホーンとするなどの、スペースが確保できるマニアにのみ通用するもので、設置スペースやキャビネットの大きさに制限を受ける普通の人には応用できません。それで、妥協点として、広がり方の違う幾つかのホーンを繋いで、低域再生限界を欲張らない設計が主流となっています。
ところで、この計算は中音や高音にも適用されるものなので、高音用のホーントゥイーターは広がり方が大きくなっています。では、なぜラッパと呼ばれる管楽器は、低音楽器ではないのに、ホーンの広がり方が少ない超低音楽器並みなのか?それは、管楽器は共鳴管としての動作が主で、指穴や弁の位置で決まる管の長さによって音域が決定されているからです。管楽器の先端のラッパは飾りに等しいのです。
管楽器の先端のラッパが飾りに等しいのは、ラッパの付いていないフルートなどで説明がつきます。管楽器のラッパがホーンとして役立つのは倍音成分に対してだけです。でも、ラッパには音を効率よく空中に伝える効果があり、口を手で覆ったり、あるいはメガホンを口に当てたりするのはこのためです。ホーンロード効果を期待しているのとは違います。
僕の耳は忍者型で、四方の敵に注意を向けるのに効果的な、側頭部に密着した形をしています。道を歩くときも音で危険を判断するタイプです。対して、長岡鉄男氏は耳が大きくて前を向く集中型です。これは狐と同じで、前方の獲物に集中するタイプなのです。この二つの耳は聞こえ方も違い、狐型の方が高音がよく聞こえます。僕は、手の平を両耳に当ててパラボラアンテナのように使うことがありますが、こうすれば高音がよく聞こえるのです。
8センチフルレンジで実験したことがありますが、ユニットの前に紙で作ったラッパを加えると、それだけで音が前に出てきて、声が聞き取りやすくなります。実際、ホーンから出る音はホーンの奥から聞こえるのではなく、ホーン出口の少し前から響いてくるようです。
なお、僕はバックロードホーンの広がり率などを厳密に計算しているわけではなく、見た目の広がり方を重視しています。広がり方がきれいだと、あとから分析しても、広がり率の良い設計となっているからです。暇な人は、10センチ進むごとにどれだけ広がるか、直管の連続として計算してみれば勉強になると思います。
追加 蔵王ホルンとミカエルの音道を比較してみました。ミカエルを作って失敗しない理由が分かると思います。ケルビムの後半は斜めカット多用ですが、それを無理に直管として計算しているので、実際より段差が大きくなっています。右クリックで画像だけを表示させると拡大します。
ピンク色は、極端に短い管を近似値の管と同一視して、広がり率を出したもの。蔵王ホルンは広がり率の小さい管楽器タイプだと分かる。
エフライム工房 平御幸
長岡氏の設計は、低域再生限界を欲張らず、開口面積が大きい量感重視タイプ。これは当時のユニットは空恐ろしいハイ上がりユニットが多く、低音の量感がないとバランスが取れなかったから。FP203のオリジナルは何を聴いても金管楽器になる面白いユニットだった。
バックロードホーンというのは、ユニットの背後から出る音を効果的に放出するものですが、空気室はホーンの効率を上げたり、スピーカーユニットの能率を上げる効果があります。これはスロートの断面積などと密接に関係し、ユニットとの相性もあるので、大半は経験値で決められています。バックロードホーンが名人芸の世界だというのは、この経験値が大きなウエイトを占めるからです。
しかし、ホーンの広がり方は純粋に数学的な計算で成り立つもので、低域再生限界をカット・オフと言い、24Hzなら10センチ進むごとに面積が1.093倍になります。自作バックロードホーンの大半は音道幅が一定のコンスタンス・ワイズス・ホーン(constant width horn)なので、単純に横から見た広がり方の変化となります。
でも、このような数学的な設計は、家の天井を超低音ホーンとするなどの、スペースが確保できるマニアにのみ通用するもので、設置スペースやキャビネットの大きさに制限を受ける普通の人には応用できません。それで、妥協点として、広がり方の違う幾つかのホーンを繋いで、低域再生限界を欲張らない設計が主流となっています。
ところで、この計算は中音や高音にも適用されるものなので、高音用のホーントゥイーターは広がり方が大きくなっています。では、なぜラッパと呼ばれる管楽器は、低音楽器ではないのに、ホーンの広がり方が少ない超低音楽器並みなのか?それは、管楽器は共鳴管としての動作が主で、指穴や弁の位置で決まる管の長さによって音域が決定されているからです。管楽器の先端のラッパは飾りに等しいのです。
管楽器の先端のラッパが飾りに等しいのは、ラッパの付いていないフルートなどで説明がつきます。管楽器のラッパがホーンとして役立つのは倍音成分に対してだけです。でも、ラッパには音を効率よく空中に伝える効果があり、口を手で覆ったり、あるいはメガホンを口に当てたりするのはこのためです。ホーンロード効果を期待しているのとは違います。
僕の耳は忍者型で、四方の敵に注意を向けるのに効果的な、側頭部に密着した形をしています。道を歩くときも音で危険を判断するタイプです。対して、長岡鉄男氏は耳が大きくて前を向く集中型です。これは狐と同じで、前方の獲物に集中するタイプなのです。この二つの耳は聞こえ方も違い、狐型の方が高音がよく聞こえます。僕は、手の平を両耳に当ててパラボラアンテナのように使うことがありますが、こうすれば高音がよく聞こえるのです。
8センチフルレンジで実験したことがありますが、ユニットの前に紙で作ったラッパを加えると、それだけで音が前に出てきて、声が聞き取りやすくなります。実際、ホーンから出る音はホーンの奥から聞こえるのではなく、ホーン出口の少し前から響いてくるようです。
なお、僕はバックロードホーンの広がり率などを厳密に計算しているわけではなく、見た目の広がり方を重視しています。広がり方がきれいだと、あとから分析しても、広がり率の良い設計となっているからです。暇な人は、10センチ進むごとにどれだけ広がるか、直管の連続として計算してみれば勉強になると思います。
追加 蔵王ホルンとミカエルの音道を比較してみました。ミカエルを作って失敗しない理由が分かると思います。ケルビムの後半は斜めカット多用ですが、それを無理に直管として計算しているので、実際より段差が大きくなっています。右クリックで画像だけを表示させると拡大します。
ピンク色は、極端に短い管を近似値の管と同一視して、広がり率を出したもの。蔵王ホルンは広がり率の小さい管楽器タイプだと分かる。
エフライム工房 平御幸