昔に大阪で教えていた頃、向こうには私立美大がたくさんありましたから、普通の大学は絶対無理という超低レベルの子供を、無理やり美術系に押し込もうという親が大勢居ました。完全に美術を誤解していますね。でも、大阪芸大なら誰でも入れますから。
美術はスーパーコンピュータが最も苦手とする分野で、いまだに強弱と勢いを付けた線を引くことができません。優れた画家が線を引く時、そこには強弱だけではなく、スピードの変化と筆圧の違いもあるのです。特に、スピードの変化はコンピュータでは数値化できません。もっとも、平山郁夫みたいな、単調で硬質な線を引くのは出来るかもしれませんが。コンピュータの描く線は、厳密に言えば線ではなくドットの集まりか、計算で出したものなのです。
しかし、コンピュータが優れている場合もあります。それは見るということです。コンピュータの目はCCDなどの個体撮像素子であり、最初から長方形の中に人間で言う網膜が収まっています。トンボなどの目は、このCCDのようなものが外に湾曲配置されたもので、大きくて重い水晶体というレンズがないので、飛ぶ時に有利な軽量化ができるのです。
CCDは、最初から四角いので、構図で形が歪(ゆが)むことはありません。水平のものを斜めに見ることはないのです。しかし、人間は水平に見ることだけで四苦八苦する生き物です。デッサンを学ぶ初心者の90%は、この水平が理解できないのです。
静物を描くとき、モチーフは正方形の台の上に置きますが、初心者はまず台の稜線の角度が違ってきます。特に、メガネを掛ける人は、フレームのラインとの相対的な角度で見るため、余計に角度が狂いやすくなります。台の稜線の角度を見る場合、イーゼルをモチーフに正対させ、イーゼルの横棒に対する角度で測るしかありません。しかも、顔は正面を向け、決して目の端で見ないという前提があります。
デッサンで形の取れない人は、姿勢が悪く、物を正面で見ないで、斜めに構えて見ています。何を見るにしても、斜めから見るのです。これは左翼脳や放射脳のように、心と霊性によって脳が偏向しているからです。
また、そのような人は、イーゼルをモチーフから遠くに置こうとします。ひどい人は、モチーフが左肩の方角に来るようにイーゼルを設置します。これでは、正しく見しようとすると、首を90度も回転させねばなりません。人はフクロウのように優秀ではないのですから、目の端で見て目の端で描き、メチャメチャに形の崩れたデッサンになります。しかし、本人は正しいと思っているのですから余計に困ります。
正しく見るためには、必ず顔をモチーフに正対させ、イーゼルはモチーフに出来る限り近付けて、目の移動距離を最小にします。その上で、常に水平線と垂直線に対する角度で測るようにします。間違って描いた台の稜線との角度で測ると、間違いの上塗りになりますが、大半の人はこれをやります。救いようがありません。
メガネをかけている人は、1インチ程度の長方形の穴を切り抜いた紙を用意し、これを左右のレンズに貼って視野を狭めます。こうすることで、歪(ひずみ)の多いレンズの端や目の端で見ることができなくなり、いやでも顔をモチーフに正対させることになります。また、常に水平線と垂直線が見えているので、角度を間違うことがありません。競馬のブリンカー効果です。
間違った形を自覚する方法ですが、普通の人は逆さまにしたり鏡に映して見る事で、間違いに気付きます。間違いの大半は左右の不均衡なので、逆さにすると不均衡が倍に拡大するからです。これでも分からない人もいるので、そのような人は、ガラスかアクリルの透明な板を用意し、その板をモチーフに正対させて、透けて見える光景をホワイトボード用のペン(要するに消せるもの)で描きます。これは透視図です。これを紙に描いたデッサンの上に置き、比較することで間違いが分かります。
デッサンは目の訓練ですが、厳密に言うと、目から入った情報を処理する脳の訓練なので、脳のシナプスが形成されるまで時間がかかります。最低でも三ヶ月は正しく見る訓練として必要です。トーンとか立体感は半年後に分かってきます。芸大レベルは二年は必要です。
何も訓練されていない日本人の九割以上が、正しく見るということができていないわけですが、美大生の大半もできていないので、むやみに落ち込む必要はありません。東京芸大の工芸科を出ていても、倒れた缶の楕円を正しく描けない人がいる世界ですから。知らなかったことを知ることが出来る。出来なかったものが出来るようになる。その第一歩が正しく見るという姿勢なのです。
ということで、姿勢の悪い人は姿勢を正すことからやり直しです。
エフライム工房 平御幸
美術はスーパーコンピュータが最も苦手とする分野で、いまだに強弱と勢いを付けた線を引くことができません。優れた画家が線を引く時、そこには強弱だけではなく、スピードの変化と筆圧の違いもあるのです。特に、スピードの変化はコンピュータでは数値化できません。もっとも、平山郁夫みたいな、単調で硬質な線を引くのは出来るかもしれませんが。コンピュータの描く線は、厳密に言えば線ではなくドットの集まりか、計算で出したものなのです。
しかし、コンピュータが優れている場合もあります。それは見るということです。コンピュータの目はCCDなどの個体撮像素子であり、最初から長方形の中に人間で言う網膜が収まっています。トンボなどの目は、このCCDのようなものが外に湾曲配置されたもので、大きくて重い水晶体というレンズがないので、飛ぶ時に有利な軽量化ができるのです。
CCDは、最初から四角いので、構図で形が歪(ゆが)むことはありません。水平のものを斜めに見ることはないのです。しかし、人間は水平に見ることだけで四苦八苦する生き物です。デッサンを学ぶ初心者の90%は、この水平が理解できないのです。
静物を描くとき、モチーフは正方形の台の上に置きますが、初心者はまず台の稜線の角度が違ってきます。特に、メガネを掛ける人は、フレームのラインとの相対的な角度で見るため、余計に角度が狂いやすくなります。台の稜線の角度を見る場合、イーゼルをモチーフに正対させ、イーゼルの横棒に対する角度で測るしかありません。しかも、顔は正面を向け、決して目の端で見ないという前提があります。
デッサンで形の取れない人は、姿勢が悪く、物を正面で見ないで、斜めに構えて見ています。何を見るにしても、斜めから見るのです。これは左翼脳や放射脳のように、心と霊性によって脳が偏向しているからです。
また、そのような人は、イーゼルをモチーフから遠くに置こうとします。ひどい人は、モチーフが左肩の方角に来るようにイーゼルを設置します。これでは、正しく見しようとすると、首を90度も回転させねばなりません。人はフクロウのように優秀ではないのですから、目の端で見て目の端で描き、メチャメチャに形の崩れたデッサンになります。しかし、本人は正しいと思っているのですから余計に困ります。
正しく見るためには、必ず顔をモチーフに正対させ、イーゼルはモチーフに出来る限り近付けて、目の移動距離を最小にします。その上で、常に水平線と垂直線に対する角度で測るようにします。間違って描いた台の稜線との角度で測ると、間違いの上塗りになりますが、大半の人はこれをやります。救いようがありません。
メガネをかけている人は、1インチ程度の長方形の穴を切り抜いた紙を用意し、これを左右のレンズに貼って視野を狭めます。こうすることで、歪(ひずみ)の多いレンズの端や目の端で見ることができなくなり、いやでも顔をモチーフに正対させることになります。また、常に水平線と垂直線が見えているので、角度を間違うことがありません。競馬のブリンカー効果です。
間違った形を自覚する方法ですが、普通の人は逆さまにしたり鏡に映して見る事で、間違いに気付きます。間違いの大半は左右の不均衡なので、逆さにすると不均衡が倍に拡大するからです。これでも分からない人もいるので、そのような人は、ガラスかアクリルの透明な板を用意し、その板をモチーフに正対させて、透けて見える光景をホワイトボード用のペン(要するに消せるもの)で描きます。これは透視図です。これを紙に描いたデッサンの上に置き、比較することで間違いが分かります。
デッサンは目の訓練ですが、厳密に言うと、目から入った情報を処理する脳の訓練なので、脳のシナプスが形成されるまで時間がかかります。最低でも三ヶ月は正しく見る訓練として必要です。トーンとか立体感は半年後に分かってきます。芸大レベルは二年は必要です。
何も訓練されていない日本人の九割以上が、正しく見るということができていないわけですが、美大生の大半もできていないので、むやみに落ち込む必要はありません。東京芸大の工芸科を出ていても、倒れた缶の楕円を正しく描けない人がいる世界ですから。知らなかったことを知ることが出来る。出来なかったものが出来るようになる。その第一歩が正しく見るという姿勢なのです。
ということで、姿勢の悪い人は姿勢を正すことからやり直しです。
エフライム工房 平御幸