コタツ評論

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捧ぐるは愛のみ

2011-10-07 01:31:00 | レンタルDVD映画
スタンリー・キューブリックをして、「私が今まで遭遇したなかで、恐らく最もぞっとして、しかし信じられる歪んだ犯罪心理の一人称小説」といわしめたジム・トンプソンの『俺の中の殺し屋』については、5年ほど前に紹介しているが、すでに映画化され、今春日本で公開されていたとは知らなかった。



TUTAYAの新作コーナーに並んだパッケージを眺めながら、傑作小説の映画化はたいてい失敗していることを思い出した。スティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」も成功とは言い難かった。ところが、嬉しい誤算。「キラー・インサイド・ミー」(THE KILLER INSIDE ME)は、原作に劣らぬ傑作だった。冷酷無残だが、愛についての映画だ。



監督:マイケル・ウィンターボトム 
出演:ケイシー・アフレック(ルー・フォード 保安官助手)
    ジェシカ・アルバ  (ジョイス・レイクランド 娼婦)
    ケイト・ハドソン  (エイミー・スタントン 婚約者)
    サイモン・ベーカー (ハワード・ヘンドリックス 郡検事)
    イライアス・コティーズ (ジョー・ロスマン 建築業組合委員長)
    ネッド・ビーティ  (チェスター・コンウェイ 建設会社社長)
    ビル・プルマン   (ビリー・ボーイ・ウォーカー 弁護士)


監督のマイケル・ウィンターボトムは、「ウェルカム・トゥ・サラエボ」(97)で注目されたイギリス映画界出身。ケイシー・アフレックは同じくアメリカ俳優のベン・アフレックの弟。兄のベンが初監督した「ゴーン・ベイビー・ゴーン」の一途な若僧探偵が印象的だった。兄以上に端整な顔立ちで、とくに相手を見据える強い眼が特徴。原作では、もっさりした田舎者のルー・フォードとはまるで違うシャープな容姿だが、その分不明瞭な喋り方でおぎない、好青年らしい白い歯が輝く笑顔を見せて、ジョイスとエイミー二人の女から愛されるのもなるほどと納得させる。ジェシカ・アルバに娼婦は意外だが、少女っぽさが返って娼婦の純情に似合った。はじめはトウが立った学校教師と見えながら、やがて妖艶さを増し、濃厚なセックスシーンを見せるケイト・ハドソンの婚約者は、原作ではジョイスの強烈な個性に隠れて陰気くさい清純派に思えたが、映画のエイミーは愛を捧げる女としてジョイス以上の存在感である。やがて、ルーを疑い出すサイモン・ベーカーの検事も意外な配役。いつもは軽薄なジゴロや浅薄な同僚役を与えられることが多いのに、今回はなかなか渋い抑え役にまわった。抑えといえば、町を牛耳る建設会社社長役のネッド・ビーティ。愚かしく滑稽なデブ役でおなじみ、たいていの人が見覚えのある豚顔を、今回はハードに引き締め、晦渋な父親を好演している。マイケル・ウィンターボトムがイギリス人監督だから、ネッド・ビーティの役どころに先入見がなかったのだろう。不思議な狂言回しは、ネッド・ビーティの建設会社社長と敵対する組合委員長のイライアス・コティーズ。「タワ言は、バカにいえ」とルーの犯罪をうすうす知りながら、ルーを助けようとするかのように立ち回る。ある意味、ルーを畏敬する使徒とも思える。ビル・プルマンはちょい役の友情出演っぽいが、「インデペンデンス・デイ」でアメリカ大統領に扮したとは思えない、エキセントリックな登場にびっくりする。近作、「サベイランス」では、やはり清純派だったジュリア・オーモンドと連続殺人鬼カップルを気持ちよさそうに演じていた。

ありふれた田舎町のありえない惨劇に、地味な俳優たちが起用されて、それぞれの持ち味をじゅうぶんに発揮した。映画史に残るとまではいえないのは、映画史のどこに残すべきなのか、わからないからだ。おもしろいかおもしろくないか、好きか嫌いか、言いよどむところがあるが、長く記憶に残る映画になるのは間違いなさそうだ。





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