コタツ評論

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平成電電の社長逮捕

2007-03-07 11:40:51 | ノンジャンル
読売新聞記事を読んだのみ、何か裏事情を知っているわけでもないが、かつて豆粒みたいな会社の資金繰りで苦しんだときを思いだした。逮捕容疑は詐欺だという。俺も金を借りて返せなかったとき、そう罵られた。


記事によると、投資目的で資金を集めながら、実際には設備投資を行わず出資の配当や運転資金などに流用する自転車操業だったという。なるほど配当金を払える裏付けがないのに、パンフレットなどで高利回りをうたって出資を募れば、詐欺になるだろう。ただし、その理屈でいくなら、2002年の創業当時から赤字を続けてきた平成電電は、外形的にはずっと詐欺会社だったことになる。

もちろん、事業上の赤字と自転車操業をひとしなみに扱うことはできない。だが、ほんとうに区別できるだろうか。騙すつもりはなかったが、当てにしていた金が入らなかったといえば、誰でも言い逃れと思うだろう。だが、そうした言い訳と言い逃れという責めのどちらも、当てにしていた金が入らなかったという結果論である。

平成電電は通信業界のガリバーNTTに、「CHOKKA」などで電話料金の「価格破壊」を挑んで負け続けた。数年前に大々的に打ち上げた日本テレコムの「おとくライン」もいまでは開店休業状態だ。誰も勝てない市場とは、誰も当てにしていた金が入らない市場ということになる。

平成電電や日本テレコムが先導した「価格破壊」のおかげで日本の電話料金は大幅に下がった。YAHOOのADSLが日本のブロードバンド料金を世界的にみても激安にした。市場とユーザーに多大な貢献をしてきたのは、ガリバーNTTではなかったことはたしかだ。

平成電電を擁護するつもりはない。どこかで一線を超えたのかもしれない。しかし、負け続けるだけで、一度もわずかな勝利すら得られない市場では、撤退すらできない。参入しなければよかった、というなら、それこそ市場経済の公平原則を無視した無責任な結果論だろう。誰もが勝てない市場を是正するのは、企業の競争力を超えた問題である。

社長が詐欺で逮捕されるのは、市場の健全な淘汰とはいえない。市場経済には参入だけでなく撤退の仕組みが必要だ。吸収合併や買収といった大株主主導の方法だけでなく、その企業が自主的に撤退を選べる仕組み。そうした仕組みは参入にさかのぼって機能するはずだ。