徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

二番目の夢(第二十四話  闇の正体 )

2005-08-04 23:55:20 | 夢の中のお話 『鬼の村』
 書斎の方でなにやら大きな音がして大塚は目が覚めた。
時計を見るとすでに鬼遣らいの当日ではあるがまだ外は真っ暗だった。

 書斎には鬼面川の相続に関する資料や文書が保管してある金庫がある。
夕べ本家に親族がふたり盗みに入って鬼に食われて死んだという連絡をもらった。
弁護士の大塚の所にもだれぞ相続に関するものを盗みに来たのか…?

 大塚は恐る恐る書斎の方へと向かった。
書斎の入り口のところに小さな男の子がいた。

 「どこの坊だ? こんな時間に…。」

 大塚は声をかけた。男の子はチラッと大塚を見ると、ばたばたと足音を響かせて庭の方へと走っていった。
 大塚も後を追った。
庭に出ると植え込みの陰から男の子はそっと覗いていた。

 「おい。 何をしとる? 子供がうろうろするような時間じゃないで。」

 そう声をかけた途端、男の子は手が伸び、足が伸び、急激に大きくなった。
怖ろしい形相を見て大塚は思わず叫んだ。

 「お…鬼じゃ! どでかい鬼じゃ!」

 大塚は腰を抜かした。迫ってくる鬼にめがけて、その辺にある物を手当たり次第投げたが鬼にはかすりもしない。

 鬼は大塚を捕まえ、びゅんびゅん振り回すと地面にたたきつけた。
その一撃で大塚はのびてしまった。

 「弁護士さん! 」

 修が駆け寄ったとき全く意識はなく、ほかっておけばあの世行きだった。

 「隆平! ちょっと時間を稼いで! 手当するから!」

 修に言われて隆平は鬼の前に立ったものの、その大きさと奇怪さに圧倒された。
鬼は隆平に向かって鋭い爪のついた腕を伸ばしてきた。捕まる寸前、隆平は逃れた。
 そんなことを繰り返すうち、鬼はいらいらしたのか身体ごと飛びついて来た。
それも外れた。

 「隆…平…。 」

押し殺したような声が鬼の口から漏れた。隆平は愕然とした。

 「父さん…?」

 「隆平…俺を…殺し…た…。 」

隆平の心臓の動きが激しくなった。金縛りにあったように動けなくなった。

 「違う…僕じゃない。 僕じゃない…。」

 鬼は牙を向いて襲い掛かってきた。隆平は必死で逃れようと向きを変えた。
鮫のような特大の口が隆平の胴を捕らえた。
 腹部に激しい痛みを覚えて隆平は思わず声を上げた。
鬼はぎりぎりと音を立てて隆平の胴を噛み砕こうとした。

 屋敷の外で魔物を消していた孝太がかけつけ、鬼に喰われそうになっている隆平を見つけた。孝太は鬼に突進した。
鬼は隆平を銜えたまま孝太をはたき飛ばした。
孝太は怯まず、鬼の目をめがけ霊波の矢を立て続けに飛ばした。

 威力こそないが無数の矢に顔を狙われたことで、鬼は反射的に口を開き隆平を落とした。
 動けない隆平を庇って孝太は鬼の前に飛び出した。
鬼の牙が孝太の肩口から腹にかけて突き刺さった。

 「逃げろ! 隆平! 早く!」

 隆平は何とか起き上がろうともがいた。

 「孝太兄ちゃん…! 誰か助けて!」
 
隆平が叫んだ。

 「いつまでも…他人に頼ってちゃ生き延びれないよ。 」

 背後から大塚の応急処置を終えた修が近付いてきた。

 「そろそろ自分の力に目覚めなきゃね…。」

修は隆平を通り越し、鬼の間近へ歩み寄った。

 鬼は怪訝な顔をして、近付いてきた修を見た。
修の手が軽く鬼の身体に触れた瞬間、孝太の身体が地面に投げ出された。

 修に掴みかかろうと鬼が両手を振り上げたその時、鬼の身体が一瞬点描の絵のように見えた。
 まるでダイヤモンドダストを見ているようにきらきらと鬼の身体は光の塵となって宙を舞った。

 孝太も隆平も修の桁違いの力を見せ付けられて言葉を失った。

 修は二人の方に目を向けると何事もなかったかのように微笑んだ。

 「ちょっと痛かったでしょう。 戦いに怪我はつきものですが、戦い慣れてくればそのうち怪我も少なくなりますよ。 」

そんなことを言いながら修は孝太と隆平の身体に触れ、鬼に噛まれた傷を癒した。
『いや痛いとかそういう問題じゃないんだが…。 へたすりゃ死んでるし…。』と二人は思った。

 「さあ…早くここを出ましょう。 大塚が正気に戻る前に…。

 どうやら 敵は大塚の家族を眠らせてから攻撃を開始したようです。
当人だけを狙うとはわりと紳士的じゃありませんか…。」



 最終地点、鬼の頭の塚に向かう途中で、透たちと彰久たちは合流し、途中、行き掛かり上朝子と秀夫の通夜をしている本家に立ち寄った。

 彰久には気がかりなことがあった。今までの証言ではすべて末松が裏で操っているように言われていた。あの先代の愛人の話も孝太も本気でそう考えているようだった。
 しかし、彰久にはあの末松という老人にそれほどの力があるとは思えない。
多分そのことには修も気が付いているだろう。もし末松にそんな力があるとすれば修は見過ごしたりはしない。真っ先に気付いて警戒するはずだ。

 数増と加代子が世話をしていたが、時間も時間だが、さすがに盗みに入った者の通夜では誰も見舞いになど来ていなかった。

 「ここまで来るとな…さすがの爺さまもがっくりだわ。 」

数増は忌々しげに言った。座敷で小さくなっている末松の姿が見えた。

 「大叔父さまに至急お話しを伺いたいんですが…大丈夫ですか?
もう夜も明けようという時間ですが…。」

彰久が訊ねた。

 「ええて。 どうせ寝られやせんし。 」

 数増は皆を座敷へ通した。その途中、こっそり透に訊ねた。
『えろう別嬪さんがござるがどちらさん? 』『ああ…修さんの嫁さんです。』
数増はまじまじと笙子を見た。笙子は艶っぽい笑みを浮かべた。
『へえ~。あの御仁はわりと粋なお方とみえる。この手の美女がお好みか…。』

彰久は末松の前に腰を下ろした。

 「お疲れのところ申し訳ないのですがお話しいただけますか?」
  
末松は彰久の方へ顔を向けた。

 「おまえが聞きたいのは…わしの兄弟のことだな…。 久松のことだろう?」

彰久は驚いたように末松の顔を見た。

 「何…そのくらいの小さな力はわしにもあるわ。 
久松はな…わしの双子の兄だ。 とうに亡くなったが…。 魂はここにおる。

 自殺したのでな。 逝くべきところへ逝けぬのよ。
最初の災害でわしは前の妻と娘を失った…。 久松もな…妻子を亡くした。

 わしはこういう性格だで立ち直ったが、久松は後を追ってしまったんだわ。
だが…自殺した者は妻子のもとへは逝けん。 

 その魂は救われることもなく、未だ恨みと憎しみの中におる。 」
 
 末松はふうっと溜息をついた。

 「久松の力は将平の再来と言われるほどだった。 
わしらは瓜二つだで…誤解されるが大きい力を持っていたのは久松の方だ。 
当代に長の地位を横取りされたのも…な…。 」

 彰久はなるほどと思った。すでに亡くなっている久松が何か仕出かせば、それはすべて末松がやったように見えてしまう。
先代の愛人や孝太が誤解したのも無理はない。

 魔物を生み出し鬼を操る闇の正体は自殺した男の恨みと憎しみ。
復讐にすべてをかけることでしか満たされない無念の思い…。

彰久はこの救われぬ魂に悲しいものを感じた。

急がなくては…夜が明けてしまう。

その男の魂を観光客でいっぱいの鬼遣らいで暴れさせるわけにはいかない。

彰久は皆を促してその場を後にした。




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二番目の夢(第二十三話  華翁の剣)

2005-08-04 00:04:18 | 夢の中のお話 『鬼の村』
 「それほどの数じゃないといってた割にはうじゃうじゃといるじゃないの。」

透は呆れたように言った。まるで飴に集る蟻。稲に集るイナゴ。

 「また増えちゃったのね~って。こんなん増やして時間稼ぎかよ。」

 雅人はたいして力のない魔物が多いことに気付いていた。多分、村長や弁護士の所へ強力な奴を送ってるのだろう。この小物たちは足止めを食わせるための道具に過ぎない。

 透も雅人も一度に何匹もの魔物を消滅させながら進んでいった。

 「まあ村長ん家も、弁護士ん家もどこにあるのか分かんないからさ…。
取り敢えずはこいつら全部消しちゃえばいいんだろう。」

雅人は辺りの魔物をまとめて消そうと力のレベルを上げた。

 「待って! あそこに何か…子どもがいるような…。」

透が指差す方を見ると、本当に女の子のような白い影が見えた。

 「まさか…こんな時間に子どもがうろうろしているわけがないぜ。」

雅人は修の言葉を思い出していた。『嬰児の力は侮れない…。』

 「透。油断するな。あれは紫峰の鍵を破ったやつのひとりだと思う。」

透は頷いた。女の子はちょこちょこと二人の方へ駆けてきた。

 「人間だな…? 」

女の子は訊いた。獣のようにくんくんと鼻を鳴らし、匂いを嗅いでいるようだ。

 「鍵の匂いがする。 封印の匂いがする。 あたしを閉じ込めた奴だな! 」

女の子の姿は見る間に大きくなり、形相が変わり、鬼と化していった。
人間としては大きい方の雅人と比べてもゆうに2倍はあろうか。
長い牙と爪を持ち、丸太のような腕をぶんぶんと振り回して透たちに襲い掛かる。

 どでかい図体のわりに動きは俊敏で、少しでも油断したらあの腕でぶっ飛ばされそうだ。鬼はそこいらの魔物を掴みあげると、まるで石でも投げるかのように透や雅人をめがけ投げつける。

 鬼の動きに扇動されてか魔物がいっせいに二人に向かって飛び掛ってきた。
多勢に無勢、魔物たちを消すのに手間取ってなかなか鬼に攻撃できない。
鬼の投げつける魔物が時折、二人の身体をかすめ、受ける傷も増えてきた。

 「くっそ~。 いっぺんに吹っ飛ばしてやるぜ! 」

透が気を集中し始めた。

 「きりがねえや! どんどん沸いて出て来る。 透。同時にいくぞ。」

雅人は透に気を合わせた。

 「よっしゃ! せえの!」

 二人の身体から周囲に放たれた霊波が魔物たちを砕いた。
辺りがきれいさっぱり片付いた。

 「やったね! 」

 透がそう言うか言わないかのうちに、突然、彼らの背後から鬼の丸太が二人の首を締めてきた。頑丈な丸太の腕は透や雅人がどうあがいてもはずせそうになかった。ぐいぐいと締め付けられて息ができず、気が遠くなりそうだった。

 「消えなさい! 」

 背後からどこかで聞いたような女の声がした。
鬼は断末魔の悲鳴を上げると一瞬膨れ上がり、粉々に砕け散って塵と化した。
同時に、透と雅人は地面に投げ出された。

 「油断大敵よ…。 坊やたち…。」

はっとして振り返ると笙子が嫣然と微笑んで立っていた。

 「笙子さん! いつ来たの? 」

 「何時って…修と一緒に来たわよ。 聞いてなかった? 」

二人はぶんぶんと首を横に振った。
笙子は肩をすくめた。

 「これだもの…。 
ずいぶん長いことほかりっぱなしにされてるなとは思ったのよね。 
忘れられてるのね。 」

 笙子はわざと嘆いて見せた。
見ている二人は思った。『ふ~ん…たまには逆もありなんだ…。』

 「ま…いいわ。 先を急ぎましょう…。」

笙子が二人を促した。



 塚という塚が破られているのを目の当たりにした時、西野はこれは厄介なことになったと感じた。
 足の踏み場もないとはこのことか。まるで鬼の髪の毛一本一本まで魔物に変えたのかと思えるほどの魔物の数である。

 「村長の屋敷がこの向こうにあるはずですが、こいつらを何とかしなければたどりつけませんね。」

 西野は彰久に言った。

 「まずは掃除をということでしょう。 では史朗くん。 いきますよ。」

 彰久はそう言って史朗に微笑みかけた。
史朗も微笑んで返した。

 西野の不安はこの史朗という青年。
戦いのたの字もしたことのなさそうな普通の営業マン。『大丈夫かなあ…。』
宗主は別に問題なしと見ているようだが…。

 何しろ、修という人は物凄く大人である反面、物凄く子供みたいなところがあってお仕えする身としては戸惑うこともしばしば…。
『ま…人を見る目はある人だから…。 』 
 
 西野は取り敢えず、様子を見ながら戦うことにした。

 一匹の魔物が宙を飛び彰久に向かってきた。彰久は事も無げに消し飛ばした。
それを合図にあちらからこちらから魔物たちが襲い掛かってきた。 

 史朗の方へ一群が向かった時、西野はまずいと思った。
慌てて史朗の方へ向かった西野の目の前で何か刃物のような物が閃いた。
魔物の一群はあっけなく粉砕された。

 『うそだろ。』西野は我が目を疑った。

 史朗の手にはいつの間にか剣が握られていた。
それは鬼面川に代々伝わる華翁の剣で、かなりの曲者であるため、よほどの手足れでなければ扱えない代物だった。
 鬼将のように特別な力を持たない華翁はこの剣を使いこなすことによって鬼将に勝るとも劣らない伝説の人となったのである。
  
 今の史朗にそれが扱えるのは不思議だがこれも生まれ変わりのなせる業なのか。
しかもこの剣は自らの意思で史朗の手の中に現れたとしか考えられない。

 史朗はさながら舞うように剣を閃かせ魔物を退治していく。
この動きの優雅さは修にも彰久にもない独特のものだ。
幼少期より、人々は閑平の剣を操るその姿を華と譬え、老成したその動きを翁と譬えた。華翁と呼ばれる所以である。

 西野の不安は消し飛んだ。

 雑魚の魔物はあっという間に片付いた。
三人は村長の屋敷へと向かった。すでに魔物が入り込んでいると見えて、村長の屋敷からは何かに驚いたような叫び声が聞こえてきた。

 急いで声のした方へ行くと、村長と妻はショックで気を失っており、その前に鬼が立っていた。
 彰久たちの姿を見ると、鬼はいきなり太い腕を振り回し襲い掛かって来た。
思ったよりすばやいその動きに一瞬身体を捉えられそうになったものの、辛うじて交わし彰久が鬼を消し飛ばした。


 「早く…村長が目を覚まさないうちに行きましょう。」

 西野は手招きした。村長が起きている時なら村長と妻の記憶を操作しなければならないが、のびてしまっているなら夢でも見たんでしょうって事で…。

 彰久も史朗も急ぎその場を後にした。





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