徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

二番目の夢(第二十三話  華翁の剣)

2005-08-04 00:04:18 | 夢の中のお話 『鬼の村』
 「それほどの数じゃないといってた割にはうじゃうじゃといるじゃないの。」

透は呆れたように言った。まるで飴に集る蟻。稲に集るイナゴ。

 「また増えちゃったのね~って。こんなん増やして時間稼ぎかよ。」

 雅人はたいして力のない魔物が多いことに気付いていた。多分、村長や弁護士の所へ強力な奴を送ってるのだろう。この小物たちは足止めを食わせるための道具に過ぎない。

 透も雅人も一度に何匹もの魔物を消滅させながら進んでいった。

 「まあ村長ん家も、弁護士ん家もどこにあるのか分かんないからさ…。
取り敢えずはこいつら全部消しちゃえばいいんだろう。」

雅人は辺りの魔物をまとめて消そうと力のレベルを上げた。

 「待って! あそこに何か…子どもがいるような…。」

透が指差す方を見ると、本当に女の子のような白い影が見えた。

 「まさか…こんな時間に子どもがうろうろしているわけがないぜ。」

雅人は修の言葉を思い出していた。『嬰児の力は侮れない…。』

 「透。油断するな。あれは紫峰の鍵を破ったやつのひとりだと思う。」

透は頷いた。女の子はちょこちょこと二人の方へ駆けてきた。

 「人間だな…? 」

女の子は訊いた。獣のようにくんくんと鼻を鳴らし、匂いを嗅いでいるようだ。

 「鍵の匂いがする。 封印の匂いがする。 あたしを閉じ込めた奴だな! 」

女の子の姿は見る間に大きくなり、形相が変わり、鬼と化していった。
人間としては大きい方の雅人と比べてもゆうに2倍はあろうか。
長い牙と爪を持ち、丸太のような腕をぶんぶんと振り回して透たちに襲い掛かる。

 どでかい図体のわりに動きは俊敏で、少しでも油断したらあの腕でぶっ飛ばされそうだ。鬼はそこいらの魔物を掴みあげると、まるで石でも投げるかのように透や雅人をめがけ投げつける。

 鬼の動きに扇動されてか魔物がいっせいに二人に向かって飛び掛ってきた。
多勢に無勢、魔物たちを消すのに手間取ってなかなか鬼に攻撃できない。
鬼の投げつける魔物が時折、二人の身体をかすめ、受ける傷も増えてきた。

 「くっそ~。 いっぺんに吹っ飛ばしてやるぜ! 」

透が気を集中し始めた。

 「きりがねえや! どんどん沸いて出て来る。 透。同時にいくぞ。」

雅人は透に気を合わせた。

 「よっしゃ! せえの!」

 二人の身体から周囲に放たれた霊波が魔物たちを砕いた。
辺りがきれいさっぱり片付いた。

 「やったね! 」

 透がそう言うか言わないかのうちに、突然、彼らの背後から鬼の丸太が二人の首を締めてきた。頑丈な丸太の腕は透や雅人がどうあがいてもはずせそうになかった。ぐいぐいと締め付けられて息ができず、気が遠くなりそうだった。

 「消えなさい! 」

 背後からどこかで聞いたような女の声がした。
鬼は断末魔の悲鳴を上げると一瞬膨れ上がり、粉々に砕け散って塵と化した。
同時に、透と雅人は地面に投げ出された。

 「油断大敵よ…。 坊やたち…。」

はっとして振り返ると笙子が嫣然と微笑んで立っていた。

 「笙子さん! いつ来たの? 」

 「何時って…修と一緒に来たわよ。 聞いてなかった? 」

二人はぶんぶんと首を横に振った。
笙子は肩をすくめた。

 「これだもの…。 
ずいぶん長いことほかりっぱなしにされてるなとは思ったのよね。 
忘れられてるのね。 」

 笙子はわざと嘆いて見せた。
見ている二人は思った。『ふ~ん…たまには逆もありなんだ…。』

 「ま…いいわ。 先を急ぎましょう…。」

笙子が二人を促した。



 塚という塚が破られているのを目の当たりにした時、西野はこれは厄介なことになったと感じた。
 足の踏み場もないとはこのことか。まるで鬼の髪の毛一本一本まで魔物に変えたのかと思えるほどの魔物の数である。

 「村長の屋敷がこの向こうにあるはずですが、こいつらを何とかしなければたどりつけませんね。」

 西野は彰久に言った。

 「まずは掃除をということでしょう。 では史朗くん。 いきますよ。」

 彰久はそう言って史朗に微笑みかけた。
史朗も微笑んで返した。

 西野の不安はこの史朗という青年。
戦いのたの字もしたことのなさそうな普通の営業マン。『大丈夫かなあ…。』
宗主は別に問題なしと見ているようだが…。

 何しろ、修という人は物凄く大人である反面、物凄く子供みたいなところがあってお仕えする身としては戸惑うこともしばしば…。
『ま…人を見る目はある人だから…。 』 
 
 西野は取り敢えず、様子を見ながら戦うことにした。

 一匹の魔物が宙を飛び彰久に向かってきた。彰久は事も無げに消し飛ばした。
それを合図にあちらからこちらから魔物たちが襲い掛かってきた。 

 史朗の方へ一群が向かった時、西野はまずいと思った。
慌てて史朗の方へ向かった西野の目の前で何か刃物のような物が閃いた。
魔物の一群はあっけなく粉砕された。

 『うそだろ。』西野は我が目を疑った。

 史朗の手にはいつの間にか剣が握られていた。
それは鬼面川に代々伝わる華翁の剣で、かなりの曲者であるため、よほどの手足れでなければ扱えない代物だった。
 鬼将のように特別な力を持たない華翁はこの剣を使いこなすことによって鬼将に勝るとも劣らない伝説の人となったのである。
  
 今の史朗にそれが扱えるのは不思議だがこれも生まれ変わりのなせる業なのか。
しかもこの剣は自らの意思で史朗の手の中に現れたとしか考えられない。

 史朗はさながら舞うように剣を閃かせ魔物を退治していく。
この動きの優雅さは修にも彰久にもない独特のものだ。
幼少期より、人々は閑平の剣を操るその姿を華と譬え、老成したその動きを翁と譬えた。華翁と呼ばれる所以である。

 西野の不安は消し飛んだ。

 雑魚の魔物はあっという間に片付いた。
三人は村長の屋敷へと向かった。すでに魔物が入り込んでいると見えて、村長の屋敷からは何かに驚いたような叫び声が聞こえてきた。

 急いで声のした方へ行くと、村長と妻はショックで気を失っており、その前に鬼が立っていた。
 彰久たちの姿を見ると、鬼はいきなり太い腕を振り回し襲い掛かって来た。
思ったよりすばやいその動きに一瞬身体を捉えられそうになったものの、辛うじて交わし彰久が鬼を消し飛ばした。


 「早く…村長が目を覚まさないうちに行きましょう。」

 西野は手招きした。村長が起きている時なら村長と妻の記憶を操作しなければならないが、のびてしまっているなら夢でも見たんでしょうって事で…。

 彰久も史朗も急ぎその場を後にした。





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