自律神経失調症の全身症状として最も多くの人が訴えるのが、倦怠感 疲労感です。
倦怠感、疲労感に加え、全身に力が入らないなどの不調がみられます。はたして独立疾患であるかどうか疑われている「慢性疲労症候群」や「うつ病」の初期症状としても注目されます。病院を受診しても「疲れが溜まっているんでしょうから、栄養剤の点滴をしておきましょう。」と言われ、500ccから1000ccの点滴を受けることが多いのですが、実際は点滴が必要な細胞外液の不足があるほどの脱水症はほとんど無いのです。ではなぜ点滴をするかといえば、他に即効性がある有効な治療法がないからです。ある意味、その場で「お茶を濁す」的な対症療法です。加えて、疲労感が無くなったとか、体が軽くなったとかという患者さんの喜びの声もほとんどありません。点滴依存の現状は「病院に行けば点滴をしてもらえる」という患者さんの思い込みと、「他に方法がないから点滴ですます」という「なんとなくのコンセンサス」ででき出来上がった結果でありますが、効果は不十分ですし、治療目的もあいまいなものです。
私はあまり点滴もしないし、ビタミン剤や抗うつ剤も処方しません。まず、最初に漢方薬を処方します。私の漢方の考え方を述べたいと思います。
まず、疲労 倦怠感の著しい「慢性疲労症候群」をモデルに論を進めます。
慢性疲労症候群
慢性疲労症候群とは、これまで健康に生活していた人が原因不明の強い全身倦怠感(体に鉛をつめられたような倦怠感とたとえられています)、微熱、脱力感や、頭痛、思考力の低下、抑うつ等の精神神経症状などが起こり、長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという状態をいいます。現在、日本には20万人の患者がいると推定されています。原因は不明で、ウイルス感染やストレスの蓄積が引き金となって、免疫、神経、ホルモン調節の異常が起きると推定されています。以上の症状を自律神経失調症やうつ病の諸症状と照らし合わせると、一致しないところを見出すのが困難であるほど共通しています。
私の治療方針
中国医学では慢性疲労は気血が不足するためおきると考えます。「脾は後天の元であり、気血を生化し、四肢を主る(つかさどる)」といいます。慢性疲労は脾気虚と関係がもっとも深く、脾気虚は「清陽不升 濁陰不降」という病態を起こします。病気が進行すると(これを久病といいます)、腎に影響が及んで治りにくくなります(久病及腎といいます)。さらに「久病挟瘀」「痰成怪病」といい、瘀血や痰飲などの病理産物が体にたまると病状が悪化します。治療としては脾気を補い清気を上昇させます。病態に応じて腎精を補い、瘀血や痰飲を除きます。一般的に、
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)加減を行います。
脾気を補う人参、黄耆、白朮、炙甘草などと清気を上昇させる柴胡、升麻などを基本にします。
補中益気湯(脾胃論):黄耆が君薬です。
組成:黄耆15~30g人参9白朮9炙甘草6 柴胡3升麻3 当帰9陳皮6
水煎服用するか或いは一日2~3回9~15gの丸剤を服用します。
効能:補中益気 昇陽挙陥 甘温除大熱
疲れすぎて発熱するような場合にもまずは試していい方剤です。
ただ漫然と出来合いのエキス剤を処方するのではなく、患者の状態に合わせて細かく微調整します。
瘀血があるときは丹参、当帰、桃仁、紅花などを、痰飲があるときは半夏、茯苓、陳皮などを、腎精不足が見られるときは地黄、山薬、枸杞子、巴戟天、仙霊脾、海馬、鹿茸、紫荷車などを併用します。微熱が続くときは、生地、地骨皮、銀柴胡、亀板、鼈甲などを、冷えが強いときは炮附子、肉桂などを、関節痛がひどいときは杜仲、桑寄生、骨碎補などを併用します。うつ病あるいは自律神経失調症の患者さんには原因不明の筋肉、関節痛を訴える方がいらっしゃいます。これに対しては寒湿が原因なのか瘀血が原因なのか腎虚が原因なのかを弁証して処方を加減します。
一般内科では十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)を処方されることもあります。
十全大補湯(太平恵民和剤局方):党参 茯苓 白朮 炙甘草 当帰 熟地 白芍 黄耆肉桂
十全大補湯は気血双補の方剤ですが、私は人参養栄湯(にんじんようえいとう)をよく用います。
人参養栄湯(太平恵民和剤局方):十全大補湯(八珍湯+黄耆肉桂)から川芎を除き遠志五味子陳皮を加
党参茯苓白朮炙甘草当帰熟地白芍黄耆肉桂 遠志五味子陳皮
精神安定作用のある遠志が配合されています。
精力低下し、腎精不足が考えられる場合には海馬補腎丸(かいばほじんがん)などを併用します。
眠りが浅く、胸苦しさが慢性的に伴う場合には温胆湯(うんたんとう)加減を併用すると効果的です。
温胆湯(備急千金用方):半夏 陳皮 茯苓 炙甘草 竹茹 枳実 生姜
注意すべきことは、自己判断で「慢性疲労症候群」と即断して、薬店などで薬を買い求めないことです。証に合わなければ、かえって症状を悪化させることになります。あくまでも、漢方専門医に相談のうえ、ご自分の証に合った処方をしてもらうようにしてください。
私論ではありますが、頭から漢方治療を否定されるような診療内科、精神科、或いは一般内科の医師を受診されることはお止めになった方がいいのです。
患者さんに出された処方箋を見ると「これを全部服用しているんですか?」と驚くような大量の睡眠剤、抗不安薬、抗うつ薬の処方が目立ちます。
倦怠感 疲労感などが改善した例はごくごく少数です。
漢方治療の有効性と安全性について再認識される時代になってきていると思います。
「自律神経失調症、うつ病のお問い合わせ」は下記URLより
http://okamotokojindou.com/ 岡本康仁堂クリニック