ネット広告では簡単に治るように宣伝しているが、そんなに簡単じゃ「医者は要らない」といいたくなる
ネット広告の大半は誇大広告?
薬局で手軽に買える薬で本当に耳鳴りが消えるのか?
中国医学の考え方
中国医学では、「腎は耳に開く」といいます。また耳は肝胆の経絡ともつながっています。急性の耳鳴りの場合は肝の異状が多く、慢性の耳鳴りは腎の異常が多いと中医学は考えます。
急性の耳鳴り、難聴は前庭神経炎などで、西洋医学的に治療をすることが現代日本の現状です。
しかし、慢性の耳鳴や難聴に対しては効果的な西洋医学の治療が無いのも事実。漢方はこの分野でとくに力を発揮します。治療は補腎を原則にします。補腎作用の熟地黄、山薬、山茱萸、拘杞子、菟絲子、何首烏などに磁石などをあわせて使います。
イライラが強いときには柴胡、郁金、芍薬、黄芩、川楝子などを併用します。
陽虚タイプの冷え性の人には炮附子、桂皮、仙霊脾、巴戟天、肉従蓉などを併用します。
淤血(おけつ)が関与する場合には丹参、川芎、地竜などを併用します。
痰濁が合併した場合には、半夏、陳皮、茯苓、枳壳、竹茹などを併用します。
中国の市販薬としては耳聾左慈丸(じろうさじがん)、耳鳴丸(じめいがん)があります。
イライラが強く、不眠傾向があれば、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、抑肝散(よくがんさん)などを併用します。
陽虚ぎみで冷え症タイプには八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、海馬補腎丸(かいばほじんがん)を使います。
これら大半は、中国で市販されている中成薬ですが、中国人自身も確実な効果を望む場合には、中医(漢方専門医)を受診ます。自分の証に合わせて生薬を調合してもらうことが大切だと知っているからです。
古来より耳鳴りの治療ほど難しいものは無いといわれています。売店で買える薬剤で耳鳴りが消失したら、それこそ西洋医も中医も要らないのです。薬剤師さんの多くは漢方薬に対して殆ど正確な知識がありません。加えて中国市販薬などにももちろん疎いのが現状。中医学に対してはまったくの無知に近いのが現代日本の状況です。
巷では漢方薬が溢れています。薬局に行けば、薬剤師さんが漢方薬を進めてくれる場合も多いのですが、きちんと 一通り 漢方を勉強した薬剤師さんに相談するのがいいでしょう。 病院でも漢方薬は溢れています。しかし、残念ながら きちんと 一通り 漢方を勉強した医師が非常に少ないのが実情です。初心者マークすら付けられない無免許運転に近い処方がされています。
私自身の経験では耳鳴りは大変難しい。治療がうまくいった時の喜びはひとしおです。比較的治療が奏効した症例を述べます。
73歳 耳鳴り、冷え症、夜間頻尿など老人症状が改善した佐○さんの場合
佐○さんは体の動揺感、白内障、耳鳴りなどで耳鼻咽喉科と眼科に通院中でした。腰痛で整形外科に、頻尿膀胱炎などで内科にと、1週間のうち4日は医院通いをしていました。薬局で耳鳴丸を手に入れて服用しても耳鳴りは止まず、頭がぼんやりするようで、ボーっとした頭痛もあるために、初診となりました。
腰痛 冷え症 夜間頻尿などは、腎虚とくに腎陽虚の典型的な証です。ボーっとするような頭痛を中医は空痛といいます。脳は髄海と称し、腎は髄をつかさどるといい、腎精不足になると空痛が出現します。体の動揺感は腎陽が不足するために寒湿水飲が内停するために起こります。すべては腎精不足(老化)特に、腎陽の虚衰で説明できる症状です。老年期は、腎陰も不足しています。不足した陰と不足した陽のバランスの中で、陽気が更に不足した状態です。
このような場合は、陰陽の少しのアンバランスで陰盛陽虚に傾いたり、
逆に陰虚陽盛になりやすいのです。腎陽を補うだけでなく、腎陰も補い、両者の底力を増すことが大切です。熟地 山薬 山茱萸 菟絲子など補腎薬に、温腎補陽の鹿茸、肉従蓉、冬虫夏草(とうちゅうかそう)を加味、炮附子 枸杞子 当帰 などの温裏、補陰血の作用をもつ薬剤を加え、強筋骨の目的で杜仲 桑寄生を、さらに多尿に対しては固精縮尿を目的に桑螵蛸を加味しました。一時期、体の動揺感があったので、茯苓 白?などの健脾利湿剤を併用しました。高価な鹿茸(ろくじょう)は茶碗蒸しにいれて食べるようして、同じく高価な冬虫夏草は粉末にして山薬と一緒にカプセル服用していただきました。
治療開始後3ヶ月で、耳鳴りは3分の1程度に改善、冷え症、夜間頻尿、腰痛、体の動揺感、頭痛はことごとく消失しました。白内障の進行もとまっています。半年後には耳鳴りも消失しました。
56歳 会社社長 交互に出現する激しい耳鳴りの症例
Kさんは48歳から49歳にかけての1年間、両耳に飛行機の爆音のような耳鳴りがあって、ステロイド内服、血流改善剤内服、神経機能回復剤などの注射を受けたそうですが、一向に改善せず、とうとう50歳を期に一時期休職し、海外に転地療養しました。
その後、自然と耳鳴りが消失し、53歳時に復職し、順調な経過でしたが、2006年度の決算期に再び左の耳鳴りが始まり、耳鼻科受診、注射と投薬を受け、いったんは消失。しかし今度は右に耳鳴りが出現。やはり飛行機の低爆音のような耳鳴りで、1週間ほど続いた後は両耳に出現し、耳鳴りの音にキーンとする金属音が混じるようになりました。
薬局で「男の更年期障害」だといわれて八味地黄丸と○○蛇精を薦められて服用したところ、口渇が酷くなり、耳鳴りも一向に改善しないので初診となりました。
脈診で弦数やや滑、舌診で舌自体がやや赤く、苔が厚く、淤斑が陽性。不眠傾向もありデパスを服用中とのことでした。肝郁気滞 肝郁化火傾向 心神不寧 痰湿内阻の診断で、柴胡 茯苓 半夏 陳皮 大黄 桂枝 珍珠 磁石 竜骨 牡蠣 大棗で治療開始。2日後半分程度に耳鳴りが減弱。天南星 天麻 丹参 遠志 白朮を加味し、更に2日後左耳鳴り消失、翌日右耳鳴り消失。治療開始後計5日間で耳鳴りが消失しました。
一般に耳鳴りの治療には難儀することが多いのだが、たまには以上のような劇的な奏効例も存在することを強調したい。
続く、、